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「ナウキャストってもう金融×データ会社じゃないってよ」という話

このnoteについて

こんにちは。ナウキャストCEOの辻中です。
この記事では「ナウキャストってもう金融×データ会社じゃないってよ」ということをお伝えしたいと思います。どういう方針、考えで非金融領域のデータビジネスにナウキャストが力を入れているかをご説明したいです。

実は私自身、直近はプレーヤーとしてマーケティングやソリューションチームの立ち上げに注力していまして、しばしば「え、金融機関にデータ分析してるんじゃないの?」(注:間違えてはない)とよく指摘されます。なので、「いや、うちの会社はそれもやってるけどそれだけじゃないんやで」ということを改めて伝えたいなと思うんですよね。

この記事は、下記のような方におすすめです。

  • オルタナティブデータというキーワードに興味があるものの、具体的なイメージを持てていない方

  • 自社データをビジネスに活用することに関心があるが、ビジネスアイデアに落とし込めていない方

  • 次のキャリアとして「データビジネス」や「オルタナティブデータ」業界に関心があり、業界の最新トレンドを知りたい方

  • ナウキャストってFinatextホールディングスの子会社だし、金融領域向けに限って事業を行なっているんじゃないの?って思っている方

ナウキャストはそもそも金融だけではない領域をターゲットにしている


この記事ではどちらかというと業界のトレンドやビジネスのロジックとして「なぜ非金融領域を育てようとしているのか」を説明しようと思いますが、一言だけ触れさせてください。

ナウキャストはそもそも金融だけではなく、社会全体のデータ活用を進めようとしている会社なのです。

下記は今年1月の社内の戦略ミーティングで使った資料ですが、ナウキャストはシード段階から、実は不動産領域を始めとした非金融領域を育てていこうとしていたし、創業者の渡辺先生ともよく「日本の社会全体の判断のものさしになれるようなデータを提供する会社でありたい」という話をしてきました。

「データ流通を滑らかにし、誰もがデータの価値を享受できる社会を作ること」はロジックを超えた、会社の「思い」でもあります。

「オルタナティブデータ=金融」という誤解

とはいえ「思い」だけで、事業展開は決められないのも事実。
背景にあるビジネスロジックを紐解くため、まず、「オルタナティブデータ=金融ですよね」という業界に蔓延する誤解を解いていきたいと思います。

DXの流れもあり、データビジネスを事業計画の柱に据えている会社は目に見えて増えています。例えば、最近では東芝が昨年6月の経営方針説明会でデータサービス事業を収益の柱に据えたことが非常に印象的な出来事でした。

出所:東芝グループ経営方針

こうしたトレンドの中で、ナウキャストではこれまでJCBやクレディセゾン、KDDI、日経新聞、BCN等様々なデータホルダーの皆様とデータビジネスの立ち上げを行っています。(様々な苦労もありましたが、)お陰様で多くの成功事例を生み出すことができているため、最近では我々から、というよりはデータホルダーの方からご相談を受けることが増えてきました。これ自体は本当にありがたいことです。

しかし、こうした「ご相談」の初期フェーズでよく解かなければならない誤解があります。
それは「オルタナティブデータ=金融市場でデータを活用することですよね?」「非金融領域は別ですよね?」という誤解です。

もともと金融業界、官公庁業界にデータサービスを展開してきた当社は「オルタナティブデータ」の会社として捉えられることが多いです。
実際にこの分野を開拓してきた自負があるので、ありがたい限りですが、「オルタナティブデータ=金融」と捉えられることが多いことには違和感がずっとありました。

というのも、データビジネスが「金融機関向けサービスか、非金融向けサービスか」が必ずしも意味がある区分ではなくなってきていると感じるからです。

金融と非金融で異なる発展をしてきたデータビジネスとオルタナティブデータの登場

もともと歴史的にはBloombergやRefinitiv、QUICKなどの金融機関向けのデータサービス会社とニールセンやIRI、インテージなどの非金融機関向けのデータサービス会社は全く別の業界として発展してきました。

Bloombergはもともと債券市場のデータを扱うところからスタートし、QUICKは4大証券会社と日経新聞が合弁で設立した会社で、株価データを扱うところからスタートしました。
(このあたりは テクノロジーカンパニーのDNA : Our History | 日本経済新聞社 に詳しいです )

一方で、グローバルでマーケティングデータカンパニーとしてトップリーダーのニールセンは、もともと視聴率データをマーケティング目的で収集するところからスタートしました。また、国内のマーケティング・リサーチ会社としてトップを走るインテージはエーザイの創業家であり当時の常務取締役であった内藤祐次氏が、AC ニールセン社に触発されて、大衆薬市場のデータ収集を目的に設立した社会調査研究所が前身となっています。

このように、金融×データの業界と非金融×データの業界は出自としても収集するデータとしても全く異なるところからスタートし、違う業界として発展してきました。

そして、オルタナティブデータ業界はもともと金融×データ領域からスタートしました。これは誤解ではなく、事実と言えます。

オルタナティブデータはまだ若い領域なので、歴史を紐解くのは難しいですが、海外のカンファレンス等で話を聞いていると、この業界の先駆けは2003年に創業されたMajestic research(現在はMScienceという会社に変わっています)と言えそうです。彼らはもともと今で言うWebスクレイピングサービスをヘッジファンドに提供することからスタートし、その後クレジットカードデータを始め様々なビッグデータを扱うようになりました。

この背景には、伝統的な経済統計や企業決算情報の速報性や情報粒度に対する課題感、情報優位性が投資パフォーマンスに直結するヘッジファンド業界の、新しいデータやテクノロジーに対しての強い関心があったのではないかと思います。

そしてこのビジネスは大きなトレンドになりました。下記は業界情報が集まるalternativedata.org(YipitDataというユニコーンスタートアップが運営)というサイトで紹介されているカオスマップで、データユーザー=機関投資家に対して様々なカテゴリのデータプロバイダ、データオーナーがビジネスのしのぎを削っていることを表しています。

出所:Alternative Data Stack

間違いなく、オルタナティブデータは金融業界の中で発展してきました。繰り返しになりますが、これは事実です。
しかし、今、そしてこれからも「オルタナティブデータ=金融」なのかというと、それは誤解と言えます。

境界線が消えるデータ業界

ここで申し上げたいのは、前述したデータ業界のある種の「境界」が消えているということです。

まず一つにオルタナティブデータプロバイダが「非金融化」している、という事実があります。

例えば前述のMajestic research(現MScience)は下記の通り、機関投資家向けサービスと並んで、マーケットシェア分析やコホート分析などを核とするCorporate Intelligenceを自社サービスの中核としています。

出所:MSceicenceホームページ

また、昨年カーライル・グループ等から475million USDを調達し、ユニコーンの仲間入りを果たしたYipit Dataも事業会社向けの分析支援を積極的に行っています。

昨年の調達時にCEOのVinicius Vacantiが下記の通り述べています。

“That is where YipitData comes in. We specialize in analyzing billions of data points every day to provide reliable insights to investment funds and corporations so they can make better decisions. With this funding from Carlyle we will usher in a new era of market research.”

出所:YipitData raises $475 million in Series E funding from Carlyle

また、伝統的な金融情報プロバイダも実は非金融領域への進出に積極的になっています。例えば、S&P globalがIHS markitを440億ドルで買収する、と2020年11月に発表されましたが、この巨額買収の裏側には、自動車やエネルギーなどのデータ、顧客ネットワークに強いIHS markitを取り込むことで、非金融領域のビジネスを拡充しよう、という思惑があると言われています。
実際に、S&P global CEOのPetersonが今後の金融情報サービス業界の展開として、オルタナティブデータをレバレッジして、事業会社向けのビジネスを拡充していく方向感を示しています。
参考: https://www.ft.com/content/cd99579c-e01f-4a71-a124-e9c03598e5b9 

こうした事例は金融領域で展開していた大小のデータプロバイダが非金融領域に展開していこうとしているものですが、逆方向の事例にも事欠きません。例えば、クロスロケーションズ、マイクロアドなど、もともと事業会社向けにデータビジネスを展開していた会社が次々と金融機関向けのビジネスを展開することを発表しています。

中でも個人的にはマイクロアド社さんの自己資金を使った株式投資の開始、というのは非常に興味深い動きだなと思っています。

出所:株式会社マイクロアド 2023年9月期 第1四半期 決算説明資料 

なぜ境界線が消えているのか?

このような金融と非金融の境界が消える動きはなぜ発生しているのでしょうか?

色々な要因はあると思いますが、私は「データビジネスの成功者がコスト競争力を活かした展開を狙っているから」だと考えています。

この背景には、データビジネス立ち上げにおける構造、フローがあります。
よく、「データ分析、モデリングは前処理が8割」と言いますが、本当にその通りで、前処理には非常に手間とコストがかかります。

そうした「データ処理過程」のみならず、それを可能にするための人的な体制整備、個人情報保護法対応や著作権法対応などのリーガル体制の整備など、実際にデータビジネスを立ち上げることは「初期コスト」が非常に高い傾向にあります。

出所:筆者作成

しかし、逆に言えば、こうした初期コストは、「同一のデータを横展開」する場合にはかかりません。

もちろん個人情報保護の観点で、第三者提供する場合には同意を取り直さないといけなかったり、新しい顧客セグメントを開拓するためには、コンサルティングパートナーを新たに見つけたりしないといけないかもしれません。
しかし、こうした「横展開コスト」は、前述の「初期コスト」と比べてかなり小さいことが殆どです。

具体的な事例で見てみましょう。例えば下記は一般的なPOSデータのデータ構造を模式化したものになります。
POSデータでは商品コード(JANコード)がふられており、そこからメーカーコードを識別しますが、メーカーによっては扱う商品数が非常に多いので、メーカーコードを複数持つ場合もあります。

出所:筆者作成

また、この例では「商品の種類(ビール)」や「商品ブランド(スーパードライ)」といった情報が付与されていません。
例えば、「ビールカテゴリ内でのスーパードライのマーケットシェア」を分析したい場合、こうした商品の種類やブランド情報を「特徴量付与」しないといけません。
これはほんの一部の例ではありますが、こうしたデータの「前処理過程」には非常に大きな手間ひまがかかる一方で、このデータを分析する主体がアルコール飲料のマーケティングの判断を行うマーケッターだろうが、ビール業界の投資判断を行う機関投資家だろうが、どんな方にとっても必要な過程になります。

また、こうしたPOSデータの大元の所有権はPOSレジの所有者である小売店にあることが多いですが、彼らとのデータ連携の合意を獲得するコストも(利用目的が限定されていない限り)、基本的には誰がデータを活用するかに関わらず必要になる手間ひまになります。
このようなデータビジネスの構造的な特性上、業界内のプレーヤーは「まず何らかの領域でビジネスモデルを確立」し、そして「同様のデータをレバレッジしながら、他の領域に展開する」という戦略を行うことが合理的な判断になります。

様々なビッグデータが世の中には出回っていますが、最も多様な用途に利用、展開されているのは、恐らくPOSデータだと思いますが、この歴史を見ても上記の戦略が合理的であることを示唆しています。

出所:筆者作成

POSデータが日本において活用が始まったのは1980年代、マーチャンダイズ(在庫管理)に同データを活用し始めたセブンイレブンが最初だと言われていますが、その後様々な小売りチェーンが同種の取り組みを開始し、マーチャンダイズのみならず、経営管理や販促活動、あるいは取引先メーカーへの情報提供といった形で、業界の垣根を越えて用途を広げてきました。

現状、必ずしもこの他の多くのビッグデータはこのような用途展開が十分にされていません。特に米国対比、日本ではデータ流通に慎重な対応が取られてきたこともあり、業界の垣根を越えるような動きは「発生はしているが、スピードは遅い」というのが現状なのではないかと思います。

マーケティングとソリューションに挑戦するナウキャスト

ナウキャストはもともと日銀出身で東大経済学部教授の渡辺努先生が創業した会社であることから、これまではどちらかというと「金融領域」を主戦場にしてきました。
しかし、POSデータ、クレジットカードデータ、人流データと様々なデータを扱うようになり、データのクレンジングノウハウや人的・法的な体制整備が整いつつある今、我々としても次なる成長ステージに挑戦するために「業界の垣根を越え」、水平展開を一つの戦略として推進しています。

例えば、我々の主力サービスであるJCB消費NOWはもともと日本銀行や内閣府、証券会社や運用会社などの「金融領域」を初期のターゲットに展開してきました。
このサービスを生み出すプロセスのコスト、難易度はそれなりのものがありました。。(このあたりはまた別の機会に紹介できればと思います)

しかし、現在では、下記のように家具ECのベガコーポレーション様や玩具大手のレゴジャパン様、メルペイ様などにお客様としてご利用いただくようになりました。

レゴジャパン株式会社様
https://www.jcbconsumptionnow.com/voice?user=6

株式会社ベガコーポレーション様
https://www.jcbconsumptionnow.com/voice?user=7

株式会社メルペイ / 株式会社メルコイン様
https://www.jcbconsumptionnow.com/voice?user=13

また、不動産の領域では、下記のようなプレスリリースを発表しました。

これは「東急プラザ」や「キューズモール」などの商業施設を運営する東急不動産SCマネジメント株式会社様とともに、クレジットカードデータを活用し、消費者行動を分析することで、より消費者のニーズに沿ったテナント作りを支援するものです。

このように、ナウキャストはマーケティングを中心とした非金融領域に展開し、事業会社のデータ活用を進めていっているのですが、その事業展開にあたって新たな課題が出てきました。
それは、国内大手事業会社においてはデータ活用のための組織的、システム的な基盤が不足していることです。

我々が今まで相手にしてきた金融領域、特に海外の機関投資家については、クラウドベースのデータ分析基盤とそれを活用するデータ分析者、エンジニアが揃っていました。そのため、我々としては「分析シーンに応じて適切にデータをクレンジングし、提供すること」が最大のポイントであり、そこに集中していればよかったのです。

しかし、非金融領域に着目し、国内大手事業会社にサービスを展開していく上では

  • クラウドベースのデータ分析基盤がない

  • BIツールを操作する以上のデータ分析をした経験のある人がいない

  • そもそもデータ活用をする推進者が不足している

といった課題がお客様側に存在していることがわかりました。

下記はデータ活用を阻害する要素を俯瞰した図です。
下記の図でいえば、我々データホルダーが「分析可能なデータ」を提供するだけでは、データへのAccessibilityの問題を解決したり、Legalの問題を軽減することにしかならず、その他のEngineeringやAnalyticsなどの部分が大きな問題として横たわっている、ということがわかりました。

「じゃあそこも含めて解決しようじゃないか!」ということでソリューションの機能を持ったチームの組成を決めたのが、「ナウキャストがソリューションビジネスを立ち上げる」背景にあります。
これまでのビジネスのやり方を継続するだけでは水平展開はできないし、本質的な課題解決を行うビジネスは作れない、という判断です。

以上が「今なぜマーケやソリューションなど、非金融領域のデータビジネスをナウキャストが力を入れているか」、その理由になります。
ここまで長文を読んで下さって有難うございます!

まだまだビジネスのスピード感、やりたいことに比べて全く人が足りていない状態です!是非少しでも興味がある方がいれば、ご連絡ください!

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