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柳家小三治

小三治さんが亡くなった。

数多くの噺で私を笑わせ、泣かせてくれた小三治さん。

ときには1時間近くにおよぶなが〜い「まくら」。
楽しかった。
そんなときは決まって「小言念仏」。
いったい何度聴いたろうか。

その場その場の情景が目の前に浮かぶ見事な「芝浜」。
裏長屋、早朝の浜辺、出世して迎える大晦日。
そこに小三治さんはいなかった。
いるのは勝五郎とおかみさん。
嘘をついたことを打ち明けるおかみさんの姿に涙した。

「青菜」。
「菜をもって来なさい」と言われ、
一瞬戸惑う女房。
この「一瞬」は他のどの噺家にもなかった。
小三治さんならではの細かい描写。

「うどん屋」。
美味しそうにうどんを食べる「風邪ひき」。
思わず自分も口を動かしてしまうほど。
どんぶりに張り付いたお麩を箸ではがして食べる仕草。

「金明竹」。
この噺は決して早口言葉ではない。
私が聴いた中では小三治さんの「金明竹」だけが一言一言をはっきり話していた。
だから、分かったような分からないような面白みが出る。

「たらちね」。
前座噺をかけることが多かった。
お弟子さんにはさぞ勉強になっただろう。
ある会でいつもに加えて言葉が滑らかだったことがある。
すると小三治さん自ら「今日はとても気持ちよく喋ることができました」と言った。
そんな芸を聴くことができた幸せ。

もっともっと噺のことを書きたい。
書きたいが、思い出が多すぎて書ききれない。

ある時期には最低でも月に1度は聴きに行っていた。
まだインターネットが普及する前。
半年に1度の鈴本での独演会を聴きたい一心で寒風吹き荒ぶ中、行列に並んだ。
会社を休んで、電話をかけまくった。
片っ端から情報誌を買い、小三治さんの高座を探した。

鈴本での「独唱会」。
歌の好きな小三治さんの歌会。
鈴本の舞台にグランドピアノを入れたのは小三治さんだけだろう。
優しい歌声。
歌の合間合間の楽しいおしゃべり。

年に2回だけの末廣亭出演。
大トリの小三治さん目当てに席を取るために昼席から入場。
6時間くらい待っただろうか。
そのくらい小三治さんを聴きたかった。

小三治さん自信は師匠の小さんに1度しか稽古をつけてもらえなかったという。
しかも、それを聴き終えた小さんは「おめぇの噺は面白くねぇな」と一言言っただけという。
しかし、小三治さんは弟子に厳しかったようだ。
弟子の三三に「んちは、御隠居さん」だけを1時間もやらせたという厳しさ。
芸への執念。

小三治さん。
ありがとう。

合掌。