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落語のお話【大工調べ】

「大工調べ」という落語があります。

物語の概要はこんなところです。

大工の与太郎が家賃1両800文を滞納したため、その借金のカタに大家さんに大工道具を取り上げられてしまう。
それを知った棟梁が与太郎に1両を渡して、大工道具を返してもらいに行かせるが、大家さんは全額返すまで道具は返さないと言いはる。
棟梁も加わって交渉するが、与太郎と棟梁の「たかが800文」「800ぽっち」という言葉に、大家さんはさらに態度を硬化させる。
棟梁が奉行所に願い出たところ、大家さんが借金のカタに物を預かる質屋の営業権を持っていないことを理由に、大家さんに大工道具の返却と与太郎が仕事をできなかった期間の収入の補償を命じる裁きが下った。

この噺では一環して大家さんが悪者になっています。
「やい!」で始まる棟梁の長い啖呵を淀みなく言い立てる場面が見せ場にもなっています。
古今亭志ん朝のこの啖呵は見事としか言いようがありません。
ここで「そうだ、そうだ!」となり、最後の裁きに「大家、ザマァ見ろ」という流れです。

しかしこの噺、私はどうもすっきりしないのです。

江戸時代の通貨を現在の通貨に換算するのは難しいようですが、1両=4,000文というのはほぼその通りのようです。
仮に1両を10万円とすると1文は25円。
「二束三文」「一文なし」「早起きは三文の徳」という言葉がある通り、小さな金額です。
しかし、800文となると話は違います。
25 x 800=20,000
2万円です。
与太郎が溜め込んだ家賃1両800文は12万円となります。
12万円の借金のうち10万円返すから、あと「たったの」2万円足りないくらいでガタガタ言うな、と言われたら怒るのも当然と思うのです。
江戸時代の長屋の家賃を2万円として半年間の滞納。
大工道具を取り上げたら働けなくなることは分かりきったことです。
それでも大家さんがこのような強硬手段に出る気持ちは理解できます。
「出てゆくか、身内にでも用立ててもらってこい」という気持ちでしょう。
それに対して大家さんは与太郎が働けなかった期間の収入まで弁償させられるのは「それはないんじゃないの」という気持ちになります。

な〜んて、こんなこと書くと、この噺が面白くなくなっちゃいますね。

こんな野暮なことを考えてる私こそ、とんだ「まるたんぼう」ですね…