見出し画像

噺を撮る【心眼 / 智泉院(茅場町)】

浅草馬道に住む按摩の梅喜(ばいき)。
仕事から戻ると浮かない顔をしている。
女房のお竹が事情を聞くと、弟分に目が不自由であることをきつく罵られたのが悔しくてならないという。
そこで茅場町の薬師様に二十一日参りの願掛けをすることにした。

そして、満願の日、願いが叶って梅喜の目が開く。
ちょうど通りかかったお得さんの旦那に連れられて歩きながら、女房のお竹はひどい醜女だが、気立は日本中でも指折りといえるほどであることを聞かされる。
観音様にお参りしているときに旦那とはぐれてしまったところへ、こちらもお得の芸者の小春と出会う。
目が開いたお祝いにと小春に誘われて待合に入る。
有頂天の梅喜「バケモノのような女房とは別れるから、一緒になろう」。
一方、旦那から梅喜の目が開いたと聞いて、大喜びで観音様へ駆けつけたお竹。
梅喜と小春が待合に入るのを見、梅喜の言葉を聞き、梅喜の胸ぐらへくらいついた。
「苦しい、苦しい、お竹、勘弁してくれ!」

「梅喜さん!梅喜さん!どうしたんだい?」というお竹の声。

すべて夢だった。

お竹「明日からも信心しよう!」
梅喜「いや、もう信心はよすよ」
お竹「どうしたんだい?あんなに一生懸命だったのに」
梅喜「目が見えねぇってのは妙なもんだ。寝ているうちだけよ~く見える。」

いい噺なので今日はサゲまで書きました。

/ 数々の名作を残している三遊亭圓朝の作。
「按摩」という言葉は差別用語とする向きもありますが、言い換えるのに相応しい言葉が見つからなかったので、この場ではあえて使うことにしました。
また、この噺では演者によっては辛辣な差別用語が使われる場合があるので、そのようなことに敏感な方はお聴きにならないほうが良いかもしれません。

さて、梅喜が願掛けに通った「茅場町の薬師様」は今も茅場町にある智泉院のことだそうです。
証券会社が並ぶ賑やかな表通りから入った裏通りにひっそりとある小さなお寺です。
それにしても、梅喜が住んでいたのは浅草馬道。
浅草寺の東側(隅田川寄り)の一帯です。
目と鼻の先の浅草寺境内にも薬師堂があるのにわざわざ5キロ近くある茅場町まで毎日通ったのですから、この薬師様はよほど厚く信仰されていたのでしょう。

現在の「馬道」交差点
浅草寺境内の薬師堂
智泉院境内の地蔵尊