#女たち #短編小説 #超短編 Vol.13
ハリシャ(Harisha)の場合
ディパバリが終わってもうすぐで2ヶ月になるが、部屋の窓に飾ったショッキングピンクのイルミネーションは片付けずそのままにしている。
私が生まれてからすぐに父が病で亡くなり、
女手ひとつで私を育ててくれた母も5年前に亡くなった。
リトルインディアにある美容室に勤めている。
コロナで他のスタッフは辞めてしまい、今は、たまにしか顔を出さないこの店のオーナーと私だけだ。
シャンプーはもちろん、カットやパーマ、セットの他に、花嫁の手に描くヘナの植物を使ったメヘンディもやっている。
一人で全て対応しているが、客はほとんどがインド人系シンガポール人の常連客だし、店が予約でいっぱいになる事はないので、気楽だ。
今日は珍しく新規のお客様からメヘンディの予約の電話があった。
聞き馴染みのない名前の発音に、何回か聞き返してしまった。
日本人の女性と話すのは初めてだった。
「純粋」という意味を持つ蓮の花。
彼女の手に、蓮の花のメヘンディを施す私の手元を見て、ケーキにチョコレートをデコレーションしているみたいだと言った。
確かに、紅茶で溶いたヘナのペーストは、
チョコレートのようだったし、彼女の白い手はミルクのスポンジケーキに見える。
二人で、そうだねと笑った。
彼女にメヘンディを施している間、立て続けに新規の予約の電話が3つ入った。
メヘンディを描き終えると、彼女はとても喜んで何度もお礼を言って店を出た。
その後不思議な事に、閉店まで客が途絶えなかった。
大変だったが久しぶりに私の心も店も活気を取り戻した。
もしかしたらあの日本人の彼女は、ガネーシャの使いかもしれないと思った。
いや、そんな筈はないな。
いつか日本に行ってみたくなった。
また彼女が来店してくれたらいいなと
思った。
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