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セキュリティトークンの一大問題とその解決方法(1)この記事のねらい

今年の春すぎから日本の金融商品取引法(「金商法」)のなかにセキュリティトークンが制度化されることになります。セキュリティトークンとは、法律上有価証券に分類されるトークンのことをいい、金商法では「電子記録移転権利」と名付けられています。

注:セキュリティトークンをもっと広く、電子記録移転権利に限らずブロックチェーンに乗せた有価証券全般(例えばブロックチェーンに乗せた株式や社債など)をいうものと見ることもできますが、ここでは議論の焦点を絞るため、セキュリティトークンを電子記録移転権利と同義のものとして扱います。

仮想通貨(春すぎの法改正により「暗号資産」と名称変更することになりました。暗号資産はcrypto-assetsの和訳ですが、crypto-assetsは海外ではセキュリティトークンを含むものとして広くブロックチェーンベースの資産につき用いられているので、ここでは「仮想通貨」という用語を用いることにしたいと思います。詳しくは「暗号資産規制のゆくえ」をご覧ください。)のときにこれが制度化されたことによって爆発的に人気がでたことをご記憶の方も多いと思います。

セキュリティトークンについても、これが制度化されたことにより、日本でもセキュリティトークンが大きく注目されることになるかというと、どうも仮想通貨のときと勝手が違うようです。もちろん仮想通貨のときの熱狂が度を超えたものであったということもありますし、セキュリティトークンについてはセカンダリー市場のルールが整備されていないということもありますが、より根本的な問いとして、セキュリティトークンの私法上の取扱いが明確ではないことがあります。

セキュリティトークンの私法上の取扱いの難しさについては、セキュリティトークンが法制度の中に組み込まれることにつき、金融庁が事務局を務める仮想通貨交換業等に関する研究会の報告書案で示された2018年12月以降、指摘させていただいていました。一言でいうと「トークン化」というのは法律的に何のことを言っているのか、という問題でありまして、これについての一連の論考「『トークン化の実装についての試論」をお読みいただいた方もいらっしゃるのではないかと思います。

(1)トークン化にあたっての基本的な考え方

(2)株式のトークン化

(3)法定通貨のトークン化(ステーブルコイン)

(4)不動産のトークン化

(5)動産のトークン化

(6)契約や債権のトークン化

(7)トークン化の目的と実務のアプローチ

(8)法制に対するインプリケーション

(9)デジタルネイティブなアセット

(10)アーキテクチャと法

この一連の記事は、セキュリティトークンの私法上の位置づけについての記事です。より具体的に言うと、「契約によって作った債権である有価証券をどうやってブロックチェーン上に載せるのか」という問題(これをこの記事では「セキュリティトークンの一大問題」と呼んでいます。)に対する解決策について書いていきます。

セキュリティトークンは、私法上の問題を未解決のままに、既に法制度に組み込まれてしまっており、いま実務に携わる人みんなが取り組まなければならないのは、問題を指摘することや揚げ足をとることではなく、「どうやったら日本でセキュリティトークンを法的に安定した形で社会実装できるか」だと思います

エンジニアの方もビジネスの方もみんな、それぞれの立場からセキュリティトークンを日本の実務で離陸させるために、この新しい難問に必死で取り組んでいます。

法律を専門とする僕も、こうした皆さんと一緒に、「法律上、有価証券をブロックチェーンに乗せる方法」について、なんとか法的に説明がつくのではないかという方法を考えてきました。

これを皆さんに共有し、議論のお役に立てていただきたいというのがこの記事の狙いということになります。

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