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セキュリティトークンの一大問題とその解決方法(2)デジタルアセットとデジタル化アセット

セキュリティートークンの私法上の問題を考えるにあたって、最初に理解しておかなければならない重要なコンセプトの一つとして、「デジタルアセット(digital assets)」と「デジタル化アセット(digitized assets)」の区別ということがあります。

デジタルアセットとは、一般に、「データの形式をとり、それ自身で意味があり特定性のある、財産的価値ないし使用権」のことをいいます。日本法で定義された概念ではありませんが、統一州法委員会全米会議(The Uniform Law Commission)は、Fiduciary Access to Digital Assets Actのなかで、デジタルアセットを「個人が保有する権利又は利益を表章する電子的記録をいう。当該アセットの裏付けとなる資産又は負債は、それ自身電子的記録である場合を除いて、これに含まれない。」と定義しています。

デジタルアセットの典型はビットコインやイーサなどが挙げられ、デジタルアイテムのようなものも含まれます。ビットコインは、単に人々がそれに価値があると信じているから法定通貨などとの交換価値が認められ、すなわち価格がついているにすぎず、価格の裏付けとなる資産が存在するわけではありません。またそれ自身が電子的記録である資産とは、電子記録債権法上の電子記録債権のようなものが挙げられるでしょう。

記録自体が権利や負債と見ることができるデジタルアセットに対して、デジタル化アセットは、裏付け資産が存在し、電子的記録はその資産の残高や帰属先を記録したものにすぎないものをいいます。裏付け資産は土地や金地金、在庫などの有体物の場合もあれば、貸付債権のような一般的な債権や金商法上の有価証券の場合もありえます。いずれにしても、デジタル化アセットは、裏付け資産とは別個に存在します。この場合、裏付け資産の帰属が電子記録簿上の帰属者であることや、電子的記録の名義の更新によって裏付け資産の帰属者が移転したことを法的に確保するためには、背後に一定の法律構成が必要となります。たとえば、ある電子的記録が、金地金の実質的な価値の保有者と保有量を示すものであるとの主張が正当化されるためには、金地金を受託者に信託譲渡した結果生じた受益権の管理を、電子的記録によって行っているとの構成や、金地金の預託を受けた倉庫業者が管理する金地金の所有者と残高が、デジタル帳簿に記録されているとの構成をする必要があることになります。

少し難しくなりましたが、誤解を恐れずに一括りでいうと、デジタル化アセットとは、これまで世の中で行われてきた資産の証券化(securitization)と同じです。ある資産を証券化したうえで、証券の保有者と残高を電子的記録により管理しようとするものがデジタル化アセットということになります。

デジタルアセットとデジタル化アセットの違いを理解いただけたでしょうか。

改正法制定の経緯から見ると、セキュリティトークンは、配当が発生するデジタルアセットを金商法上の有価証券として扱うという文脈で始まっています。その一方で、現実の資産や債権などをトークン化するアセット・トークナイゼーション(asset tokenization)を実現したいという人々も以前から存在しました。その場合のトークンはデジタル化アセットにあたることになりますが、果たして現実の資産や債権に関する利益が、トークンの保有者に帰属しているという状態を維持することができるのか、すなわちトークンの移転は裏付け資産に対する利益の移転を法律的に伴うことにできるのか、という「セキュリティトークンの一大問題」が発生しているということになります。

この一連の記事は、セキュリティトークンの一大問題を解決するための方法をご紹介する記事ですが、それだけを書きますと、ブロックチェーンの世界の住民(主としてエンジニアの人たち)が見ている、デジタルアセットとしてのセキュリティトークンが置き去りになってしまうことが気がかりです。

そこで、セキュリティトークンの一大問題に飛びつきたいところをぐっとこらえて、次回は、デジタルアセットとしてのセキュリティトークンについて、その金商法上の位置づけをご説明したいと思います。


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