技術系スタートアップにおけるプレゼンテーションについて考える(1)
こんにちは。
技術を使った事業開発の体系化を通じて、技術が公平に正当に提供される世界を目指しています、菅野です。
今回も営業編です。
技術系スタートアップにおけるBtoBプレゼンテーションについて考えてみます。ご相談をよくいただくトピックです。特に、経営者の方々が属人的・職人的にアライアンス獲得されてきたステージからの事業拡大を考えられている企業様や、暗黙知とされてきた技術アセットの再定義・マネタイズを考えられている企業様に多いニーズであるように思います。
【こんな方にオススメ】
・技術系スタートアップで、BtoBの事業/技術紹介プレゼンをする役割を担っている方
・toB向けの技術プレゼンについて、以下のような悩みを持っている方
- プレゼンが刺さっているように感じられない
- 技術細部の質疑ばかりで、ビジネスの話にならない
- せっかくキーマンとの商談に持ち込めたのに、「R&D部門と話してくれ」とたらい回しにあってしまう
- 漠然と自信が持てない など
新規顧客に自社を売り込む場合、まず自社事業・技術を紹介することは必須です。しかし、巷の営業How to本では、しばしば以下のようなススメも目にします。
相手に話させろ。イメージは、相手8割、自分2割。
(参考URL)https://diamond.jp/articles/-/8937
技術系スタートアップにおける商談でも、これは成り立つのでしょうか?
答えはNoだと思います。私も、事業開発を始めたての頃、この手の情報を目にしては「相手に8割話させよう」と試みましたが、無理でした。今も自分が4~5割は話をしていると思います。
上の記事にあるように、潜在顧客の課題や動機を特定するため、リラックスして話してもらえるような場のセッティングは、いかなる商談においても重要です。
一方、技術系スタートアップの商談では、顧客の声を引き出すに先立って、自社紹介の重要度が比較的高くなります。なぜなら、顧客に「欲しい」と思われるためには、まず自社技術の原理や特長について腹落ちや安心をしていただき、心の扉を開いてもらう必要があるからです。しかし、「伝える」ことに躍起になりすぎると、顧客にとっては極めてストレスの大きい商談となってしまいます。
お互いのスタンスや動機の確認もなく、即座に長時間のプレゼンへ突入し、顧客を疲れさせてしまう商談、実は多いのではないでしょうか。
なぜこのような商談が生まれてしまうのか、またどうすれば解決できるのか、聞き手と話し手の両立場から考えてみたいと思います。
1. 聞き手の心理 ~大企業(発注)側の記憶を参考に~
新卒入社した化学メーカーで、技術系スタートアップとの協業検討の話がありました。当時、研究所勤務で事業については何も知らなかった私ですが、その案件のメンバーとして急遽アサインされます。
「俺は技術は分からないから、〇〇社が確からしいことを言っているのか、お前が技術を見極めてくれ」
これがプロジェクトリーダーから与えられたミッションです。協業検討していた相手先の技術は、社内では私と他数人くらいしか知らない分野でした。今思えば、この出来事は、技術系スタートアップとの協業検討に臨む顧客側、聞き手側の心理を象徴しているように思います。
実際には各社どうか存じ上げませんが、慎重な人が多い日本、そして重厚長大な化学業界において、技術系スタートアップとの面談に臨まれる多くの方の深層心理は、おおよそ以下のようなものではないかと思います。
・技術的に確からしいだろうか?(騙されないぞ)
・同業他社も評価しているのだろうか?(一番乗りは怖い)
・万が一、失敗したらどうしよう?
企業ブランドも取引実績も足りない会社との面談ですから、当然の心理状態と言えます。リスクに気を取られて、なかなかリターンには目を向けられませんよね。
2. 話し手の心理 ~スタートアップ(受注)側、事業開発1年目の記憶を参考に~
大手化学メーカー研究職から、大学発スタートアップ事業開発へキャリアチェンジした私が、何より先にやらねばならなかったことは、会社・技術紹介プレゼンの習得でした。
技術系スタートアップは、しばしば世の中にない新しい技術を提供します。
当時の私の頭の中は、「新しい技術なのだから、しっかり説明して、相手に理解してもらわないと!」という意識が大半を占めていました。
当時、1時間の商談の流れは、以下のようなものだったと記憶しています。
0:00〜0:05 自己紹介
0:05〜0:45 プレゼン(というより講演)
0:45〜1:00 質疑応答
今思えば、地獄のような構成です。。
「相手に技術を理解させること」を暗黙の目的とした私のプレゼンは、40分ほど休むことなく続きます。
営業とはどんなものか実物を見たこともなかった私が知るプレゼンテーションとは、学会における一方向的な講演だけだったのです。会社や当時の面談相手には本当に申し訳なかったと思います。当然、成果は上がりませんでした。私自身も、まったく楽しくない日々が続いていました。
3. どうすればいいか?
「疑心暗鬼な」聞き手・「技術について分かってもらいたい」話し手の両者での経験を踏まえると、事業内容や顧客メリットだけではなく技術についても適切に説明を提供することは、一定の合理性がありそうです。
しかし、過去の私のように学会スタイルのプレゼンを行えば、たいていの聞き手側には以下のような問題が発生することになります。(一部、技術の好きな顧客を捕まえることはできるでしょう)
・何より会社としての印象が悪い(こちらの話を聞く気があるのか?)
・理解するのに負荷がかかり、疲れイライラする
・自社にどのようなメリットがあるかよく分からない
・取引につなげるためのネクストアクションが分からない
顧客(聞き手)の多くは疑心暗鬼、見極め姿勢で臨んできます。「怪しい技術ではない」ことを伝えるために、技術系スタートアップ側としてはしっかりと説明をしたい。
しかし、重要な顧客であるほど多忙です。60分の商談であれば、せいぜい15分くらいが限界でしょう。
では、どうすれば良いのでしょうか。
ポイントは「共感・信頼を得るための前提条件のクリア」だと思います。詳細は次回。
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