見出し画像

『おかえりモネ』 楽曲解説 1


まずは、サントラ第1集の1枚目から。

1枚目は、百音をイメージした曲を中心に集めました。


スクリーンショット 2021-03-28 16.52.47

1.   環
Tamaki

『おかえりモネ』の音楽を作るにあたって、いくつか大きなテーマが用意されていたのですが、一番のテーマは「循環」です。

循環には、いろんな意味合いがあります。

ひとつは、山と海と空を水がめぐりめぐる自然の循環。

もうひとつは、主人公の百音の小さな羽ばたきが、やがて大きな風になり、いろんな人たちを変えていく、そしてまた新しい風になって戻ってくる。人が生み出す循環。

演出の一木さんから、熱く熱く、依頼されて作った曲です。
「脚本に合わせなくていい、思うままに作って構わない、壮大な曲が来て、こちらの演出、映像を変えなければいけない、そんな曲を作ってください!全部受け止めます!」と、こんな嬉しい依頼はありません。思いっきり作りました。

このドラマは、ぐるぐると回る洗濯機を見つめる百音の姿からスタートしますが、あの真新しい純粋な表情と、第5話で朝岡に教えられた空に彩雲を見つける百音のとびきり嬉しい表情を見ながら曲を作りました。

雨の滴が、ぽつん、ぽつん、と降ってきて、わくわくした蝶がふわふわ飛びまわる、その小さな羽が起こした風がふわっと舞って、ぐるぐると大きな風になって、周りを巻き込んで、おおらかに上昇していく。

そんな曲です。サビでは2オクターブもメロディーが渦巻ながら昇っていきます。

蝶が出てきたのは、一木さんが「蝶の羽ばたきが遠く離れた場所の大きな風を引き起こす。そんなバタフライ効果のような曲をお願いします」と仰っていたので、僕の頭の中では、いつしか、百音=蝶になりました。他の曲でも百音の曲は、蝶がモチーフになっています。

蝶の羽ばたきをメロディーにすると、、
循環するメロディーってなんだろう、、。

そんなことを考えながらピアノを弾いていると、ふわふわしてるけれど壮大な曲になりました。壮大な曲といえば、もっと激しく勇しくなってしまいがちですが、ふわふわしたまま壮大にする、これは今までやったことがなく、今回の音楽全体の大きな目標にもなりました。

一緒に編曲してくれた足本憲治さんとも、ふたりの代表曲『きときと』以来の挑戦をしようと、一音一音に心血を注ぎました。

演奏者の皆さんも楽譜を見るなり笑いあり、楽しく演奏してくれて、やったぞと思いました。

録音ミックス・エンジニアの柳谷智章さんが最後の最後までミックスを粘ってくれた曲です。
こちらはピアノがメインに聞こえるミックスですが、もう一つ、オーケストラがメインのミックスもあります(第2集に収録予定)。

スクリーンショット 2021-03-28 11.30.11

2.  青空うたえば
Singin’ in the Blue Sky

先に『あめはれわたり』(3枚目に収録)という曲ができて、その曲のブラスバンド・バージョンです。
ブラスバンドもモネ音楽の特徴のひとつです。

百音の同級生たちが演奏しているつもりで作りましたが、仙台で開かれているジャズ・フェスティバルの雰囲気も意識しました。

父親の耕治がトランペットを吹きますが、彼が演奏しているイメージで聴いてもらえると、また味わいが変わるかもしれません。
若い人たちを応援したい気持ちの曲です。「日常 - 青春の思い出」という仮タイトルが付いてました。


スクリーンショット 2021-03-28 6.21.55

3.  おかえり (歌:アン・サリー)
Homecoming

こういう曲を作って欲しいという注文はなかったのですが、物語のあらすじを読んで、自分なりの主題歌のつもりで作りました。『ふるさと』のような曲、誰かに「おかえりなさい」と言ってもらっているような曲になればと。

アン・サリーさんが歌っているのを想像しながら生まれた曲です。迷わず、アンさんに歌と歌詞をお願いしました。
すぐに『おかえり』の歌詞が届きましたが、もう素晴らしくて。
懐かしい景色のなかに誘われて、視点がどんどん切り替わり、気がつけば、一番星と目が合っています。

ドラマでは、おばあちゃんがナレーションを通して物語全体を優しく包んでいますが、アンさんの歌も同じだなと感じています。
おおきな優しさが有り難いです。

NHKのスタジオでピアノと一緒に録音したのですが、予定していた日には何度挑戦してもうまくいかず…。どうしようか困ったのですが、次の日に再び歌いに来てくださって、一発で仕上がりました。
魔法のような時間でした。
録った音をその場で聞いたのですが、堪えきれず涙しました。 

スクリーンショット 2021-03-28 10.50.55

4.  この星はやさし(合唱)
Tender is the Planet

百音と未知の子ども時代、ふたりがサヤカの豊かな山を一緒に歩いているのを想像しながら作りました。

山を歩いていると、たくさんの生き物に囲まれますが、その山を大事に思ってきた人々の想いも感じます。

合唱曲にしたいと東京混声合唱団や太田美帆さんたちに歌ってもらったのですが、せっかくなので、みんなも歌いましょうと、その場にいたプロデューサーやスタッフ、編曲家、音響デザインなどなど、みんなで歌いました。

スクリーンショット 2021-03-28 15.04.21

5 . 朝風 
The Wind of Morning

このドラマに必要な曲について、音響デザインの坂本愛さんから音楽メニューと呼ばれる発注がありましたが、この曲のように『朝風』と仮タイトルがついて、「朝、気持ちのいい風のなか、自転車をこぐ。風に乗る」と作るべき曲のイメージを教えてくれます。

まさに自転車で通勤する百音の映像があったので、見ながら作りました。

百音が演奏していた楽器は、アルトサックスなのですが、彼女が吹いているイメージでメロディを吹いてもらっています。

サントラ全体で、百音が吹いているつもりの曲は、齋藤純子さん。
サックスらしい演奏は、本田雅人さん、と贅沢にも2人の演奏家にお願いしました。
音楽チームのこだわりです。
齋藤さんの音色は、まさに百音のように柔らかく、この曲にぴったりでした。


画像15

6.  お祭り騒ぎ
Revelry

登米の皆さんのわちゃわちゃから、こんな曲が出てきました。
僕が住んでいる山村でもよくある日常の光景なので、登米の音楽はすんなり楽しく作れました。

今回、音楽プロデューサーをお願いしたメロディーパンチの緑川徹さんは、普段はCM音楽を作られていて、僕も何度もご一緒させていただいているのですが、ドラムも叩けるとお聞きしていたので、ついに、叩いてもらいました。
他の曲でもたくさん叩いています。
緑川さんのドラム、独特の走ってる感があって、とても好きです。

間奏が、なにやら昭和っぽくって気に入ってます。
昭和の感じもモネ音楽の特徴だと思います。


スクリーンショット 2021-03-28 10.30.49

7.   へろへろ
Hero Hero

仮タイトルは「コージーのへろへろ」。
ほんとうはもう少しテンポのいい曲だったのですが、極限まで遅くして欲しいと坂本さんから注文がありまして、こうなりました。
確かにこれくらい遅い方が映像と合ってました。

僕のなかでは昔訪れたキューバっぽい曲です。
何かあっても前向きに人生を楽しんでいる人たちの音楽。

へろへろ、ローマ字にすると、Hero、ヒーロー。
お父さん、かっこいいです。


スクリーンショット 2021-03-28 11.16.09

8.   んだっちゃんだっちゃ
Ndaccha Ndaccha

登米の人たちの元気な曲です。
金管が森林組合の人たちのたくましさを、笛がカフェのおばさまたちの楽しいお節介な感じを出してくれていると思います。
ジプシーの音楽のような、ごちゃ混ぜの無国籍な雰囲気です。


スクリーンショット 2021-03-27 20.39.07

9.   ともだち
Friend

幼なじみが集ってわいわいしているのがとても羨ましく。
若いっていいなあと心から思いました。

自分の若い頃、友達と切磋琢磨、懸命に過ごした日々を思い出しながら作っていると、なんとなくポストロックっぽい感じも出ました。百音の年頃に聞いていた音楽だったからかもしれません。

クラリネットとフルートが交互にメロディを奏でていますが、はじめはありませんでした。
坂本さんからアドリブっぽい演奏を足して欲しいとリクエストがありまして、この形になりました。
こういうのは言われないと自分では思いつきません。

クラリネットは中ヒデヒトさん、フルートは坂本圭さんの演奏です。会話してるみたいで素晴らしいです。

スクリーンショット 2021-03-27 18.29.49

10.   森の大合唱
Chorus of the Forest

子どもたちが集まったときの曲ということで、10年ほど前に通わせてもらっていた’森のようちえん’を思い出しながら楽しく作りました。
子どもたちが演奏している気分で。
リコーダーの音がかわいいです。
家にある小さな楽器もたくさん使いました。

スクリーンショット 2021-03-28 16.57.23

11.   家族
Family

『おかえり』のギター・バージョンです。

子どもの頃、MTVアンプラグドという、エレキギターやドラムなどを使って派手だった曲をアコースティックな楽器で演奏するというテレビ番組の企画があって大好きだったのですが、その雰囲気を思い出しながら。

岡田ピローさんにいろんな曲でギターの演奏をお願いしたのですが、ピローさんだけNHKのスタジオではなくリモートで自宅録音していただきました。
こちらの要望に、何度も録り直すなど、熱意を持って取り組んでいただけて、とても感謝しています。第二章の東京編のバンド演奏に繋がり、大活躍してもらえました。

スクリーンショット 2021-03-28 17.04.29

12.   雨宿り
Shelter from Rain

カエルやハトが歌っているような雰囲気ではじまるこの曲は、タイトル通り、雨の日の曲です。

登米編では、百音は来る日も来る日も、気象予報士の勉強を続けます。雨の日も菅波と一緒に勉強。ふたりで雨降りのバス停にいるみたいな。

夢中になれることがあるのは素敵です。

木管のみの演奏。
坂本圭さんのオカリナが優しいです。

スクリーンショット 2021-03-28 6.34.31

13.   いつも見守っている
Always Being in You 

『おかえり』の足本憲治さんによる編曲です。
メロディーのみの状態から編曲していただきました。

仮タイトルでは「ヌシ」と付いてまして、あすなろの大木やサヤカをイメージした曲だった筈ですが…、第一章では使われなく、足本さんも心配していましたが、第二章の後半になってよく流れるようになりました。
スケールが大きな曲だったので、物語が熟成していく後半によく合っていました。

足本さんの編曲は、オーケストラらしい響きが特徴で、こういう豊かな音は僕には辿り着けません。
今回、はじめから足本さんに編曲をお願いできたことで、僕は僕の持ち味を活かせる曲に集中でき、足本さんも足本さんの持ち味120%で自由に編曲してもらえるという、とても有り難い環境をいただけました。

このドラマが、あるスケール感を持って豊かに彩られたのは間違いなく編曲してくれた方々のお陰です。

スクリーンショット 2021-03-28 10.31.01

14.   若葉
Verdure


これから自分がどんな羽を広げるのかわからない、どきどきする可能性のなかで、ひそやかに力をみなぎらせていきます。
若いっていいですね。

スクリーンショット 2021-03-28 10.54.37

15.   蝶のはばたき
Butterfly Effect

百音が本屋で参考書を手に取ると「気象予報士は、いのちを守る仕事です」という言葉がありました。希望に満ち満ちて、自転車で走り出します。

自分のやりたいこと、興味のあることが、みんなが暮らす社会にきちんと関係している、繋がっていることを知る喜び。

音楽の仕事も、音の力を通して、何処かで誰かと一緒にきちんと歩めていると信じてやっています。

僕はピアノ弾きなので、どうしてもピアノ曲が多くなってしまうのですが、エレキギターの音が登場人物の複雑な心の動きに近づいていけることに気がついて、とても新鮮でした。
この後、弾けないのに、勢いでエレキベースを中古で買ってしまいました(ベースなら弦の数が少ないので何とかなるかなと)。
東京編ではエレキベースを使ってバンドの曲を作曲しました。

スクリーンショット 2021-03-28 14.24.34

16.   あかつき
Akatsuki

とても気に入っている曲のひとつです。

サナギから蝶に変容するイメージで作りました。
後半にいくに従って、旋律がいくつも重なり、美しい羽が広がっていくようです。

弦楽器の演奏は、押鐘ストリングス。
弦楽器は、無茶なリクエストに幾つも応えてくださって、一番大変なパートだったと思います。
録音もとてつもない時間に及びましたが、最後の最後まで粘ってもらえました。
強い芯がありながら、包み込むような柔らかさが同居している押鐘さんたちの響きは、モネの音楽を特別なものにしてくれました。


スクリーンショット 2021-03-27 20.32.34

17.   あすなろ - 息吹
Asunaro - Ibuki

百音の曲として、そして『おかえりモネ』の音楽としても、一番はじめにできた曲です。
どんな曲がモネに相応しいのか、楽しく準備する日々が一ヶ月ほどあったのですが、その日の作業を終えておしまいにしようとしていた時に、ふと、このメロディーが頭に鳴りました。
ピアノで弾いてみると、とても純粋な、新しくて懐かしいメロディーで、ああ、これはこれからやってくる子どもが作った曲だなと感じました。
ちょうど、妻が妊娠していた時期で、大きくなり始めた妻のお腹のなかから曲を教えてくれたのかなと感じました。

この曲のメロディが出来て、編曲を進める辺りから、僕の音楽の作り方が変わっていきました。
ひとつ音を足すと、目を瞑って指揮を振ります。そして、次に鳴って欲しい音に向かって身を乗り出して指揮を振ると、新しい音が聞こえてきます。そうやって、次の音を見つけて、また指揮を振って、を繰り返しました。
そのうちに、どんどん壮大なアレンジになっていきましたが、今まで体験してきたこと、出会ってきた人、聴いてきた音楽が、みんな助けてくれているような気持ちになって、ものすごく幸せなまま仕事ができるようになりました。

音楽は、自分だけで作ってるんじゃないというのが、きちんとわかりました。
自分のなかから溢れてくる息吹のような曲です。
百音に教えてもらったのだと思います。

スクリーンショット 2021-03-28 17.23.25

18.   満ち欠けるわたし
Phase of Me

「月の満ち欠け」も、演出の一木さんから何度も教えてもらったこのドラマの大切なテーマでした。

百音と未知。

それぞれ、月のように、満ちたり欠けたり、ふたりでひとつの満月なのかもしれません。
僕にも兄弟がいるので、この感じはよくわかります。

月明かりの下では、いつも、純粋な心だけが残されます。

スクリーンショット 2021-03-28 11.19.10

スクリーンショット 2021-03-28 16.58.18

19.   天と手 (歌:坂本美雨)Heaven and My Hands

仮タイトルは「祈り 共鳴」。
真っ白な雪のなか、誰に聞かせるでもなく、ひとり歌う。
歌うことで自分自身を癒す讃美歌のような祈りの歌。

この曲を歌うのは、坂本美雨さんしかいないと思いました。

スタジオで久しぶりに会った美雨さんは、すっと何も持ってないように現れ、すっと歌って、すっと帰られました。
綺麗な空気だけ残していってくれたようでした。

全体を包み込むアンさんの歌とは違い、美雨さんは等身大の百音の歌。
この後、第2章、第3章でも、アンさんには大きく見守っている歌を、美雨さんには百音のテーマを歌ってもらうことになりました。
変化していく百音に合わせて、美雨さんの歌も大きく羽ばたいていきます。

スクリーンショット 2021-03-28 17.19.49

20.   ふたりの時間
Time Together 

ピアノだけの曲だったのですが、足本憲治さんに2パターン、編曲をお願いしました。
こちらはストリングス・バージョン。

わらっと色んな人に囲まれる場面ではなく、ふたりきりで、ゆっくり話して、親密な時間をつくっていく。
百音らしい音というのが、曲が増えるたびに浮かび上がってきました。

スクリーンショット 2021-03-28 6.15.25

21.   夢むすび
Yume Musubi

夜にこつこつ勉強したり、自分の将来に想いを馳せている感じでしょうか。

子どもの頃、文集などに将来の夢を書かないといけなくて、サッカー選手とかパン屋って書いて誤魔化していましたが、心の奥底では何故か音楽家と書きたかった。ゲームで遊んでいても、鳴っている音楽ばかり気になって、サントラを聴いたり楽譜を買ってもらったりしてました。楽器も演奏できないのに、自分がこういう音楽を作るんだと、何故か強く思っていました。

将来どんな仕事をするのか、どんな人になっていくのか、いつ決まるのでしょうね。
自分がやれることを一生懸命になってやっていると、人に出会えました。いろんな人のいろんな心と出会えました。
自分の心もいろいろな心になっていきます。
その先に自分の叶えたかった夢が待ってくれている気がします。

「誰かの役に立ちたい」と僕もずっと思ってます。

スクリーンショット 2021-03-28 17.21.42

22.   夜の虹
Lunar Rainbow

仮タイトルは「片想い」。
いろんな片想いがありますね。
僕にもいっぱいあります。


スクリーンショット 2021-03-27 21.12.22


23.  虹の祝福
Rainbow Blessings

仮タイトルは「循環 はじめての森」。

百音がはじめてサヤカの山に連れられて入るシーンに合わせて作りました。

まだ知らないものだらけで、何もかも新鮮で、キラキラしたり怖かったり。
空を見上げれば、美しい彩雲が。
年長のサヤカも大きな空も、まだあどけない百音を優しく見守っている。

1曲目と同じメロディーですが、編曲で大きく変わります。

モネの音楽は、求められている曲数が多かったというのもあって、どのように作り進めるとゴールに辿り着けるのか、最初にきちんと悩みました。

まずは、それぞれのテーマに沿って、歌えるくらい強さのあるメロディーを見つける。

そして、そのメロディーを使って、様々なシーンに合った編曲をする。

やってみて大正解だったと思います。

不思議なシーンだからといって不思議な音楽を考えるのではなく、この元気なメロディーを使って、どうすれば不思議な雰囲気の音楽が作れるだろうと考えるのは、音の実験をしてるみたいで、一歩引いたところから音を見守れてよかったです。




(1枚目はこれで、おしまいです。
百音の芽吹きがテーマだったように思います。

2枚目に続きます。
次は、命、海がテーマ。)



AmazonでCD在庫なしでも、Tower だと手に入りやすいみたいです ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?