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映画鑑賞で相性診断(出張いまいまさこカフェ12杯目)

2006年9月から5年にわたって季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の12杯目。

「映画鑑賞で相性診断」今井雅子

前回に続いて、毎日映画コンクールのスタッフ部門2次選考会の模様をご報告。会議が開かれたのは、この原稿を書いている5月中旬から4か月さかのぼる1月初旬。今年はいつもの年の3倍ほど仕事をしているので、わたしの体内時計では1年が経過しているのだが、メモを取り出さなくとも原稿が書けるほど強烈な印象が残っている。

同じ作品を観ても、感心するところ、ケチをつけるところは人それぞれだが、11人の選考委員の批評の応酬は、辛口甘口を煮詰めた濃縮ソースとなった。米アカデミー賞がブラボーと喝采し、日本国内でも賞を総ナメの『おくりびと』についても、「完璧」と絶賛の声があれば、「完璧な作品は印象に残らない」と反論が飛び出し、「死というテーマを重くなりすぎずに描いた」と讃える声があれば、「死を美しく描き過ぎ」と否定的な意見が上がるといった具合。

『おくりびと』は監督、脚本、撮影、美術、音楽、録音、技術のスタッフ部門7賞のうち技術賞以外の6賞に顔を出したので、6回にわたって議論の対象になったのだが、世間で圧倒的支持を得ている作品を別な角度から見られて興味深かった。

監督賞の選考では、「他の監督が撮ってたら推さないが、滝田洋二郎が『おくりびと』を撮ったことに大きな意味がある」と映画評論家の塩田時敏氏が力説。納棺師という職業への偏見も扱ったこの作品を、ピンク映画出身の監督が撮ったことに意味と感動を覚えるという言葉に、わたしの一票はぐらりと傾いた。

監督賞は議論が白熱し、最後は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の若松孝二監督との決選投票となったが、「『おくりびと』のような作品は来年以降も生まれるかもしれない。だが、『連合赤軍』のような作品は二度と生まれないだろう」という意見が流れを決した。これはいいと素直に感動した『おくりびと』も、これは苦手と目をそむけたくなった『連合赤軍』も、選考会を終えて、もう一度観たくなった。

映画をどんな風に観るか。そこには、観る人の志向が色濃く現れる。選考委員の皆さんとは初対面だったけれど、4時間の選考会で交わされる意見をうかがううちに、「この人とは食べものの趣味も合いそうだ」などと人となりがはっきりしてきて、ずいぶん前からその人を知っているような気持ちになった。

結婚相手にふさわしいかどうかを見極めたいなら、映画を一緒に鑑賞をしてから感想を分かち合う「シネマお見合い」が手っ取り早いかもしれない。

写真脚注)6本目の映画『ぼくとママの黄色い自転車』は8月22日公開。朝ドラ「つばさ」に脚本協力。今年は水瓶座の当たり年とか。

プロフィール)2009年5月時点

今井雅子(いまいまさこ) www.masakoimai.com
大阪府堺市出身。コピーライター勤務の傍らNHK札幌放送局の脚本コンクールで『雪だるまの詩』が入選し、脚本家デビュー。同作品で第26回放送文化基金賞ラジオ番組部門本賞を受賞。映画作品に『パコダテ人』『風の絨毯』『ジェニファ 涙石の恋』『子ぎつねヘレン』『天使の卵』。最新作『ぼくとママの黄色い自転車』は8月22日公開。テレビ作品に「彼女たちの獣医学入門」(NHK)、「真夜中のアンデルセン」(NHK)、自らの原作『ブレーン・ストーミング・ティーン』をドラマ化した「ブレスト~女子高生、10億円の賭け!」(テレビ朝日)、「快感職人」(テレビ朝日)、「アテンションプリーズ スペシャル〜オーストラリア・シドニー編〜」(フジテレビ)。放送中のNHK朝ドラ「つばさ」に脚本協力で参加。

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。