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【百人一首鑑賞】み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり 参議雅経

■み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり 参議雅経


(詠んで味わう)みよしののやまのあきかぜさよふけてふるさとさむくころもうつなり

今回は94番目に位置する、こちらの和歌を取り上げます。

■現代語訳
吉野の山の秋風よ ふけゆく夜の静寂に砧の音が寒々と聞こえる
ふるさとのこの地にもの思えというがごとく…
田辺聖子著「田辺聖子の百人一首より」

■語句説明
砧…今風にいうと、アイロンがけ。洗濯して干した布が生乾きの内にそれを叩く際の道具。
衣服の皺を伸ばしたりつやを出すために行う。



とにかく、体感温度がとっても下がる表現

山の中で秋風が吹くころの夜(まもなく冬の足音が聞こえそう)
そんな中でアイロンがけしています、という和歌ですが。
そもそも和歌中で「さむく」と言っていますから寒いのでしょう。

秋の夜の作業というとどうしも「夜なべ」を想像してしまいます。
その清涼たる空気の中に響く砧の音は、

それはもちろん、、、楽しい音ではありませんよね。
物悲しい音と作者には聞こえたのでしょう。


これから来る冬に向けて

田辺先生(尊敬してこのように呼んでおります)の訳では
「ふるさとのこの地にもの思えというがごとく…(砧の音が鳴ってるよ)」
ということですが、具体的にはどのような「もの思う」なのでしょう。


都にいる人間が
吉野の山奥に帰りたい、
吉野のふるさとに帰りたい、
と思っているわけでもないように感じます。

私が感じ取ることは、これから来る厳しい冬を
ふるさとの大地と共に受けいれて
静かに忍耐強く過ごせよ、と聞こえてくるのです。


参議雅経とは?

鎌倉時代前期の歌人で、蹴鞠の名手でもあったそうです。
別名藤原雅経・飛鳥井雅経。
蹴鞠と歌の名手、いわば「文武両道」を地で行く方ですね。
本業でもそこそこご出世した様子。

それにしてもそのような、やんごとなき殿方が直接「砧作業」をするわけではなく、現実的には「砧の音」というのが、和歌を作る人にとっては
美味しい【材料】であったのでしょう。
それが証拠に「砧」という語句は秋の『歌語』となっています。

現代人の私達にとっての「秋の音」は何になるでしょうか?

※参考
砧とは、砧の伝承

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