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1ミリの氷の上の物語集

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薄氷を踏むように、危ない物語を5編、集めています。
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#チョコレートケーキ

チョコレートケーキ

若い娘とその情夫は、朝日の中を歩いていた。 娘は明け方まで六人の客をとって、 合わせて四十五本のバラをもらい、 シャンパンを二本開けたものだから、上機嫌だった。 稼いだ金を数える情夫がめずらしく娘を誉めると、 娘は太陽を大きな瞳に映して、 「仕事だもの」と勝ち誇った物言いをした。 若い肢体には、疲れた様子はみじんも見当たらず、 娘からは、ただ鼻唄に似た独り言が漏れ聞こえていた。 「夜(よ)が明けたら…夜(よ)が明けたら…」 二人が朝日の差し込む明るいカフェテリアに入ると、