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巨悪なる新自由主義(3)

(4)何故こんなに浸透したのか

■カモフラージュ戦略:
・発展途上国モデルはともかく、サッチャーやレーガンなどは民主主義的な手法で達成されなければならなかったはずですが、何故こんなにうまく行ったのか?
・それは、文化的・伝統的価値観を表面に纏わせ、真の意図を隠蔽したから。「エリートの個人的欲望」ではなく、「個人的自由の大義を前進させる試み」と称して、人々を騙した。特に「自由」という言葉はあらゆるものを正当化する魔力を持つ。個人的自由を最重要視する運動は新自由主義にとらわれやすい。自由を最上位に持っていくと必然的に無秩序となり(ポストモダンみたいな何でもあり状態)、結局その上に何らかの(場合によっては暴力による)コントロールが生まれてしまうことに気づかない。
・新自由主義者は前段階として個人主義、個人的選択の自由を持ち上げて煽る。個人的自由を乗っ取り、国家介入・規制への対立物に見せることで資本家階級は自分たちを守ることが出来た。

■手段
・手段としてはシンクタンクを組織(財源は大企業)し権威付けを行い論文や書籍を溢れ返させ、メディアと知識人インフルエンサーの獲得し、世論の機運を盛り上げる。
・1970年以降は更に手段は洗練され、立法分野にも進出し始めた。1976年最高裁決定で、個人(=法人)が政党や政治活動に無制限の献金が可能となったことで、手始めに政治行動員会(PACs)を形成した。これにより二大政党のどちらをも財政的に支配することも可能になった。
・更にレーガンは「鞭」と「飴」を使い労働者を洗脳していった。
【鞭】
  -労働者に対する規制以外のあらゆる規制は悪いもの。
  -税法を改正して企業が一切税金を払わずに済ませることを可能にした。
  -個人の最高税率を70%→28%に激減させた。
  -公的資源が民間につぎ込まれた
  (例:1978年に製薬会社は国に一切還元することなく特許権が使えた)
  -全国レベルで労働組合を叩き壊した
  (例:1981年 航空管制官のストライキ。これはホワイトカラーだ。)
→おかげで中核的工業地帯(ラストベルト)は衰退。組織率の低い南部への移転も加速した。

【飴】
  -組合の規律や官僚的構造を攻撃
  -働き方改革(フレックス制)

⇒この結果、新自由主義的価値観が労働者の常識に埋め込まれた。

(5)新自由主義の矛盾

新自由主義は基本的にインチキなので、突き詰めると多くの矛盾が露呈するが、マスコミプロパガンダ、学者による偽装論文、あるいは暴力で封じ込めている。

1) 政策として進めるのは市民の了解が必要だが、やってることは市民の利益と対立することが多い。
2) 市場の論理を貫徹するための権威主義は個人的自由という理念と合わない。結局個人の自由を企業が奪う。
3) 原則的に金融システムの保全が重要だが、金の亡者が自らの個人主義のせいで株価・通貨が乱高下する。
4) 市場競争が立派だという一方で、少数の多国籍企業の権力が強まっている。(コーラ、エネルギー、メディア)そしてメディアは往々にしてプロパガンダ機関となる。
5) 社会的連帯が破壊され、社会というものが解体され、共同体の価値観が崩壊していく。その結果、浮かれて起こる反社会的(反共同体的)行為の規制も難しくなる。価値観の破壊は様々な価値を作り、新自由主義思想は自分自身への復讐を受けることになる。

(6)新自由主義は何をもたらしたか

■アメリカでの不平等の実態:
まずはアメリカでの実態を見てみましょう。
・所得上位1%の者が国民所得に占める割合:
   8%程度(1970年辺り)→15%(20世紀末)
・所得上位0.1%の者が国民所得に占める割合:
   2%程度(1978年辺り)→6%(20世紀末)
・CEOと労働者の給与平均値:
   30:1(1970年代)→500:1(2000年)
・富裕層への税金(遺産税)が段階的に縮小→廃止
・キャピタルゲイン課税の削減
⇒明らかに新自由主義は経済エリートを優遇し、その権力回復に役立ったと言える。それも下級市民の犠牲の上で。

■新自由主義の功績は富と収入を創造したことではなく、再配分したこと。
一言で言えば「略奪による蓄積」

1) 私有化と商品化
・公共資産の私有化(民営化)・商品化。収支計算では合わない公益サービスも無理やりに。
   公益事業(水道、電気通信、交通運輸)
   社会福祉給付(公共住宅、教育、医療、年金)
   公共機関(大学、研究所、刑務所)
・知的所有権を私的所有物と規定している。(遺伝子資源)
・農業環境の悪化が資本集約型農業以外の農業生産を難しくしている。
・文化様式・歴史の商品化

⇒勘定が合わないサービスでも生きていくには必要なものもあるはずだが、すべてが「カネ」最優先。

2)金融化
・規制緩和による投機・詐欺・略奪などによる再配分
  -株価操作
  -ポンジースキーム
  -インフレによる資産破壊
  -M&Aによる資産強奪、
  -債務履行の強要、など

3)危機管理と操作
・債務の罠
・危機が世界レベルで創出・管理・操作されている(金融、気象、戦争)
・貧しい国から豊かな国への富の再分配の芸術的手法。

4)国家による再分配
・国家は「私有化の推進」と「国家支出の削減」で下層から上層への再分配を推進する。抵抗する下層勢力には暴力的手段も辞さない。
イギリスの公営住宅の私有化は一見下層階級への贈り物に見える。しかし実際に起こったのは住宅投機が広まり追い出されてしまう。
・所得・消費より投資に有利な税制を提供。(消費税等)企業への補助金や優遇税制で富と所得を再分配。

(7)最後に(更なる本質的な問題)

・ニーチェ以前の世界は形而上学も、神への恐れという形でも、それなりの倫理観があった。しかし、ニーチェによって形而上学的なものが破壊されると、それは西欧を何とか縛っていた倫理観をも破壊した。要は西欧は「恐れるものは何もないみたいな何でもありな世界」になりつつある。歯止めがない。タブーは解体され、遺伝子操作が行われ、人間のクローンが作られ、生物兵器が作られ、そしてもっとむごい犯罪が行われているとも言われている。カネと私的欲望の為に。

・「何故、経済には成長が必要なのだろう?」そんな素朴な疑問がある。答えとしては、本当に求められているのは「資本の永遠の蓄積」で、それを単に経済成長と呼んでいるだけ。つまり、資本家が蓄財の為に必要としているにすぎず、結局は我々が辿っているのは「資本主義に忠実に富の蓄財にせっせと励む一部の資本家」の欲望を満たす為の隷属への道なのでしょうか。そして、いずれは限界と破局を迎えることになるかもしれない。

(8)オマケ(Anywhere族とSomewhere族)

・人間をAnywhere族とSomewhere族に分けてみるという話があります。
・どこの国でも生活していけるのがAnywhere族で、だいたいが高学歴で高収入、生まれた町を離れた経験があり大都市に住んでいる。思想はリベラルであり、市場経済派であり、成果主義・実力主義である。
・一方のSomewhere族は特定の国(主に自国)でないと生活していけない人々で、概ね低学歴、中低所得で地方に住んでいる。生まれた町や国への帰属意識が高く愛着も強い。思想的には保守的で変化をあまり好まない。
・しかし社会がうまく行くのは、結局は協調、なじみの深さの愛好、信頼といった習慣的基盤、言語的・歴史的・文化的紐帯に依拠している。開かれた社会においても、その社会を可能にする共通の基盤(=価値観)が無ければ1つにはまとまって行かない。Anywhere族はそこへの理解が決定的に足りない。
・Somewhere族の方が圧倒的に多いと思われるが、Anywhere属の方が進歩的で上に見られている傾向がある。両者は分断され、「進歩的」なAnywhere族が世界をリードしているところに問題があるようですね。