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落語のお話 【小三治さんのこと1】

私が最も長く、従って、多く観た噺家は柳家小三治さんです。

地理的に行ける会はすべて行っていた時期があります。
「地理的に」です。
「時間が許す限り」ではありません。

私の信条の一つ。
「時間は作るもの、できるものではない」
これまで熱中してきたものに対してすべてこの信条に従ってきました。
小三治さんもその一つです。

「行く時間があれば行く」のではなく「行く時間を作る」。

落語に限らず、もう何十年も前から多くの催しの切符は何ヶ月も前に取らなくてはなりません。
「半年先の予定なんて分からないからなぁ」と諦めるものもありますが、小三治さんの落語会はそうではありませんでした。

何がなんでも行く!

しかし、「行く!」と決めたものの、人気者の小三治さんの切符を取るのはそれはもう大変。

例えば、毎年2回、上野鈴本演芸場で開かれていた独演会。

寄席は10日単位で出演者が変わります。
そうすると31日ある月は最後の1日が余ります。
その1日を「余一会」として通常とは違う内容を組みます。

以前の上野鈴本での5月と10月の余一会は「柳家小三治独演会」でした。
すでにホール落語会以外で小三治さんを聴ける機会が少なくなっていましたので、300席足らずの鈴本で小三治さんをたっぷり観られるこの独演会は絶対に欠かすことのできないものでした。
しかし、切符を取るのが一苦労。
当初は独演会当日に鈴本の窓口で次回の切符を販売するという方式でした。
31日が土日とは限りません。
また、独演会が始まるのは16時半。
平日だろうが、週末だろが、次回の切符を買うために16時半には鈴本にいなくてはなりません。

その後、切符を「チケットぴあ」の窓口で販売するようになり、インターネットへと変化しました。
それでもそれぞれ苦労があり、それなりの「努力」が必要でした。

その努力の甲斐あって、鈴本だけでなく、それ以外の会にもたくさん足を運ぶことができました。
それだけの価値がある人でした。

必ず満足させてくださいました。