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脚本家は人恋しがり屋(出張いまいまさこカフェ15杯目)

2006年9月から5年にわたって季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の15杯目。

「脚本家は人恋しがり屋」今井雅子

ほんの数か月前まで、「脚本家ってどこで会えるの?」がわたしの疑問だった。デビューして10年経つというのに、いっこうに脚本家の知り合いが増えない。両手の指で数えられる仲間の大半は、審査を務めた脚本コンクールの受賞者だった。

所属しているシナリオ作家協会のイベントに行けば会えるのはわかりながら、顔見知りがいないと足が遠のく。これではいかんと4年ぶりに出席した忘年会が風向きを変えてくれた。その二次会で同年代の脚本家たちと知り合うことができ、新年会にも声がかかり、またたく間に脚本家の輪に加われてしまったのだ。転校生が突然グループに入れてもらえたような劇的な変化である。

一緒に飲んでみると、人恋しい脚本家がわんさといた。会社勤めとの二足の草鞋から脚本家で一本立ちしたわたしは、一時期は宅配便のお兄さんや勧誘の電話と話し込むほどの会話欠乏症に陥った。そんな淋しがり屋はわたしだけかと思っていたら、皆さん「脚本家は、なんて孤独な職業なんだ!」と叫び、99%の苦労と1%の喜びを分かち合う相手を求めていたのだった。

新年会の宴もたけなわ、「初日の会」という提案があった。仲間の誰かの映画が封切られたら、みんなで駆けつけ、満足度調査やレビューで積極的に脚本を褒めようというもの。映画で注目されるのは監督と役者ばかりと嘆く前に、脚本家自身が脚本家という存在に光を当てる発想。それをお祭りとして楽しもうというノリに、広告を作っていた会社員時代のワクワク感を思い出した。

企画なんかもみんなで立ち上げて、どんどん持ち込もうよと誰かが言い、昔の黒澤映画は雀卓囲むみたいにワイワイ書いてたんだよね、じゃあ合宿やろうよ、と盛り上がった。ひとつの作品に複数の脚本家が関わると権利関係などをめぐってもめる、というのがわたしの印象だったけれど、仲間同士が組めば、痛み分けではなく山分けになる。

ほぼ同じ時期に始めたツイッターでも、たくさんの脚本家とつながれた。そもそも脚本家はブツブツつぶやきながら原稿に向かっているので、ツイッターは性に合っている。原稿書きの息抜きに話し相手が欲しい、締切に追われる夜中に励まし合う仲間が欲しい。そんな脚本家の何気ないつぶやきに台詞の癖がうかがえて、作品にも興味が湧く。クレジットはよく見かけるけれど顔は知らない脚本家さんと「どうして原稿をメール送信した直後にひらめくんだろう」などと素朴な疑問をつぶやき合っている。

ツイッターが題材の映画が誕生する日も近そうだけど、脚本家を孤独から救うという意味で、すでにツイッターは作品に貢献していると思う。

写真脚注)
たくさんつぶやく日は原稿が進まない。
執筆時間を削られるというのもまた現実。

プロフィール(20100302時点)

今井雅子(いまいまさこ) www.masakoimai.com
大阪府堺市出身。コピーライター勤務の傍らNHK札幌放送局の脚本コンクールで『雪だるまの詩』が入選し、脚本家デビュー。同作品で第26回放送文化基金賞ラジオ番組部門本賞を受賞。映画作品に『パコダテ人』『風の絨毯』『ジェニファ 涙石の恋』『子ぎつねヘレン』『天使の卵』『ぼくとママの黄色い自転車』。テレビ作品に「彼女たちの獣医学入門」(NHK)、「真夜中のアンデルセン」(NHK)、自らの原作『ブレーン・ストーミング・ティーン』をドラマ化した「ブレスト~女子高生、10億円の賭け!」(テレビ朝日)、「快感職人」(テレビ朝日)、「アテンションプリーズ スペシャル〜オーストラリア・シドニー編〜」(フジテレビ)。NHK朝ドラ「つばさ」脚本協力、スピンオフドラマ脚本。秋からの朝ドラ「てっぱん」に作・脚本協力で参加。

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2022.11.15 宮村麻未さん


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。