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はじめに

 

 今回は、弁護士にとって、少し刺激的な事件です。

当番弁護


 逮捕されたときなどに、弁護士会から弁護士が派遣され、逮捕された者(被疑者)に、無料のアドバイスが受けられる当番弁護制度があります。

 余談ですが、(逮捕に続いて)勾留された場合に、資力の乏しい方向けの国選弁護人制度がありますが、逮捕の段階で、すぐに当番を依頼してください。つまり、警察官により(自白)調書を作成されられる前に、当番弁護士を呼んでください。こんなはずではなかった。罪を認めるつもりはなかったと弁解しても(弁護士に何とかしろと言っても)、後で取り返しがつきません。

 私は、当番弁護の名簿に登録されているので、時々、回ってきます。弁護士会から電話がかかってきて、どこかの警察署へ出動します。

 日本人男性、罪名は恐喝、年齢は中年


 長年の経験から、恐喝、脅迫の被疑者は、実は要警戒です(その意味は、後でわかります。)。と言っても事情は様々なので、会って話を聞いてみないと分かりません。


接見(面会)


 某警察署で、アクリル板越しに登場した被疑者は、いきなり、

 
 「何で俺が逮捕されるんだ。逮捕されないって弁護士が言ってたはずだ。
  おかしいだろ、すぐに弁護士に電話しろ!」

と言われました。

 「・・・?」


 こちらは、当番弁護の出動の際に、最低限の情報(氏名、年齢、国籍、罪名程度)しか得ていませんので、背景事情など全く事情が分かりません。

 そこで、


 私:「すいません、私、本日当番弁護できました小林です。詳しい事情が
    分かりませんので、まずはお話を伺えますか? 
    まず、あなたのお名前からですが、・・・」

とこちらが話したとたんに、

 被疑者:「てめぇ、〇すぞ! すぐ、弁護士を呼べ!」

と言い返されました。

 (・・・私も、弁護士なんですけどね・・・。)

 私:「既に、弁護士にご相談されているんですか?」

 被疑者:「うるせぇ、〇すぞ! すぐ、弁護士を呼べ!」

 面会室に入って、5分も経っていないのに、初対面の方(被疑者)から2回も「〇すぞ!」と言われました・・・。

 
 多分、弁護士になったばかりの若い弁護士や、刑事事件をそれほどやっていない弁護士だと、ビビッてしまいますよね。

 幸か不幸か私はもう結構な年月と件数を扱っており、それなりに年齢も重ねてきているので、それほどでもありません。
 むしろ、腹立たしく感じてしまいます

 まぁ、もしかしたら、油に火を注いてしまうかもしれないなぁと思いつつ、

 私:「えっと、あなたは、当番弁護を依頼されたんですよね。私は、本日
    の担当で、無料で、あなたにアドバイスに来たのです。なのに、そ
    のような態度とか言動はどうかと思います。一からお話を伺えます
    か?」

 被疑者:「お前、嘘つくな。当番は1万円貰えるんだろ!俺は知ってる
      んだ。金貰ってるのに、生意気なこというな。」

 ・・・。当番弁護制度では、逮捕等された被疑者は、無料で、アドバイスを受けられます確かに、当番弁護で出動すると、1万円ちょっともらえます

 「(被疑者にとって)無料」と言ったことに対し、「当番弁護を担当した弁護士は約1万円が報酬で支給される(なお、交通費を含む。)」ことを述べ、私を嘘つき呼ばわりしました。

 多分、弁護士を奴隷のように思っているのでしょうね。困ったものです。

 2回「〇す」と言われたこともあり、もう、話にならないなと思い、無言・無表情で被疑者の目を20秒くらい見つめた後に、「これ以上お話はできそうにありませんね」。」と言って、退出しました。

 後日、弁護士会に電話し、「すいません、当番弁護で出動したのですが、冒頭から被疑者に『〇す』と2回言われたので、ろくな助言もできず、帰ってきました。その被疑者が呼べと言っていた弁護士は〇〇〇〇弁護士なので、弁護士会から、その先生にご連絡をして頂けますか。あるいは、私から連絡しましょうか。なお、今回の報酬は辞退します。」と言いました。

 弁護士会の担当の方は、

 「いやいや、出動されたので、報酬は支給します。先生も大変でしたね。
  〇〇〇〇弁護士には連絡します。」

 ということで、本件は終了しました。短い時間ですが、しんどい時間です。多分、10万円もらえても納得できない精神的苦痛ですね。
 その被疑者が、その後、どうなったかは知りません。〇〇〇〇弁護士がうまくやっているのかもしれませんし、そうではないのかもしれません。

 このような件は、当番なので、(受任しなくてもよいので)まだましですが、国選弁護人の場合は、裁判所から正式に選任されてから接見(面会)に行くので、このような無茶苦茶な被疑者に当たった場合でも、最後までお付き合いをしなければなりません
 実際に、メンタルがやられる弁護士も多いですし、そのような件に懲りて、二度と刑事弁護をやらなくなった弁護士も複数知っています。なぜか、私のように、平気だったり耐性がついたごく少数の弁護士が、当番・国選弁護を担当しているのです・・・。

 なお、国選弁護の場合でも、刑事訴訟法(38条の3第1項5号)には、

 弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき

に、国選弁護人は、裁判所から解任してもらえることになっています。

 ただ、私の経験上ですが、酷い被疑者・被告人に当たって、上申書で解任を要望しても、書記官から電話で「先生、裁判官によれば、今回の件では解任は厳しそうです。もうちょっとです。頑張りましょう。」的な感じで(笑)、解任してもらえない感じです。

 これまで、数回解任の上申をしましたが、一度も解任してもらったことがありません・・・。

最後に


 まぁ、このような件は、30件に1件ぐらいですので、まぁ、運が悪かったということで、特に、刑事弁護を嫌いにならず、また、次の件は一からフレッシュな気分で臨みます。(嫌な件は、続くこともありますが・・・。)

 毎回ドキドキではありますね。もう慣れましたが。

 


  

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