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Drive!! #179 ボート X 小説

新年の初漕ぎはエンジョイローイングだった。風もなく水面は凪いでいた。普段ボートを陸から見ているマネージャーやコーチ陣は熱狂していた。
毎日寝泊まりして、練習しているこのコースが今日は別の場所に見える。
***
細川さんはいつもの主将としての覇気を纏っていた。さっきまでボソボソ俺と喋っていたのに「並べるからには、俺に敗北はない」とか啖呵を切っている。
本当に不思議な人だ。スポーツでなくても演劇でもやればいいのにと思った。見た目もシュッとしているし、声だってよく通る。

細川さんは別のクルーでストロークを漕いでいる。僕はフォアのバウに座っていて、一つ上の3回生でマネジャーの大木さんが、慣れない手つきでラダーを切っている。
大木さんが艇をスタート地点に停めた時に「オールメン、ありがとう。じゃあ並べは最初から最後までアタックでお願いします」と煽って漕手を務める四人がみんな笑った。

4艇がスタートラインに並んだ。細川さんは真剣な表情をしている。各クルーの力量バランスを取るために、マネージャーが2名乗っている。俺のクルーはマネージャー1名と漕手が2名で、ストロークは30代のコーチだった。
ここまで漕いでいる感じも、結構綺麗に艇を進められている感じがする。

密かに負けるもんかとか思ってみる。

1月3日。暦からはちょっと遅れて、ボート選手としての新年が幕を開ける。

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