つづき
ソナチネ
8つの短編集。83ページ。目次・・・・・・・・・雪解け・たんぽぽ幻想曲・雨の日の子守歌・ひぐらしのカノン・哀歌・無題・風のロンド・空色のピアノ最後の2作は童話です。前に書いたものを加筆、修正したものです。残りの6作は書き下ろしです。それぞれ3000字程度のごく短い短編で、季節を織り込んで書きました。風の匂いや蝉の声、雨の音を感じながら小さな世界に浸っていただければと思っています。小学校の高学年から読んでいただけます。少しだけ、中身を紹介します。〈たんぽぽ幻想曲〉―-宿題のない春休みがやってきた。今日はお母さんの妹である、ふくちゃんが朝から家に来ていて、一緒にお昼ご飯を作ることになっている。ふくちゃんに会うのはお正月以来だった。「あみちゃん、もう五年生かぁ。また背が伸びたんじゃない?」ふくちゃんはお正月のときも同じことを言った。「そうかなぁ」わたしが答えるとふくちゃんは日焼けした顔でにっと笑った。ふくちゃんとお母さんは全然似ていない。お母さんはどちらかというと色白で口も小さめだけれど、ふくちゃんの肌はいつでもこんがり焼けたパンみたいな色をしているし、笑うと不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫みたいになる。ふくちゃんが持ってきたビニール袋の中には、たんぽぽがたくさん入っていた。 ―-つづく
¥650