はやぶさになる

朝が好き。1日が始まる前の静かな時間。100m徒競走のスタートラインに立っているような、緊張感とワクワク感。空気もいいし、私の機嫌もいい。そんな朝が好きだ。

私の住んでいるアパートは住宅街の中にあって、最寄り駅までは徒歩で15分ほど。出勤する7時半から8時くらいの時間帯にその住宅街を通ると、そこに住んでいる人の『素の顔』を見ることができる。

今日見たのは、学校に行くであろう小学生の男の子と、それを玄関先で見送る母親の構図。
お母さんが大声で「いってらっしゃい!気をつけてね!!」というと、男の子も「うん!」と元気に返していて、微笑ましいなと思ってみていた。そしたら。

続けてお母さんが
「はやぶさになりきってきてね!!」
男の子「もちろん!」
私「???」

突然なに?
はやぶさって、あのはやぶさ?鳥の方?それとも宇宙に行った方?

一体なにをテーマにしたら、はやぶさになりきってきてね、なんて言葉が会話に出てくるんだろう。

秋だから運動会が近いのかもしれない。
はやぶさといえば世界最速の鳥と言われるくらいなので、この場合は「かけっこがんばってね!」の意訳になるんだろうか。
小学生にとって、スピードのあるものとか重くてがっしりしたものってかっこいいの象徴で、とにかく憧れている気がする。新幹線とか、ガンダムとか。小学校で一番モテるのは足の速い子だし。

速い、というのは単位時間(たとえば1秒間)の中の変位(動く量)が大きいということだ。さらにこれが加速するのか減速するのかを決めるパラメータが加速度と呼ばれるものである。

F=maという運動方程式を、物理の授業で聞いたことがあると思う。Fは力、mは質量、aは加速度。力を大きくするためには、質量や加速度を大きくすればいい。つまり、重くてどんどん早くなるものほど力は大きい。

力が大きい=強い=かっこいいの方程式が成り立つので、新幹線は鉄でできていて重い、しかもめっちゃ加速する、でかっこいいのである。証明完了。
重くても加速してないとカッコ良くはない。ガンダムも加速度ゼロの状態、つまり止まっていたら単なる物体だ。加速度のある状態、スピードを出して飛ぶからかっこいいのだ。
つまりスピードはかっこよさを数値的に表すための重要なパラメータなのである。小学生男子が重要視するのも当然だ。

それに、大人だって重くて速いものが好きな人はたくさんいる。私の会社の同期に車好きがいて、この車は何キロまで出せる、馬力がこれくらいでこのくらい加速する、なんて話を飲み会でずっとしてる。撮り鉄の友達もいるし。私も自社工場のメカメカしい装置、強そう〜って思うことある。

方程式なんかなくても、本能で力のあるものを見分ける能力がもともと人間には備わっているのだ。運動方程式は物体がいつ、どこにあるのかを算出するための道具にすぎない。

ちなみに、はやぶさの顔がわからなかったのでググったら、かっこいいというより怖かった。特に目が。あんなのと目があったら怖いので、私が鳥ならさっさと逃げる。
はやぶさは時速180km/hで飛ぶ鳥で、目があう距離、5mくらい手前にいたとすると?はやぶさは1秒で50m進む計算になるのでつまり…目があった次の瞬間には食われるのか…。スピード怖いなぁ…。

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