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DFFT :データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(6)消費者保護法制

この記事は、データ覇権に対抗する日本の大戦略「DFFT」について、デジタルプラットフォームというビジネスモデルに対するルールチェンジに向けた日本の制度改革に着目して解説しています。

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(1)地政学的意義

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(2)競争法戦略

DFFT: データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(3)パーソナルデータ保護戦略

DFFT: データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(4)情報フィデュシャリー

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(5)誹謗中傷・フェイクニュースの排除

消費者保護法制

デジタルプラットフォームの規制体系にとって、消費者保護法制も非常に重要な法体系の一つです。

消費者保護法制は、消費者取引法、景品等表示法、特定商取引法など、事業者と消費者の間の取引関係について、消費者を保護するために設けられた一群の法律からなります。

消費者契約法は、事業者と消費者の間の契約取引について、本来契約自由の原則のもと両者は自由な契約を締結できる(私的自治)ところ、両者間の情報格差から消費者が構造的に弱い立場に置かれるという現実を踏まえて、法律によって消費者を保護するように私的自治を修正することを図る法律です。景品等表示法は、利用者に虚偽や誤解を与える情報提供をすることを禁止するもので、マーケティング規制法といえます。特定商取引法は、消費者トラブルが発生しやすい類型の取引形態を「特定商取引」として事前に定めたうえで、ビジネスの仕方について一定の規制をするもので、ビジネスフォーマットの規制法ということができます。

現在、消費者庁は、その主宰する「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」にて、デジタルプラットフォーマーが消費者取引に重要な役割を果たしている現状に鑑みて、消費者法制をどのように見直していくべきかということを議論しています。その際の検討の視点は、
・デジタルプラットフォーマーに、取引の場の提供者としての役割をより積極的に果たさせる必要があるのではないか(責任強化)
・デジタルプラットフォーマーから消費者に対する、消費者取引に関連する情報を積極的に提供することを義務付けるべきではないか(情報提供強化)
というものになっています。

7月には報告書案が議論される予定ですが、現在検討されている論点としては、以下のものが挙げられます。
・オンラインモールやフリマサイト等で、取引相手を確認することができる手段を確保することを通じて、デジタルプラットフォーマーに対する信頼を確保する観点から、売主の本人確認の義務を課すべきではないか
・デジタルプラットフォーマーの利用規約をもっと分かりやすいものとしていくべきではないか。特に理解しにくいサービスの提供条件(たとえば免責、契約成立時期、ターゲティング広告等)について、分かりやすく記載させるべきではないか。消費者契約法における不当条項について、デジタルプラットフォーマーの利用規約につき課題の整理をするべきではないか
・緊急時におけるデジタルプラットフォーマーの役割について
・オンラインモール上の違法な商品の流通を未然に防ぐための体制の強化としてどのような施策がありうるか
・デジタルプラットフォーム上での消費者を誤認させる表示(不当表示や不正レビュー)をどのように是正していくべきか
・それぞれの施策について、実効性を確保するための法執行のあり方

デジタルプラットフォーマーにも一応適用されることになっている消費者保護法制として、特定商取引法という法律があります。しかしこの法律は、事業者による消費者に対するオンラインでの商品・サービスの提供・販売を、いわゆる通信販売という枠組みでとらえているにとどまり、デジタルプラットフォーマーがオンライン取引において果たしている死活的な役割を踏まえた法規制になっていません

第一に、デジタルプラットフォームは多くの場合、そのうえで行われる取引は取引当事者同士の取引で、自身はこれに関与しない、というポジションをとっています。本来は、プラットフォーマーがいなければ取引が成立しないので、プラットフォーマーが取引の媒介(仲介)をしていると言ってもよいはずなのですが、「媒介」についての伝統的な定義が「尽力行為」であるとされていることとの関係で、機械によってマッチングするのはこの尽力がないといった主張がなされることがあります。もっとも、金融規制法や住宅宿泊事業法といった業法では、こうした言い訳は許さない建付けになっておりまして、デジタルプラットフォーマーが媒介(仲介)もしていないのであるという一般論的な主張はかなり苦しくなっているように思われます。

第1の欺瞞

第二に、デジタルプラットフォーマーは多くの場合、自ら収益を稼ぐことになる当事者(多くの場合、プラットフォーム上で商品やサービスを販売する側)に対して有償サービスを提供しているという前提で、特商法上の「通信販売」に該当するものと自らを位置付けて特商法上の対応をしているようです。つまり、プラットフォーマーにお金を支払うわけではない当事者に対しては、通信販売はないという整理をしているように思われます。現行法ではこれで読めるのかもしれませんが、今般、プラットフォーマーはサービスの提供と引き換えにお金ではなくデータの提供を受けているということが競争法によって明確になったわけですから、そのことを前提に本来は特商法の適用関係を整理しなければならないはずです。

欺瞞その2

第三に、プラットフォーム上での取引には、小規模事業者や個人が商品やサービスを提供し、消費者がこれを購入するというものが多くみられます。この場合、商品・サービス提供者もまた、通信販売を行っているものとして特商法の規制がかかることになっています。デジタルプラットフォーマーは、商品・サービス提供者にそのような取引の機会を提供し、これによって収益を得ているにもかかわらず、商品・サービス提供者がきちんと特商法を遵守してビジネスを行っていることを確保することについて、何の責任も負っていません。通信販売を行うためには、「誰が商品・サービスの提供者なのか」ということを明記して、購入者がきちんと商品・サービスの提供者にリーチできるようにしなければならないことになっているのですが、このルールが守られていないケースが非常に多くみられます。提供者のなかには、個人に毛が生えたような事業者もおり、「名前や住所、電話番号などを明かすのは避けたい」という人が多くいると言われており、プラットフォーマーも自らのビジネスのため、特商法を正しく利用者に遵守させるような施策を講じづらいというのが実態のようです。

欺瞞その3

商売をする以上は身元を明かしておこなうべきである、というのはとてもまっとうな話ですから、きちんと法執行をするべきという方向での議論もよいのですが、現実問題としてこれではうまくいかないということがあるのであれば、プラットフォーマーに責任を負わせるしかないのでしょう。トラブルなどがある場合には、プラットフォーマーが間に入って、きちんと問題解決のためのプロセスに責任を持つということが、法令で明らかにされるべきという方向はありうると思います。この点ができていれば、プラットフォーマーがきちんと身元を管理できていることを前提に、個人に毛が生えたような提供者の身元を公表せずにビジネスができるということになっていても、制度としてはありうる話だろうと思います。日本のプラットフォーマーは、実質的にはこれまでもこうした作業を規約外の作業としておこなってきており、こうした実務をきちんと制度化していくと考えれば、特に海外事業者との競争の観点からはむしろ望ましい方向ということになるのかもしれません。

こうした諸々のことを考えますと、特定商取引法は、デジタルプラットフォーマーを単なる通販業者として位置づけるという現状の整理から、デジタルプラットフォームという事業形態を一つの特定商取引として定めたうえで、消費者保護のために必要な規律を課するという方向に舵を切っていかなければならないのではないかと思います。

これまでは、「デジタルプラットフォームとは何を意味するのか、その定義があいまいである」という言い訳が通用したのですが、そのようなフェーズは、特定デジタルプラットフォーム取引透明化法の成立によって、既に脱したと思います。つまり、取引透明化法2条1項には、ネットワーク効果による正のフィードバックループに着目した「デジタルプラットフォーム」「デジタルプラットフォーム提供者」の定義が明確化されています。このような特徴を持つデジタルプラットフォームについて、これを消費者に提供する行為を特定商取引としてとらえた上で、必要な法規制を整備する環境は整いつつあるのではないかと思います。

おまけ:消費者契約の初歩的な解説を昨年の四月に日経新聞さんが連載していたのでシェアします。

第7回 ルールデザインの方法論の革新につづく

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