今週のTop Tier VCニュース！#22(2022/6/26週)
2022年上半期のS&P 500は1970年以来最悪(−21%)を記録しましたが、その悲惨な成績は、今後の事態を示唆するものではなく、歴史的にみても上半期と下半期の指数のパフォーマンスには殆ど相関がないそうです。2022年の下半期も下落が続くのか、反転するかに関わらず、Top Tier VCからの投資は厳選されつつも引き続き活況です。
今週の投資先ハイライト
■ MarTechの"Front"がSeries Dで$65M調達し、評価額は倍増の$1.7Bへ
主な投資家
Salesforce Ventures
Battery Ventures
Sequoia Capital
概要
Frontは、Salesforce VenturesとBattery Venturesがリードし、既存投資家のSequoia Capital, Threshold Ventures, Uncork Capitalも参加したSeries Dで$65Mを調達し、これまでの資金調達総額は$200M超に達しました。
ここ10年来で最も厳しいTech系スタートアップの資金調達環境の中、Frontは前回の資金調達ラウンドから評価額を倍増させ$1.7Bとなりました。
2013年に設立され、顧客との強固な関係を築くためのコミュニケーション・ハブであるFrontは、SaaSの中でも最大かつ最も深く根付いている2つの市場、「電子メール」と「カスタマーサポートソフトウェア」を根底から覆しています。顧客との強い信頼関係によって差別化を図る企業は、既存企業によって十分なサービスを提供されていません。Eメールは、ワークフロー、分析、有意義な統合をサポートしないため、チームにとって非効率的であり、サポートソフトウェアは、効率性を高め、顧客を数字のように感じさせます。Frontは、チームコラボレーション機能と顧客データで、重要な会話をサポートします。Frontの顧客は、迅速かつ正確で、パーソナライズされた対応を保証するためにこのソフトウェアを使用しています。Frontは、チケット販売ソフトとは異なり、メールクライアントにヒントを得たモダンなインターフェースで、親しみやすく使いやすいとチームメンバーから好評を得ています。
フロントは、Fortune 25のうち5社を含む、100カ国以上で約8,000社の顧客を有しています。同社は純新規ARRを前年比120%成長させ、昨年は新規ビジネスが他のセグメントの約2倍の速さで成長し、ミッドマーケットとエンタープライズで強い牽引力を発揮しています。Frontの顧客満足度(Customer Satisfaction Score/ CSAT)は過去12ヶ月の平均で98%であり、Nicereplyによると、常に世界のトップ10にランクインしています。Frontは、B2BテクノロジーよりもNetflixやInstagramなどの消費者向けアプリではるかに一般的なレベルのエンゲージメントを一貫して維持しています。Frontの月間アクティブユーザーの75%は、デイリーアクティブユーザーでもあります。
Frontの一貫した規律ある成長の実績は、共同創業者兼CEOのMathilde Collinをはじめ、経営陣の80％が女性、管理職の50％が女性という、Frontのリーダーシップが女性に偏っていることも一因となっています。
カウフマン財団によると、女性が経営するテクノロジー系の未上場Tech企業は、男性が経営するスタートアップに比べて資本効率が高く、ROIが35%高く、ベンチャー企業の場合、収益が12%高いそうです。しかし、PitchBookによると、2021年に米国で女性の創業者が確保したベンチャーキャピタルはわずか2％で、2016年以降で最も少ないシェアとなっています。
■ 行動データ解析PFの"Snowplow Analytics"がSereis Bで$40Mを調達
主な投資家
New Enterprise Associates (NEA)
概要
Snowplow Analyticsは、NEAがリードし、既存投資家のAtlantic BridgeとMMCが参加したSeries Bで$40Mを調達し、これまでの資金調達総額は$55Mに達しました。
企業が顧客データを収集し所有することを支援するSnowplowは、企業が人工知能、機械学習、高度な分析アプリケーションに利用する行動データを作成するためのフルマネージドプラットフォームを構築しています。Snowplow Behavioral Data Platformにより、データチームは、構築中の特定のアプリケーション用に作成、モデリング、カスタマイズされた行動データにアクセスすることができます。これにより、データチームは、分析用のデータの検索、クレンジング、準備に無駄な時間を費やすことなく、アプリケーションを正しく構築することに集中することができます。
Snowplowは、複数のソースからデータを収集し、整理することを可能にします。例えば、企業のウェブサイトやアプリケーション、IoTプラットフォームを追跡し、そのデータをお客様のデータウェアハウスやデータレイク内で整理するために使用することができます。さらに、収集したデータを人工的なデータ、つまり合成データで強化することもできます。この情報は、他のシステムからのデータと組み合わせることで、各ビジネスに特化したユニバーサルデータ言語を作成することができます。このデータをAIや分析に利用するための準備にかかる時間を短縮することが目的です。
Snowplowの行動データプラットフォームは、ウェブ、モバイル、POS、カスタマーサポートなど、複数のエンゲージメントポイントにおける顧客の行動データのモデリングなど、高度な分析ワークロードを強化するために使用されるといいます。これを行うことで、企業が顧客の行動やマーケティングのアトリビューションをより正確に把握できる優れたデータセットを作成することができるといいます。また、このプラットフォームはAIモデルのトレーニングにも使用され、より一貫性のあるデータを提供することで、より正確なモデルを実現することができるといいます。
Snowplowは2020年にローンチして以来、Datadog, GitLab, Autodesk, Capital One Financial, Cable News Network, Axel Springer SEなどの顧客と、かなりのファンベースを形成しています。
■ レストラン向けソフトウェアの"Vita Moja"が$30Mを調達
主な投資家
Battery Ventures
Innovate UK (英国政府の研究資金助成機関)
概要
Vita Mojoは、Battery VenturesがリードしたLater Stageラウンドで$30Mを調達しました。
デジタル注文と、よりスマートで効率的な厨房・配送業務の管理を可能にするレストラン向けソフトウェア"Front-of-house"の欧州大手であるVita Mojoのプラットフォームにより、レストランは、独自のチャネルやJust Eat、Deliveroo、Uber Eatsなどの第三者配信プラットフォームを通じたデジタル注文から、よりスマートなキッチンや店内管理まで、主要業務を一つの統合システムで管理できるようになります。
レストラン・テック・スタックの1つの要素に特化した多くのホスピタリティ・テック・プロバイダーとは異なり、Vita Mojoは顧客注文と厨房業務の両方を統合した強力なフルスイートプラットフォームとなっています。
お客様にとっては、キオスク端末やお客様自身のデバイスからセルフサービスで注文できるほか、より効率的な持ち帰り体験が可能になります。レストラン経営者側では、すべての注文チャネルを1つのシステムにシームレスに統合することができます。Vita Mojoの顧客は、平均注文額が35％増加し、人件費が最大40％削減されるといいます。
レストランでは、パンデミックの影響を受けずにデリバリーや持ち帰りの注文が増加していることから、統合されたマルチチャネルの注文システムによって大幅な収益増加が見込めることが分かっています。Vita Mojoの技術によって生成された注文から請求までの膨大なデータは、レストランが顧客により良いサービスを提供し、顧客の体験をパーソナライズし、過去の注文履歴に基づいてカスタマイズされたマーケティングを提供することによって、ロイヤリティを構築するのに役立ちます。
また、レストランがレシピ管理ソフトウェアからデータを直接取得することで、メニュー全体に栄養とアレルゲン情報を正確かつシームレスに表示できるようになります。
この春先にVita Mojaが英国で実施した調査では、43%の顧客がメニューにカロリー表示があるレストランで食事をする可能性が高いという結果が出ています。
同社は、ロンドンに本社を置き、イギリスとヨーロッパで130以上のレストランにサービスを提供しています。
■ クラウドセキュリティPFの"Normalyze Security"がSeries Aで$22.2Mを調達
主な投資家
Battery Ventures
Lightspeed Venture Partners
概要
Normalyzeは、Battery VenturesとLightspeed Venture Partnersが共同リードするSeries Aで$22.2Mを調達し、ステルス状態から脱却しました。この資金調達により、同社のこれまでの資金調達総額は$26.6Mに達しました。
データファーストのクラウドセキュリティプラットフォームを提供するNormalyzeは、今日の複雑なマルチクラウド環境において、企業が機密データとその攻撃経路をより適切に管理し、大規模で有害なデータ漏洩から顧客を守るためのエージェントレス・プラットフォームです。Normalyzeのグラフを利用したプラットフォームにより、セキュリティチームはクラウドデータの脅威を継続的に分析、優先順位付け、対応し、機密データの損失を防止することができます。
クラウドコンピューティングの台頭により、企業の攻撃対象領域は複雑さを増しています。IDCが最近行った調査では、照会した組織の98%が過去18カ月間に少なくとも1件のクラウドデータ侵害を報告していることが判明しました。現代のデジタル企業におけるデータセキュリティは、データの急増、マイクロサービスの爆発的増加、急速なクラウド導入、ハイブリッドワーク環境、コンプライアンスなど、さまざまな傾向によって過度に複雑になっています。その結果、データストアはますます複雑化し、可視化の必要性が最も重要になっています。
Normalyzeの秘策は、CISOからセキュリティエンジニア、DevOpsまで、すべてのセキュリティ関係者を1つのユーザーインターフェースに集め、データの発見、分類、機密情報につながる攻撃経路の発見の優先順位付けを行うことができることです。
40以上の特許申請(4つの特許取得済み)を持つNormalyzeは、米国とインドに20人以上の従業員を擁しています。
■ 55歳以上の高齢者を対面式体験とコミュニティにつなぐ"Hank"がSeedで$7Mを調達
主な投資家
General Catalyst
Canaan Partners
概要
Hankは、General CatalystとResolute VenturesがリードするSeedで$7Mを調達しました。
55歳以上の大人と地域の人々や活動をつなぐ新しいデジタル・プラットフォームのHankは、個人と対面式のイベントや同じ考えを持つ人々を結びつけることによって、中年期の経験を再定義し、この層の人々が健康、幸福、長寿に寄与する社会的つながりを構築できるよう支援します。
Hankは、55歳以上の活動的な大人を、ピクルスボール、アートワークショップ、コーヒーミーティング、スカイダイビングなどの関連イベントや活動に結び付けています。会員は、各地域でHank主催のイベントを見つけたり、自分でイベントを作ったりして、共通の情熱や趣味、関心事を持つ他の人とつながることができます。
55歳以上という年齢に対する古い固定観念を変えるために、Hankは新しいブランドキャンペーン "Generation You."を開始しました。このキャンペーンでは、実際の55歳以上の大人が最も生き生きとした生活を送っている姿を取り上げ、ほとんどの年齢別のメディアにはない、年齢を現実的かつ現代的に表現することを目的としています。
現在、Hankはニューヨーク市エリアで事業を行っていますが、今年の後半には全米に拡大する予定です。
■ リサーチアシスタントの"Heyday"がSeedで$6.5Mを調達
主な投資家
Spark Capital
Khosla Ventures
Almuni Ventures
概要
Heydayは、Spark Capitalがリードし、Abstract Ventures, Correlation VenturesなどのVCおよび複数のエンジェル投資家が参加したSeedで$6.5Mを調達しました。
AIを活用した研究アシスタントのHeydayは、オンラインでリサーチの情報整理に時間を費さないよう次のような方法で、人々がより速く学び、時間を節約することを支援します。
過去の研究成果を関連する Google 検索結果と一緒に表示することで、記憶力を高め、情報を探し出すのに無駄な時間を費やすことを防ぎます
現在読んでいる記事と関連するツイート、記事、ドキュメントを重ね合わせ、研究のギャップを埋め、新しいトピックをより速く理解できるようにします
最も時間をかけて調べたトピックに関連するコンテンツで埋め尽くされたナレッジベースをキュレーションし、定着度を向上させます
Heydayのブラウザ拡張機能は、インストールすることができます。ブラウザに拡張機能を追加し、アプリを統合することで使い始めることができます。Heydayは、Google Docs、Dropbox、Slack、Twitterからファイル、リンク、会話を取り込み、既存のワークフローを強化します。Google検索と一緒に忘れられていたコンテンツを再表示し、閲覧中のページに関連記事やツイートを重ね、最も時間をかけて読んだトピックに関する知識ベースを自動的にキュレーションします。Heydayは、Chrome、Firefox、Brave、Edge、Vivaldiの各ブラウザで利用可能です。
All of you who:
— Samiur Rahman (@samiur1204) December 8, 2021
- have 50+ tabs open
- find yourself reading about 20 topics a day
- die a little inside when trying to organize your shit
How does this sound? pic.twitter.com/xaQEGzMFuy
■ AIインテグレーションPFの"AI Squared"がSeedで$6Mを調達
主な投資家
New Enterprise Associates (NEA)
概要
AI Squaredは、NEAがリードし、Ridgeline Partnersが参加するSeedで$6Mを調達しました。
ローコードAI統合プラットフォームを提供するAI Squaredは、大企業向けに機械学習(ML)モデルをビジネス・ウェブ・アプリケーションに迅速に適用できるように設計された最先端の人工知能(AI)プラットフォームを提供しています。
AI Squaredは、ローコードのAI統合プラットフォームで、アプリケーションへのAIの統合を簡素化および加速することで、企業が既存のアプリケーションをインテリジェント化できるようにし、最終的にAIの導入を促進することを使命としています。このプラットフォームは、既存のアプリケーションにAIを組み込み、インテリジェントな自動化、データに基づく洞察、ガイド付きの推奨を統合して、よりパーソナライズされたインターフェースを提供し、生産性を向上させ、意思決定をサポートできるインテリジェントなアプリケーションを作成することができます。この技術は、モデルの統合やITへの依存といった多くの複雑性を取り除くことで、企業が機械学習の導入を加速させることを可能にします。AI Squaredを使用することで、データサイエンティストはMLモデルの構築、最適化、ビジネスアプリケーションへの統合を簡単かつ効率的に行うことができ、AIを活用した洞察を数分でビジネスユーザーが手にすることができます。
■ Web3フィットネスの"Fitmint"がSeedで$1.6Mを調達
主な投資家
General Catalyst
概要
Fitmintは、General Catalystがリードした初めてのSeedラウンドで$1.6Mを調達しました。
インド・ベンガルールに拠点を置くmove-to-earnのスタートアップであるFitmintは、ユーザーがウォーキングやランニング、ワークアウトをするだけで、暗号通貨で報酬を得ることができるWeb3アプリです。TwitterとDiscordには、世界50カ国以上から10万人以上のメンバーが集まっており、全ユーザーの85％が毎日このアプリを利用して、カロリーを消費しています。
同社は、人々に健康的で活動的なライフスタイルを提案し、Web3の素晴らしさを伝えることを目指しています
投資環境
● S&P 500が1970年以来最悪の上半期
S&P 500は、1970年以来最悪の上半期を記録(−21%)しました。しかし、その悲惨な成績は、今後の事態を示唆するものではありません
S&P Dow Jones Indicesの分析によれば、歴史的にみて、上半期と下半期の指数のパフォーマンスにはほとんど相関がないそうです
S&P 500は、現在の環境と比較される高インフレの1970年前半に21%下落しましたが、その年の最後の6ヶ月間は27％上昇しました。2020年は、前半に4％下落し、後半に21％上昇しました
2022年後半がどうなるかは、まだコイントスのようなもので、1957年以降、S&P 500が上半期にマイナスとなった年には、ベンチマークは約50％の確率で下半期にマイナスとなりました
● VCファンドのリターンが急降下
ベンチャー・ファンドは長年にわたり、オルタナティブ・アセット・クラスの中で最も高いリターンを上げており、プライベート・エクイティ、不動産、プライベート・デット、実物資産に勝るとも劣らない成績を収めてきましたが、急成長企業の急激な価格変動により、その勢いが脅かされています
VCファンドのパフォーマンスに関するPitchBookの最新アナリスト・ノートによると、第1四半期に、68%以上のベンチャー・ファンドが、投資資金に対する実現・未実現の合計リターンの低下に見舞われています
その中でも、ファンドの現在価値と分配金に対するファンドに払い込まれた金額の比率であるTVPIでは、中央値が2021年のピークから3.5%低下しています。この下落率は、世界金融危機時の7.8％、ドットコム・クラッシュ時の15.7％に次ぐものです
VCファンドには$1.4T以上の含み益があり、評価倍率の持続的な低下は、VCへの投資家であるLPから数十億ドルの価値を消し去る結果になりかねません
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？