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祈り

三日月も満月もいいけれど、昔から半分の月が好きだ。
中学生の終わり頃、家が新しくできて私の二階の部屋にはベランダがついていた。
掃き出し窓を開けるとすぐ前に川が流れていて、畑の畝が続いている。夜寝る前にベランダに出るのがいつのまにか習慣になっていた。半分の月が頭の上に高くのぼっている。裸足の足に秋風が少し冷たい。川の水が流れる音がときどき乱れ、また戻り、風が吹くたび木の葉の擦れる音がささやくように耳元にまとわりつく。なにか魔法にでもかかっていそうな密やかな夜の中で私は立ったまま、手を組んで目を閉じる。
こんな夜になら届きそうな気がした。
たったひとつ。
この夜がまた訪れますように。
静謐な夜気の中に溶けていき、一体になるような感覚。
目を開けた。
半分の月はいつのまにかずいぶん東に傾いて、さっぱりとした果物のように浮かんでいた。

#祈り #半分の月 #エッセイ

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