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刑事事件(被疑者段階)における弁護士費用-着手金、成功報酬など


1.はじめに


 前回の記事では、逮捕されたときの流れ(特に、ご家族の対応を中心に)をご説明しました。

 軽微な事案(酔っぱらって、お店の看板を壊しちゃった[器物損壊罪]程度)であれば、逮捕されても、勾留されずに、2、3日で釈放されることもあります。

 2、3日であれば、無断欠勤となってしまった場合でも、何とかうまく誤魔化せるかもしれませんね。

 しかし、勾留されるか否かという見通しも含め、やはり、弁護士に相談・依頼する必要が出てくることが多いと思います。

 そうすると、一番気になるのが弁護士費用ですよね。

 法律相談だけだと、通常、30分で5,000円(+消費税)というところも多いですが、本格的に事件の弁護を依頼するとなると、一般の方の感覚からは(私も、もと一般人でその時の感覚だと)高いと思いますし。

 今回は、被疑者段階(逮捕→勾留され→起訴されるまで)の弁護士費用について説明します。

 7分くらいで読めると思います。


2.着手金と成功報酬と…

(1)当番弁護制度


 まずは、当番弁護士制度を利用する場合です。ご本人が逮捕された場合、警察を通じて、当番弁護士を呼んでもらいたいと言うと、(弁護士会の名簿でその当日に待機している)我々弁護士が出動します。初回相談は無料です(※弁護士は日当で1万円くらいの報酬が弁護士会から支払われます。ちょっと調子に乗って飲んじゃうと、一瞬でなくなる金額ですね)。

 弁護士に依頼する場合には、契約をすることになります。

 その2018年の弁護人用のマニュアルをみると、「着手金及び報酬金の金額は、依頼者と協議し、適切妥当な範囲で決定してください。」とあります。まぁ、そうですよね。弁護士と依頼者(本人や家族等)との自由な契約ですので。

 その前置きを前提に、被疑者段階では、この金額を上回る場合には、所属会への報告が必要とされています。なお、この金額にしなければならないというものではありません。

 「被疑者段階の弁護活動の着手金は20万円+消費税

  公判請求されなかった場合(不起訴、略式起訴)の報酬金は
  30万円+消費税

 これを前提にすると、最初に、着手金を22万円支払い、無事不起訴となったり、略式起訴(罰金)となった場合(要するにうまくいった場合)には、成功報酬として33万円支払うので、合計で、55万円となります。

 ただし、諸費用(交通費、コピー代等)は別途請求される場合もあります。

 ですので、これがミニマムの着手金・成功報酬かもしれません。もっと安くやる弁護士もいるかもしれませんが、インターネットを少し調べた限りでは、これより安いのは1つの事務所だけでした。

 1点だけ注意ですが、裁判(公判)になってしまうと、成功報酬は支払わなくてよいのですが、裁判(被告人段階)での着手金が別途かかりますので、(他の弁護士に頼むのだとしても)結局、同じくらいの金額がかかってしまいます。

 更に言えば、裁判で無罪になったり、執行猶予が付いたりすれば、被告人段階での成功報酬もかかります。

 結局どっちにしても、ミニマムで55万円はかかりそうです。


(2)九条先生の場合


 九条弁護士(「九条の大罪」という人気漫画の主人公)はどんな事件でも30万円(+消費税?)で依頼を受けると書いてあったと記憶しています。その他の費用はわかりません。確か、あまり、お金には興味のない感じのキャラクタですよね。

 

(3)さまざまな法律事務所の調査


 インターネットで主要な法律事務所の費用を調べてみました(そんなにしっかりは調査してません。AI活用するなどして調べました。)。
 着手金は、およそ、25万円~55万円+消費税でした。

 ただし、「~」(から)です。ここが大事。

 成功報酬は、その金額より高く設定されていましたし、成功の程度で幅がありました。たとえば、「0~100万円」の幅で設定されている事務所がありました。

 そうすると、刑事事件(たとえば、家族が逮捕されて、)弁護士に依頼すると、起訴(裁判になるまでの段階で)最低でも50万円(成功報酬を含む)、多いと100万円を超える場合もありそうです。

 ここで、ちょっと注意しないといけないのは(私も様々な法律事務所の費用体系を見て知りました。)、結構、様々な項目立てをしてあり、追加の費用が発生する事務所があることです。

 被害者がいる事件の場合(大麻取締法違反だといませんが、傷害だといますね。)、示談が成立した場合接見禁止が解除された場合(勾留に際し、接見禁止がつくと、弁護士を除く他者と接見や手紙のやりとりができなくなる)、日当(近所でも数万円という設定がされている事務所がありました。)などなどです。

 ですので、実際の事件だと、どんどん課金されて、軽く100万円を超えてしまうかもしれません。私、正直、知りませんでした…。


3.なぜ高くなるか?


 これはあくまで私見です。

 皆様が、「刑事事件 弁護士費用」で検索すると、上位に大きな事務所がヒットすると思います。(弁護士も商売ですし、私もそれを反対するわけではありませんが)広告費用をかけていると思います。これは、刑事事件に限らず、離婚事件でも、他の一般事件でも同様です。やはり、それを回収するため、費用が高額に設定される場合があります。

 事務所の家賃・人件費も高いですね。これは、ほぼ全ての弁護士にあてはまるかもしれません。

 私の場合、専門が知的財産法(特許法など)で、特に、事務所のHPでも、刑事事件を扱っているとは書いていませんし、宣伝もしていません。料金も書いないかもしれません。

 だいたい、公益活動としての国選事件(資力のない被疑者の場合で、費用はかからず、弁護士がもらえる報酬はトータルで5~10万円くらい。これまで述べた金額とは桁違いに低いですね(笑))をやっているので、刑事事件1件で100万円の報酬となると思うと、正直ちょっとその落差にびっくりします。

 もっとも、昔(10年前くらいに、偶然)、私選で、当番弁護のマニュアルに準拠して、着手金20万円+報酬30万円でやってしまいましたが、おそろしく時間と手間がかかったので、やってられないと思った記憶がありますので、やはり適正な金額設定が重要です。
 しかも、弁護士自身のメンタルもやられます。
 私の経験で、被害者との示談で、数時間、被疑者の行為や文句を聞かされたことがあります。でも、被疑者から依頼を受けている弁護人としては、「そんなに言うなら、じゃあ、もういいです。」と早々に切り上げて退出するわけにもいきませんしね。

 着手金は、事案に応じて、20~50万円(+消費税)[ほぼ全部込み]が基本でしょうか。

 金額が20万円から大きくなる要素としては、①被害者の数(示談の必要があるため)②否認事件(接見の回数が増えるため)あたりでしょうか。

 一旦着手金をもらってから、増額になる場合は私の場合はあまり考えられませんが(他の事務所では、結構細かく増額設定されていますね)、強いて言えば、再逮捕の場合でしょうか。特殊詐欺の事案ではよくあります。再逮捕で勾留がどんどん伸びるので、接見回数との関係で、これはやむを得ないかもしれません。そもそも、再逮捕場合は別事件なので、前の契約の対象外ですしね。

 なお、読者の皆様にはあまり関係がないかもしれませんが、難しい事件(特殊な法律違反や経済事犯など)や外国の方の事件など、極めて特殊な事件の場合は、もっと金額が上がらざるを得ません。なお、通訳必要だと、通訳人へお支払いする通訳料も別途かかりますね。


4.弁護士費用に関するエピソード


 ある国選事件(被疑者段階)を担当しました(前述したように、弁護士が貰える報酬はトータルで、5~10万円。だいたい、1回の接見で2万円くらいの感じです。)。

 国選事件として任務を遂行していたのですが、被疑者本人ではなく、その知り合いが、逮捕段階で既に私選の弁護士の先生に依頼したらしく、その場合、国選は通常、解任となります(国選は、国の費用で運営していますので、自分で支払う私選が原則です。ですので当然ですよね。)。

 解任されたので、私としてはその事件は終了ですので、少し日が経って忘れかけたころ、その被疑者のご家族から連絡がありました。

ご家族: 「(被疑者)本人の知り合いが、私選の弁護士を別に依頼して
      しまったせいで大変申し訳ありません。」

私: 「いいえ問題ありません。国選は原則として資力のない方のための
    ものですし、本来は、私選が原則です。私も、3回接見にいった
    分の費用(※6万程度ですが)は、法テラスから頂けますし。」

ご家族: 「私選の先生が、ぜんぜん動いてくれません。
      面会にも行ってくれないし、私が電話しても、
      5分も経たず電話を切ってしまいます。」

私: 「そうなんですか。まぁ、その先生はお忙しいのでしょうね
    (※私が暇なわけではない)。その先生にちゃんとやってくれる
    ようお願いしたらどうですか?」

ご家族:「しかも、知人が着手金を100万円で立て替えたらしく、
     知人が私に請求してきました。」

私:「えっ、着手金100万円ですか…
   (※この事件だと被害者もいないし、せいぜい、30万円くらい     
     だろうに…。やはり、自分の感覚が安すぎるのか…)」

家族:「先生、もう一度、国選弁護人になってもらえませんか?

私:「それは残念ながら、制度上できません。もう一度私が担当すると
   するとその先生に辞任してもらい、私との私選契約をすることに
   なってしまいます。しかし、…
   しかも、今の先生へ支払った着手金は返してもらえないと
   思います...」

家族:「全額返せないと言ってました。」

私:「やはり、そうですか…」

家族:「先生はお幾らですか。」

私:「そもそも、国選事件で一度担当しているので、同じ事件を私選で
   受けると、弁護士倫理上問題が生じる可能性があるので
   金額によらず、依頼を受けるのが難しそうです…。
   どうしてもということでしたら、ちょっと私選で受けられるか
   弁護士会に確認します…」

  (※なお、国選弁護人が私選に切り替えるよう働きかけると、弁護士
   倫理上問題があります。もっとも、弁護士の働きかけではなく、
   本人や家族からの依頼であれば、倫理上問題ないと思われますが、
   「働きかけ」たかどうかはやりとりの中で微妙ですし、念のため、
   受けるのを控える場合が多そうです。私がどうしても
   助けてあげたいと思えば、弁護士会に、問題ないか念のため
   確認した上で、可能なら受任するかもしれません。)

 こんな感じでした。このような経験は、国選やっていると、何回も経験します。私選にしたはよいが、前の国選の先生よりぜんぜん動いてくれないパターン…。国選の先生は動いてくれないという偏見から、私選にしたものの、その結果、ドツボにはまるパターン。

 結局、私選か国選かは関係なく担当する先生がよいかどうかに尽きます。
 なお、国選は弁護士を選べません。
 私選は自由に選べますし変えることができますが、お金がかかります…。


5.高い弁護士は、良い弁護士か


 上のエピソードからも、そうとは限らないことがお分かり頂けると思います。

 私選弁護人と国選弁護人で、前者が後者より優秀とは限りません。
 刑事事件としての活動内容に違いもありません。

 費用が高く設定されている弁護士が、そうではない弁護士より優れているとも限りません。これは、刑事事件に限りませんが。


 ちなみに、知財系で言えば、うちの事務所は、他よりだいぶ安いですが、
 日本一の知財系の事務所です(宣伝)。


 脱線しましたが、非常に優秀な先生ですが、国選事件だけを公益活動としてやっている先生も結構見かけます。HPで刑事事件を扱っていると書いていない先生も多いです。ちなみに、私も書いていません。もっとも、優秀ではありませんが…。


6.おわりに


 今回は、弁護士費用(被害者段階)についてご説明しました。

 結局は、家族が逮捕されるなどの緊急事態に備え、そのような不測の事態より以前から、信頼できる弁護士の知り合いを作っておくことが最重要です。

 今からでも友人や知人の紹介で弁護士と知り合いになっておくのもよいですし、周りに弁護士がいなくても、街の法律相談などをきっかけに、ちゃんと話を聞いて適切なアドバイスをしてくれる良い弁護士を見つけたら、名刺をもらって、一言、「先生は、刑事事件もやるのですか?」と聞いておくのがよいかもしれません。やらなくても、その先生から刑事事件ができる良い先生を紹介してもらえるかもしれません。

 そして、名刺を財布に入れるか、冷蔵庫に貼るなどして、ずっと取っておいてください。

 結局、(刑事事件を扱える)良い先生を事前に(複数)確保しておくのが一番確実です

 そうでないと、家族が逮捕され、テンパって慌てて、HPで調べた一つ目の法律事務所に行き、そこで決めてしまいます。そのような状況では、複数の事務所を回って、先生の人となりを見て、料金を比べて慎重に検討することは事実上できません。

 それで、当たりの弁護士なら良いですが、そうでないと、弁護活動もいまいちで、費用も高くて、…。

 次回は、被疑者段階での様々な問題点を書いていこうと思います。

 身柄拘束されていると、本人はもちろん、ご家族も色んな問題が生じ、大変な状態になりますので、その辺を紹介したいと思います。

 

弁護士・弁理士 小林正和 (中村合同特許法律事務所)

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