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本の感想

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記事一覧

研究&人材開発に投資すると(しないと)何が起きるか【本の感想】シン・ニホン

本書が出版が出版されたのは2020年の頭ということで、まだ世界がCOVID-19の波に飲まれる前のことであった。 それから3年が経った今はじめて読んでみたのだが、この本で指摘されている課題のいくつかには、コロナ禍を経てより強く意識されるものがある。リサーチの手厚さと著者だから得られた経験や視点(たとえば政府系の委員会などで色々と課題について役所の人と議論した経験など)のオリジナリティが組み合わさの賜物だといえよう。 ちなみに本書のタイトルは巻末で著者も言及する通り、映画シン

原発事故に見る会社の失敗とチームの成功【本の感想】恐れのない組織

ハーバード・ビジネススクールで組織学習を研究する著者による、一般向けの「心理的安全性」の解説本。 心理的安全性は原語では「Psychological Safety」となる。 心理的安全性に関してはこの数年、日本でも取り上げられるようになってきた。企業組織の中で心理的安全性が重要である。そのような言説を聞く機会も増えたように思う。 しかし実際のところ、心理的安全性とはどのようなもので、なぜそれが重要なのか。それを自分の言葉で説明ができる人はごく少ないような気もしている。私もう

戦いではなく、対話が求められている【本の感想】ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から

新聞記者の筆者が米国駐留時代におこなった様々の取材を通じて見えてきた「科学がなぜ受け入れらないか」をテーマにしたルポタージュ。 「科学を受け入れていってもらうためには、科学の正しさを主張することではなく、相手に歩み寄って理解しようとするコミュニケーションが必要なのではないか?」 ざっくりいうと、これが筆者が見聞きしてきた現場から導き出された知見である。 これは非常に重要なことだ。 今日の世界が、科学の恩恵なしには成立していないことは、明らかなる真実である。ゆえに、科学を理

ゼロから考える仏教学の手引【本の感想】ごまかさない仏教: 仏・法・僧から問い直す

日本に生まれ育ち、葬式仏教を仏教だと思って生きてきた私は、本当にこんなものが宗教として価値があるのか、という疑問を持っていた。というかはっきりいってなんの役にも立たないと思っていた。 本書は、その私の疑問というか不信感に見事に応えてくれた。 仏教学者の佐々木閑氏と、評論家の宮崎哲弥氏による対談形式で、仏教の原点からはじまり、仏法僧の3つの仏教の構成要素についての本質とその存在の変遷について語られていく。 個人的な驚きは、宮崎氏が仏教者だったこと(まったく知らなかった)、そ

高エネルギー文明の存続は不確かだ【本の感想】エネルギーの人類史(上・下)

エネルギー、という言葉には様々な側面がある。ある人が「エネルギー」という言葉を口にするとき、それはその人の中での特定の意味でのエネルギーであることが多い。様々の言葉が存在するが、エネルギーという言葉はその中でも、「共通認識が成り立ちにくい」性質の強いものかもしれない。 であるがゆえに、私自身もまた「エネルギー」という言葉を漠然としか捉えてくることができなかった。エネルギーとはなんなのだろう。それは歴史の中でどう扱われて、そして今どのような状況にあり、そしてこれからそれに関して

オタク的文化の事例考察が面白い【本の感想】動物化するポストモダン

この本の感想を書くのは難しい。なぜかというと、この本の初版がすでに2001年ということで、20年も前だからだ。こと現代社会を考察し、提言するタイプの書籍や論文について、20年も経ってしまうと、その書籍が提示していた見解が的を射ていたのかどうかが分かっている。ゆえに、後知恵というか結果を知った上で、「ここが合っていた、合っていなかった」ということができる。だけれど、それをしてもあまりおもしろくないし、神様気分での批判ができてしまうようで、気が引ける。このタイプの本は、鮮度の良い

科学と人文学の架け橋【本の感想】世界が動いた決断の物語

本書を一言でいうと: 複雑な意思決定は難しい。だからこそ具体的に取り組む方略が必要である。その方略を人類は築いてきた。その歴史と蓄積に学び、複雑な意思決定をできる知を身に着けよう。 スティーブン・ジョンソンの書籍では"Everything Bad is Good For You"が印象深い。ビデオゲームの学びにおける有用性について指摘した本である。そのときから「多くの人が常識だと思っていることに、データと事実から鋭い議論を立て、それを惹き込むような文章で書く人だな」となんと