見出し画像

Drive!! #178 ボート X 小説

「だからまあ今のままでいいんじゃないでしょうか?」
俺は細川さんに率直な気持ちをぶつけた。
ぶっちゃけしんどよね。でも、楽しい時もほんと一瞬存在するよね。
そういう場所を選んだのだと思う。

それにしんどいという感情に蓋をするために、熱狂するのは怖いと思った。その熱狂は僕たちを違う場所に連れて行くだろう。シングルでうっかり進路妨害してしまった細川さんを、即刻乗艇禁止にしてしまったように。

最初の4組の並べが終わった。勝敗はあまり関係ないようで、勝っても、負けてもどのクルーも笑っている。でも今日は年始の特別な空気だから許される。笑いっぱなしで引退まで漕いでも、最後の瞬間は笑っていないだろう。緩和した空気も積み重なって振り返るときっと虚しいだけだ。

「そろそろ俺らの組やな。たまには楽しく漕ごうや」
そういうと細川さんは立ち上がって、桟橋に向かった。そこにはメンバーチェンジのために部員がたくさん集まっていて、その輪に入った細川さんはいつもよりテンションが高くなった気がする。冗談を言ったのだろう。その人を肘で小突いたりしている。

今日が終わったらまたしんどい日々に戻る。それを歓迎する気持ちにはなれないが、なぜだか俺らはそんな場所に行かずにはいられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?