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脚本という名のラヴレター(出張いまいまさこカフェ 16杯目)

2006年9月から5年にわたって季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の16杯目。表紙と巻頭インタビューは『デュラララ』竜ヶ崎帝人役の声優・豊永利行さん。

「脚本という名のラヴレター」今井雅子

先日「届かなかったラヴレター」というエッセイコンクールの審査員を務めた。9回目を数えるこのコンクールの作品集は、昨年公開された映画『引き出しの中のラブレター』の原案にもなっている。

主催者のキャリア・マム社長の堤香苗さんとのトークが縁で審査を依頼されたのは、今井雅子の6本目の長編映画『ぼくとママの黄色い自転車』の試写会でのこと。『ぼくママ』は、4本目の長編映画『子ぎつねヘレン』でご一緒したプロデューサーから声がかかったが、『ヘレン』の仕事が舞い込んだのは、映画デビュー作『パコダテ人』を撮った前田哲監督がわたしの知らないところで「今井さんをよろしく」と売り込んでくれていたからで、『パコ』は、函館港(みなと)イルミナシオン映画祭のシナリオコンクールの受賞作(当初のタイトルは『ぱこだて人』)である。

映画が人と人をつなげる天才なら、コンクールは縁結びの神様だ。

コンクールに出す作品は、運命の女神にあてるラヴレターのようなものだと思う。デビューのチャンスがかかった脚本コンクールとなれば、目の色が変わる。祈る思いで推敲を重ね、締切ぎりぎりに郵便局へ走って「今日の消印、押してもらえますよね?」と窓口にすがりつき、しっかり戦っといでとわが子を送り出す。けれど、何次にもわたる審査で、応募原稿の多くは振り落とされる。最終審査まで残ったとしても、そこで審査員の心に響かなければ賞は勝ち取れない。ほとんどが「届かなかったラヴレター」となることを運命づけられている。

わたしの場合、運良く届いたラヴレターでデビューのきっかけをつかんで、十年あまり。審査される側から審査する側に回るようになったが、コンクールへの思い入れが人一倍強いゆえ、しばしば主催者とぶつかる。

脚本とは違うジャンルだが、昨年、あるコンクールの審査をお願いされた。最終審査日の数週間前になって「都合により審査日を早めたい」との連絡があった。それがなんと、当日消印有効の締切の二日後。それでは間に合わない作品もあるのではと突き返すと、主催者からの連絡は途絶えた。結局、審査は当初の予定日通りに行われたと後で知った。

今応募して来る人たちは、少し前のわたしだ。あの必死さと切実さを知っていたら、いい加減な審査はできない。

そして、ラヴレターが届いたからと言って気を抜けない、むしろそこから先が大事なのは、恋愛も脚本も同じ。この想いがどうかプロデューサーに、監督に届きますように。そして、その向こうの観客に届きますように。最初にぶつける相手が審査員からスタッフに変わるだけだ。

脚本家とは、ラヴレターを書き続ける仕事である。

掲載写真のデータが見当たらず、掲載誌を写真に撮りました。


写真脚注)『ぼくとママの黄色い自転車』試写会トークで意気投合。キャリア・マム社長の堤香苗さんと。

プロフィール(2010年6月時点)

今井雅子(いまいまさこ) www.masakoimai.com
大阪府堺市出身。コピーライター勤務の傍らNHK札幌放送局の脚本コンクールで『雪だるまの詩』が入選し、脚本家デビュー。同作品で第26回放送文化基金賞ラジオ番組部門本賞を受賞。映画作品に『パコダテ人』『風の絨毯』『ジェニファ 涙石の恋』『子ぎつねヘレン』『天使の卵』『ぼくとママの黄色い自転車』。テレビ作品に「彼女たちの獣医学入門」(NHK)、「真夜中のアンデルセン」(NHK)、自らの原作『ブレーン・ストーミング・ティーン』をドラマ化した「ブレスト~女子高生、10億円の賭け!」(テレビ朝日)、「快感職人」(テレビ朝日)、「アテンションプリーズ スペシャル〜オーストラリア・シドニー編〜」(フジテレビ)。NHK朝ドラ「つばさ」脚本協力、スピンオフドラマ脚本。秋からの朝ドラ「てっぱん」に作・脚本協力で参加。

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2024.2.17 鈴蘭さん


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