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【短歌鑑賞】男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす 俵万智

衝撃だった。甘い題名に惑わされた挙句に、大人の女の情念をこの歌集で知ってしまったのだ。高校生の時だった。

俵万智の歌集「チョコレート革命」は、道ならぬ恋、いわゆる「不倫」がテーマとなっている。教科書に載る優等生短歌しかしらなかった純朴な高校生はそりゃあとっても驚いた。例えるならば、男子がエロ本を見る感覚で歌集を読む…。でも、癖になる。これが。この歌集の他の歌もいくつかここに並べて味わいたい。

さりげなく家族のことは省かれて語られてゆく君の一日

日曜はお父さんしている君のため晴れてもいいよ三月の空

焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き

水蜜桃(すいみつ)の汁吸うごとく愛されて前世も我は女と思う

深く厳しく我を愛せよ「地獄の門」刻んでいたるロダンの手より

平成の「みだれ髪」を目指したのだろうか。生々しい言葉の選び方に読者はイメージが伴いやすい。短歌ではなくドラマとして歌を追いかけている。これは今読み返してもおんなじだ。

揚句の「男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす」は、どうしようもない恋に溺れた女のせめてもの小さな抵抗だったのか。甘くて苦いチョコレート、このくらいしか仕返しできない。だって、愛する男だから。

この腕は明日は誰かを抱いていて我の温度を分け与えおり masajyo


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