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「天城山からの手紙」25話

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伊豆に流れる渓谷は、天城連山を中心に、四方八方へと流れだしている。まさに母なる山で、その恵みたるは想像が容易いのではないだろうか。森を歩き月日も積もれば、ちょっとした変化にも気が付くようになってくる。いつも、何気なく歩いているようだが、音や香り、そして目の前に広がる風景とたくさんの情報が、知らぬ間に頭に刻まれいるようだ。ある日、何時もの様に歩いていると、「ちょろちょろ・・」とせせらぎの音が聞こえて来た。その音色は、まるで本能を刺激するかのように、なんとも言えない安らぎが心に広がる。もしかしたら、命の根源である”水”の存在は、DNAに刻まれているのかもしれない。水平線から出る朝日を撮影する時も、なんでこんなにほっとするのだろう?と思う事が多々ある。何回も見た光景なのに、一度たりとも安らがなかった時はないのだ。きっと、太陽の存在が無事に生きる為に必要だと本能が教えてくれているのだろう。この日、渓谷を歩いていると、違和感が、いつもそこには水は流れてないと教えてくれる。そうすると好奇心がそこを登れ!と背中を押し、一気に急な岩場に足が向かう。いったいどんな渓谷になっているのだろう?興味だけが体を支配し、登る足が止まらない。自然の撮影は、本当にこの興奮が堪らないのだ。だからこそ、1番に出合いを楽しみ、2番に撮影で良いと私は思っている。そして、この時、私は1本の倒木と出合った。その姿は、取り残されたように岩場につかまり、森に還る事さえも禁じられ、時間という鎖に拘束されていた。しかし、この瞬間だけは、流れと共に永遠の終わりへと時間が少しだけ進んでいた。


掲載写真 題名:「過酷な定め」
撮影地:水生地付近
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF17-40mm f/4LUSM
撮影データ:焦点距離17mm F22 SS 2.5sec ISO100 WB太陽光 モードAV
日付:2014年4月5日AM9:04

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