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雛人形の思い出

私は幼い頃、とある団地に住んでいた。
その中の一棟の5階に住んでいた。
3DKである。

台所のすぐ横は小さなリビングになっていた。
5階は最上階であり、そのリビングの天井には光を取り込むことができるステンドグラスのパネルが貼られていた。
ステンドグラスのパネルは大人1人が出入りできるくらいの大きさで、そのパネルが開くのかどうかは私は知らない。
ステンドグラスから差し込まれる光が私は好きだった。

私には姉がいる。
毎年3月3日が近づくと、その小さなリビングに雛人形が飾られた。
オルゴール付きの雛人形だ。
オルゴールのネジを回すと"うれしい ひなまつり"の歌の音が流れる。
"灯りを点けましょボンボリに〜🎵
お花をあげましょ桃の花〜🎵"

オルゴールのネジを回せるところまで回すと音楽は速く流れる。
次第にゆっくりになっていき、最後はカラン・コロンと歌ともとれぬような音を立てて止まる。
私はよくネジを回せるところまで回して速いテンポの"うれしい ひなまつり"の音を流していた。

好奇心旺盛な私は、ネジを思いっきり回した後は、他に興味をそそられるモノを探して家中を歩き回る。
音楽が止まれば雛人形のもとへ行き、またネジを回す。
音楽が流れ出せば、また雛人形から離れる。

たまに雛人形をじっと見つめることもあった。
昼間にステンドグラスから差し込まれる光に当たる雛人形は神秘的に感じられた。
その不思議な魅力に惹き込まれ、じっと見つめる・・。

雛人形が飾られていたのは2月からだろうか・・。
私の記憶の中では、雛人形が飾られていた時季が寒いといった記憶はない。
何故か親の姿もなく、ただただ1人で、雛人形のオルゴールのネジを回して音楽を流しては歩き回る・・。

暖かい穏やかな光が差し込む、静かな団地の一室での思い出だ・・。

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