急性心筋梗塞(急性冠症候群)の急性期合併症を考えた理学療法について

こんにちは。
急性心筋梗塞の急性期はケースによってはめちゃくちゃ怖い時期だと思っています。

心リハでよく言うリスク管理(虚血、ポンプ、不整脈)に加え、急性心筋梗塞急性期特有のリスク管理が必要になります。

以前Twitterで投稿した内容に少し加味した記事をまとめました。

有料記事になっていますが、有料部分には何も書いてなく、全て無料で読めます。
心ばかりの気持ちがある方は記事購入してもらえると筆者がとても喜びますw

ではどうぞ。


急性心筋梗塞は心臓の筋肉に酸素と糖を送る冠動脈という血管が閉塞することで起きる。

その結果起きることは心筋の壊死。

心筋が壊死することにより多彩な事象が起こりうる。

大きく分けると4つ。
1. 機械的機能障害(心筋壊死によるポンプ機能障害)
2. 電気的機能障害(心筋壊死による不整脈)
3. 血栓性合併症(再梗塞、心内血栓)
4. 炎症性合併症(心膜炎、ドレスラー症候群)

急性期理学療法=離床進行とCPXを含む運動療法導入の実施に際し、どれも重大な影響を及ぼす。

1の機械的機能障害の重度なものには
・左室自由壁破裂
・心室中隔穿孔
・心タンポナーデ
・乳頭筋断裂→急性の僧帽弁閉鎖不全
があり、どれも危険。
このあたりがあれば、バイタルサインや臨床所見に以下のような明らかな異常が出ているはず。

・血圧低値
・頻脈(離床時)
・急性心不全初見
・異常な息切れ
・心雑音 など

個人的な経験としては、胆管系酵素の著明な上昇があり消化器内科入院となり、HCUで理学療法処方が出た患者さん。

一見床上のバイタルサインには大きな問題はなく、離床してみたが、端座位や起立での著明な息切れや頻脈があり、何かおかしいと感じて離床をストップ。主治医にも報告した。

結局亜急性期心筋梗塞の乳頭筋断裂による急性心不全であることが判明し、治療もされたが数日後に亡くなった。
主治医含め誰も心筋梗塞と気づいておらず、未治療の急性心筋梗塞だったわけで、軽めの離床ではあったが、もしかするとそれが亡くなった要因の一つかもしれなかったと思うと悔やんでも悔やみきれない経験だった。
それ以来、どんな方でも理学療法の初期評価として心音を聴くようにしている。

心音はこちらが勉強になる。いつの間にかアップデートされていることに気付いた。

上記には当たらないが重症例(治療が遅れたものも含む)では
・心室瘤
・ポンプ不全→急性心不全
などがある。
ST上昇とCRP高値が遷延する時は要注意。

https://jslm.org/books/guideline/10.pdf
あたり参考になるのでご参照を。

通常は数日でST上昇および心筋逸脱酵素や炎症はおさまってくることが多いけれど、1週間経っても下がっていない場合は何かの異常を疑っておいて損はない。

心筋逸脱酵素などの上昇時期
https://jslm.org/books/guideline/10.pdf より

ST上昇とCRP高値の遷延時には心室瘤に加え、4の心膜炎の合併も疑う。急性心膜炎はCPXの絶対中止基準。

発症数日経ってもST上昇とCRP高値が持続しているのを見逃してCPX実施すると痛い目に遭うこともある。

ATまで、とCPXを始めたものの確たるATポイントが分からず負荷継続すると事故に繋がりうる。

同様に心タンポナーデまでは至らないものの、微細な心破裂により左室からじわじわと心外膜に血液が漏れ出ているようなこともあるかもしれないので、貧血の進行と血圧上昇不良や低下所見があるような場合も怖い。

乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全がある場合は、急激なポンプ不良に対し代償機構が追い付かず、重篤な急性心不全を呈することがあるのでこれも怖い。

2の電気的機能障害も多彩だが気を付けるのは
・徐脈性不整脈
・Mobitz2型房室ブロックまたは3度房室ブロック
・心室頻拍、心室細動
この辺りは血行動態を非常に悪化させ、死に至る可能性があるため、理学療法を中止する必要があるし、見つけたら主治医へ即報告。

ST上昇遷延例で疑う心室瘤に関しては、壁在血栓が出来て心原性脳梗塞を起こす可能性もあり。心エコーが撮られていれば分かるんだけど、頻繁には撮影されないため、血栓ができているかもしれないと考え、運動療法実施中、実施後などの中枢症状所見には要注意とするのが吉かもしれない。

あとは、PCI治療後の運動療法中に突然出現した労作時(まれに安静時)胸痛やST低下所見は、ステント留置部の再梗塞や他の部位の新規狭窄の可能性が高く、不安定狭心症を疑う。治療されていない不安定狭心症は運動負荷試験の絶対禁忌で、運動療法も不可。即刻中止し、主治医へ報告、判断を仰ぐ。

右冠動脈の閉塞で、血圧低下症例では右室梗塞合併も疑う。右室梗塞合併が疑われると大体は主治医が補液による治療を行ってくれていると思うが、心不全合併し利尿薬が使われていたりすると、血圧が安定しないことも。ある程度時間が経つと落ち着いてくるケースが多い印象(あくまで個人の主観です)。

重要なのは起こりうる急性期合併症を理解し、そのモニタリングを日々行いながら、離床や運動負荷試験を中止すべき時を見逃さずに把握すること。

怪しい時は攻める必要はないと個人的には考えています。

なぜなら得られるメリットが死亡や重篤な合併症出現というリスクに対して少なすぎるからです。

以上でとりあえずは終わりです。

駆け足かつあまり頭を使わずに書き連ねてきたので漏れや不備があるかもしれませんが、その際はコメントいただけると助かります。

急性心筋梗塞の病態や治療に関して詳しく知りたい方は日本循環器学会の急性冠症候群ガイドライン(2018年度版)をご参照のこと。
日本循環器学会のガイドラインは無料(!)なので使わない手はないです。
こちらにリンク貼っておきます。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf

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