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【感想】THE SECOND 2023

M-1グランプリ2022終了からわずか4日後に発表された新たな賞レース『THE SECOND ~漫才トーナメント~』

ただ、個人的には発表当時はそこまでワクワクしなかった。
「もうしんどくね?」という印象の方が勝ってた感じ。
M-1グランプリ自体は毎年楽しみに見ているのだけど、これでは芸歴制限に伴う卒業が意味をなさなくなってしまうじゃないかと。
あんな異様な緊張感に包まれた舞台で芸歴的にはベテランの、しかも大会の趣旨的にはあまり売れてない(?)漫才師がネタやって審査されるのって結構キツそうだなぁ的な。

ただ、出場者や審査方法が明らかになるにつれてそこまで悲観するものでもなさそうだと思えてきてグランプリファイナルは生放送で見た。

M-1との差別化

現在のお笑い賞レースの圧倒的権威といえばやはりM-1グランプリ。
前述の通り自分は「上手く差別化してほしいな」と思っていた。

その期待要素の1つが爆笑オンエアバトル(以下、オンバト)の系譜にある一般観客審査。
プロの芸人とは異なる視点の導入。
これが「M-1とは価値観の異なる大会である」という宣言になっていて良かった。

そういえばパンクブーブー佐藤は過去にこんなことを述べている。

オンバトは、誰が見てもある程度、おもしろいというのがいちばんいい。客が(票を)入れるか入れないかだけなので。だから、攻めたネタではなく、七〇点くらいを狙いに行った方がいいんです。でもM-1の審査員たちは、そんなネタでは満足しない。なので、半分は〇点かもしれないけど、半分は一〇〇点を付けてくれるかもしれないというような尖ったネタじゃないと評価されにくい。

中村計・著『笑い神』pp.224-225

仮に半分が1点で残り半分が3点を付けると1×50+3×50=200点なのでまぁ勝てない。
とはいえ全員が2点(3点満点中2点なので概算で100点満点中の約70点)でもやっぱり200点しか取れないのだけど。

これは自分の推測だけど、2011〜2014年に開催されていたTHE MANZAIも、ビートたけしを担ぎ出しておきながら最高顧問=審査にはノータッチで審査委員長っぽいポジションは西川きよしという布陣からM-1とは異なるお祭り的な価値観を打ち出そうとしていたけど上手くいかなかったのかなぁと。
当時はM-1が終了して完全な代替品を求められていたし、結局プロが審査員というスタイルは同じなので視聴者にも伝わり切らなかったんじゃないだろうか。
(ただし、たけしが顧問に就任して審査員のトップが西川きよしになった背景には島田紳助の突然の引退があるので立ち上げ当初からそういう方針だったのかは不明)

もちろん(?)審査に改善の余地があると思わないでもない。

宮司アナは番組内で再三「絶対評価」と明言してはいる。
でも、まぁそりゃ「2つの漫才を見た後にそれぞれ点数を付けてください。その点数を集計して勝敗を決めます」と言われたら、絶対評価と指示されていてもどこか無意識に相対評価で採点しちゃうよね。
コメント振られた方々の中にも「◯◯さんの方が〜」と言っている人がいて、難しそうだなぁと。

で、トーナメントなんだから相対評価で面白いと思った方に1票形式で審査員を奇数にすればいいのにとも一瞬思ったのだが、そうなると勝敗は表現できても強弱が表現できない。
あらゆるスポーツで点数を採用しているのは同じ勝ちでも1-0と5-0や3-2では強弱の意味合いが全然異なるからなんですよね。
サッカーのゴールデンゴール方式もベッケンバウアー筆頭にボロクソに言われて廃止になったしw

でも決勝審査での

マシンガンズ西堀「低くないですかぁ?」www
松ちゃん「まだわからんやん!まぁ…わかるけど!」w
東野「ギャロップはこの得点いかがですか?」
ギャロップ林「嬉しいです」w

の丁々発止のやり取りを見ると、仮に得票数で大差が付く残酷な展開になっても芸歴16年以上のベテランなら上手く処理できるんじゃないかという気もする。

そうそう、審査員が権威化されていなかったりネタ以外の部分でベテラン芸人ならではの余裕があったりの副作用で大会の雰囲気もM-1とは全然違っていて良かった。
あの雰囲気のまま続いてほしいな。

煽りV

『バラ色の日々』に乗せたオープニングVTRめちゃくちゃ良かった。

今後の大会の雰囲気・方向性次第ではオープニングVTRや煽りVの雰囲気も変わるかも?
でも立木文彦ナレーションの魅力も捨てがたいよなぁ…w
まぁオープニング映像と煽りVはカッコよくビシッと締めて大会の雰囲気はもう少しユルくってのもアリか。

THE YELLOW MONKEY

最後にイエモンの話を。
大会のテーマ曲は『バラ色の日々』

朝本浩文が亡くなったときはマジでショックだったな…

総合演出の日置祐貴によるとテーマ曲はかなり初期の段階で決まっていたそう。

去年の10月ぐらいにこの大会の総合演出の銘を受け、とにかく色んなことを考えましたが、最初に決めたのがテーマ曲でした。
なのでプロデューサーに「見えた?」と聞かれたら「テーマ曲だけ・・・」とよく答えてました。
「で、どんなテーマ曲?」「イエモンのバラ色の日々なんですけど・・・」と言ったら「めちゃくちゃいいじゃん!」と言われて、決定しました。

https://note.com/19801124/n/n02ff36527a66

イエモンというバンドが一度解散した後に再結成して現在活動中という文脈もあるし、この『バラ色の日々』という曲もツアーで疲弊気味に陥ったバンドの活動再開の一発目だったという文脈もある。
歌詞以上に作品の外側がTHE SECOND。

しかも1999年リリースのオリジナル版ではなく再結成後の2017年に新録されたバージョンを使うという芸の細かさもニクい。

これ以外にもCM入る前はBiSHのカバーでもお馴染み『SPARK』のイントロでCM明けは『プライマル。』のイントロってスタッフどんだけイエモン好きなんだw

ここからは深読み妄想になるが、M-1という絶対的権威に対する新たな賞レースという立ち位置に「本物のロックとは洋楽であり、自分たちがやっていることは所詮は黄色人種による猿真似だ」という自虐的でシニカルなバンド名を重ねてしまう。
だからこそオルタナティブを提示する素晴らしい大会になってくれて嬉しかった。

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