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自動車業界あるある

 昔からクルマ好きで、外車に何代も乗り継いできたようなベテランの紳士が、先日おいらに「この型のSLのアーマーゲーに10年ぐらい乗ってたんだよ」という。おいらもすかさず「この頃のエーエムジーは良かったですよね」と合図ちを打つ。
 AMGは、英語の発音ではもちろんエーエムジーだがドイツ語の発音ではアーエムゲー(最後のゲーはギーとの中間かな)と発音する。だが、今でも日本では一定数の人がアーマーゲーという間違った呼び方を知らないで使っている。だが、おいらはそれはアーエムゲーでアーマーゲーは間違いですよとは、よっぽどの事がない限り言わない。その代わり英語のエーエムジーで受け答えする。これは、お・も・て・な・し、である。
 またBMWをベンベという方もいらっしゃるが、これもまったくの間違えで、ドイツ語の発音はビーエムヴィーである。だが、この度外務省でヴを使わなくなったので、それに倣ってビーエムビーってことで。
 スーパーカーブームを懐かしく思う方はランボルギーニ・カウンタックと聞けばその姿が脳裏に蘇ると思うが、このカウンタックは日本での間違った呼び方だ。イタリア・ピエモンテ州独特の感嘆詞でカタカナ表記ではクンタッシ、またはクーンタッシが一番近い。これは初めに某自動車雑誌が当てずっぽうでフェラーリに対するカウンターアタックの略だろうからカウンタックとその雑誌に書いたことがそもそもの間違いの始まりである。
 countachの綴りに対しcounterattackを無理矢理当てはめたわけだ。しかし他の自動車雑誌や新聞までもがそれに倣い、カウンタックとしたものだから、あのスーパーカーブームもありそれで定着してしまったものだ。
 自動車用語で良く間違えられる言葉は他にもたくさんある。自動車評論家とか自動車雑誌のライターといういわゆる専門家と言われる人たちでもロールケージをロールゲージと間違ったり、アクスルとアクセルを混同して使用したりする。
 ケージ(動物などを入れる籠)のように、シャシーを曲げにくく、ねじれにくくする鉄パイプで組んだ骨組みがロールケージ。一方ゲージは自動車用語ではメーターの事なのでどれだけロール(傾斜)したか表示してくれるようなメーターがあればロールゲージという言い方もできないとは言えないが、そんなゲージ特殊な4WD車以外はないので明らかに誤用だろう。
 アクスルとは軸のことで単にアクスルという場合は車軸を意味する。フロントサスペンションの総称としてフロントアクスル、リアサスペンションをリアアクスルと言う。その他にもトランスミッションをエンジンから離してデファレンシャルギアと一体化したのをトランスアクスルと言ったりするが、何れにしてもアクセルという言葉は使わない。
 アクセルは右足で力一杯踏み込むペダルである。昔は『黄色当然、赤勝負』という合言葉と共に交差点に進入する心得があったものだが、今これをやったら反社会的行為なので、大人しく記憶に留めておくだけにしよう。
 似たような間違えでスロットレーシングをスロットルレーシングだと思ってる人がかなりいる。スロットレーシングとは溝(スロット)の切ってあるコースでモーター付きの模型を走らせるもので、スピードコントロールは溝の両側の電極にかける電圧でコントロールする。このコントロールユニットをコントローラーと言うがスロットルと言ったりもするので混同されたのだと思う。昔はシロガネ、リバーサイドなど有名サーキットを渡り歩いた人たちの中にもこれを誤用している方が一定数いるようで、あるTV番組でスロットルレーシングと紹介したのを、番組中に局に電話をかけて訂正させた事がある。
 昔、おいらが現役の雑誌編集長だった時、ある中古車のエンジン音を聞いて「タイミングベルト大丈夫かな、一コマずれたらヤバいですよね」とある大御所の自動車評論家に言ったら「ま、見た感じはピンと張ってるから大丈夫」と真顔で言われた。
 どうもオルタネーターなどを駆動する目に見えているVベルトをタイミングベルトだと思っていたようだ。タイミングベルトとはエンジンの吸気と排気のバルブを駆動するカムシャフトを正確に駆動するコマ付きベルトのことで通常当然エンジンの中にあるものなのでボンネットを開けても見えない。高回転高出力のエンジンはベルトでなくチェーンで駆動することが多いが、これをタイミングチェーンと言う。
 こういう基本的な事もわからない人が評論家をやっている例は自動車評論家に限らず、経済評論家からアイドル評論家まで何の資格がなくても誰でも今日から名乗る事が出来るので要注意なのだ。おいらもかつてはシャレでキャンギャル評論家を名乗ったこともある。評論家ほどあてにならないものはないと覚えておく必要がある。

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