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過去生の物語(8)

舞台は中国。易者の悲しい最期。

この部屋は、いつも薄く煙が立ち込めている。
私の身のまわりのことをする女たちが焚いていった香や私の吸う煙管の煙で。
外から射す光は、その薄い煙の幕のおかげでやわらぎ、音さえも遮断しているように感じる。

装飾過多なこの部屋は、私の趣味ではない。昔、この部屋にいた者が好んだものなんだろう。
朱の寝台が四つ並んでいるところをみると、もっと大勢の易者がこの屋敷にいたにちがいない。
一体みんなどこへ行ってしまったんだろう。
この部屋にいるということは、つまりそういうことだ。
私は自分の末路がわかっている。
それが来るのが早いか、遅いかだけの差で、もう未来を変えることはできない。

がらんとした部屋は音が響きすぎる。小さな咳払いもすぐに遠くのほうまで離れていってしまう。
離れないで。といつも思う。私から離れないで。どこにも行かないで。自分がどんどん薄く煙のように消えてしまいそうに感じる。
煙管を持つ手が震える。

易で、たくさんの者を葬った罰といえばそうなるが、私はどの場面でも間違いを犯していないと言い切ることができる。
直接政(まつりごと)に関与しなくても私の仕事は少なからず今のこの国の繁栄に影響があったはずだ。
私の易は外れない。絶対的な自信がある。私の助言通りに事を進めていれば安泰なのだ。
国の未来は私の手中にあると言っても言い過ぎではないだろう。

寝台の横にある、象牙の装飾のある飾り台に手を伸ばす。
私はこの煙管を愛していた。私の唯一の友達。
黒い漆に螺鈿のの煙管。小さな貝殻は七色に光る。いくら眺めていても飽きない。この貝はどこの海で採れたものなのだろう。山の麓の、少し開けた小さな村で育った私は海を見たことがない。
もし、私が他の人生を選ぶことができるとするなら、迷わず村に残ることを選ぶ。鄙びた何もない村で、村の男と結婚し、子を産み、育てる。年老いた親を手伝う。畑に出て働く、牛の世話をする。
村の娘たちが選ぶことすらせずに進むその人生がとてもうらやましく思えた。何をせずとも手に入るその人生が、なぜ私にはないのだろう。
私は間違えたのだろうか。間違えたとしたら、どこで間違えたのだろう。
誰か教えてほしい。私はどうすればよかったのか。
足音など聞こえなかった。
気づけば部屋には5人の男たちがいた。みんな見知った顔だ。
部屋に下がっている美しい色とりどりの布が一斉に舞うのを見た。
顔の前に突き付けられた刃が、やがてこじあけられた口に入り喉を切り裂いた。

そう、心臓ではないのだ。
彼らが憎んだのは、私の心臓ではない。
この口、この舌、この喉が、彼らは憎かったのだ。
そのことがよくわかった。
本当によくわかった。

***END***

この過去生は、私のものです。
実はこの過去を見たのには理由がありました。
私にはちょっと変わった癖があって、人と話をするとき(ただのお喋りではなく、仕事の報告やちょっと真剣な場面や、深刻な場面など)で、自分の手で首を隠しながら話すのでした。
自分では全然気づかず、同僚に
「なんでまさこさんは、人と話すときに首を隠すの?」
と言われて初めて気づいたのです。
そうだ、そういえば私いつも首を隠している。ハイネックの服が好きだったし、いつも首に何か巻いていた。
無意識にしていたことでも、気づいてしまうと自分でも気になります。
それでこの癖は一体どこから来たものなのか、その理由を知りたいと思って、リーディングをしたところ、上がってきたのがこの物語でした。
自分が殺される場面を見たのが初めてだったので、とてもショックを受けました。(人のはそうでもないですが、自分のは結構ダメージを受けるものです。ここここころされた~ってなります)
なるほど、それで!これでは確かに首隠すよね。となってのですが、もうひとつ気づいたことがありました。
(つづく)

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