ジストニア発症、克服の細かな経緯

最初は20歳(大学1年終わり頃)になったばかりのころ。

ある日、それまでなんの問題もなく出来ていた右手部分の半音階の下降フレーズが、いくら練習しようにもうまくできなくなっていた。

最初は「練習不足だろう」と思いとにかくさらいまくる日々。
でもよくなる気配はまったくない。
無理矢理学年末の試験を乗り切る。

そして大学2年の夏休み、暇もたくさんあったため、初心者の如くスケールを、特に嫌な感覚があったところを重点的に、とにかくゆっくりとさらいまくる(須川先生のスケールの本で、八分音符60くらい)。
曲などにはまったく触れなかった。
一ヶ月くらいして回復。

しかしなにがだめだったのか、どうして良くなったのかについては全く考えなかった。
ジストニアという単語も確かこの当時は知らなかった。

その後ほどなくして今度はそれまで何も問題がなかったはずの左手に再発。
この頃同級生(ピアノ、フルート)にジストニアを抱える人が数人いることがわかり、色々と情報交換。
紹介してもらった病院に通ったりする。

この時の主な対処としては、
・マッサージ
・カイロプラクティック
・音楽家専門外来でのカウンセリングのようなもの

でした。
カウンセリングがわかりにくいところかと思いますが、ここでやったことは、ある特定の自分不得意に感じるパッセージに基づいて日記をつけるというもの。

毎日、四分音符=60~92というような段階で、「○月×日、四分音符60→○、63→○、66→△、69→△、72→×」というように毎日日記をつけていきました。

このテンポではできる、これは無理、ということは見定めがつきやすかったですが、結局はできたとしてもすごく違和感が残っていたし、結局できないテンポに達した時に絶望感を感じ、辛くなることが多かった。

こんな具合の治療?を確か1~2年くらい続けて、しかし改善はなく、病院等に通うこともやめ、そのまま活動を続けます。

一頃はボレロの最初の「ドーシラソドレシラ」あたりでも指のコントロールが全くきかずしんどい気持ちになる情況で、その後30歳になるくらいまでだましだましやりのけますが、限界を感じることもあり、一念発起して、30歳を過ぎたあたりから改めて治療に取り組みます。
そのときに出会ったのは、アレキサンダーテクニーク、催眠療法。

「練習」という行為に脳科学的、解剖学的、心理学的視野が入り込み、そこからありとあらゆる分野を学び、少しずつ改善されていきました。
しかしこのとき、アレキサンダーテクニークや催眠療法について、最初から「これだ!」と思って接した訳ではなく、半信半疑、「なんとなくいい気がするかなぁ」くらいの感じでした。

しかし段々とそこから見えてきたことは、記憶のシステムや、指が動く以前に骨や筋肉はどのように働いているか、覚えるとはどういうことなのか、ということ。

いわゆる「指を回す」という行為は、「指」という単語が入っていたり、「fingering」と言ったりもするし、指に意識が片寄りがちかもしれない。
しかし指だけでなく、実は手首、肘、腕、肩、体全体が複合的、複雑に、そしてソルフェージュ感覚、音程感覚(絶対値のとしてのpitchではなく、interval)と連動し密接に絡んでいる。

パッセージをクリアしていくには
①まず歌う(音程が取れるだけでなくニュアンスも)
②その歌に楽器でも同じ意識のまま演奏する
③指が動きにくいところがあれば、そこの動作を体に親切丁寧に覚え込ませていく

というステップが望ましいだろう。

よく皆がやる、スケール練習や3度4度などのインターヴァルの練習の目的は、

①調性の理解
②それぞれの体の運動を馴染ませる
③指以外の楽器のコントロール(口、舌、顎など)、跳躍で繋ぎにくいところを予め訓練しておく

という具合に考えておくといいと思う。
そしていざ初見というときにも瞬時に対応できるようにするために。

ジストニアにならないためには、単なる体当たり的な、ただひたすら繰り返したり、自分の体に鞭を打つような練習ではなく、根性論でもなく、間違うことに対しても寛容になり、
・なぜ間違えたのか、なぜはずしたのか
・それをしないためにはどうしたらいいか
・楽器の扱い(技術)の問題なのか
・ソルフェージュ力の問題なのか

等を極めて冷静且つ建設的な判断、考察によって練習を進めていく必要がある。
僕がジストニアを発症するまでは、まさにこのあたり全く考えることなく、熱狂してただただ吹きまくる、という練習が当たり前だった。
学生だった頃、特に速いパッセージに関しては、味気ない、無造作に通過してしてしまう、速すぎる、と指摘されるようなことが多かった。
音程や音を味わうことなく、ただ指だけクリアしていくような練習をしていたためだろう。

こういうことに気づいてからは、ジストニア発症前、発症中に比べて、改善後の今はしっかり音程を咀嚼しながら進められている感覚がある。
しばらく触れていなかった曲を思い出す(難しいパッセージを練習し直す)のにも、以前は毎回かなり時間を要していたが、今はそれに比べてかなり時間が短縮されている。
12keyへの移調の練習も非常に功を奏している。

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