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墨子を読む 番外墨子軍事用語集

墨子 番外巻十六 墨子軍事用語集
「諸氏百家 中国哲学書電子化計画」準拠
 
 巻十四と巻十五に載る墨子の軍事用語を集め解説しています。ここに解説することで、本来の編において紹介する軍事用語の解説を省略しています。
 用語の解説では『墨子城守各篇簡注(芩仲勉)』及び『通典 巻152 兵五 守拒法』に示すものを尊重しますが、同時にHP「漢典」に示す漢字自体の上古での意味や用語解説を踏まえたものとなっています。なお、『墨子城守各篇簡注』及び『通典 巻152 兵五 守拒法』はHP「中国哲学書電子化計画」に収容しますから、確認のためのアクセスは容易です。
 加えて、参考として『墨子』での長さの単位を示す「歩」について、距離の一歩を前秦戦国時代の六尺とするものと、城の外側の城壁周長を基準に周長一歩に対し兵卒一人を配置する換算単位とするものがあります。これを参照して樓などの建物や施設などの配置には距離の歩を使い、武器や装備の充足には城壁周長に対する兵卒換算単位の歩=人員を使います。
 関連して、杉本憲司氏の『中国古代を掘る-城郭都市の発展 (中公新書)』によると、周代春秋時代の一歩は八尺とする研究もあるが、戦国時代後期の城郭発掘の結果と墨子の記述を比較検討すると、墨子の記述は周代戦国時代後期頃の状況を示し、一歩は六尺で一尺は23.1cmとすると発掘成果と墨子記述との整合が取り易いと指摘しています。
 なお、日本では孫詒譲の解釈により校訂を施した『墨子閒詁』を『墨子』の読解や語訳のテクストとしますが、軍事用語やそこからの本文解釈とを比較するとここで示すものとかなりの相違が見られます。相違の背景は孫詒譲が墨子の軍事用語で理解できなかった箇所を各種の伝本との校合を行うことなく校訂と称して孫詒譲の解釈に合わせて改文したことにあります。他方、ここでの軍事用語解説は「諸氏百家 中国哲学書電子化計画」準拠した『墨子』に従ったものです。結果、相違が生まれています。

あ 罌 缶、瓶のこと
い 闉池 城内の防衛で重要な門や城溝のこと
い 員士 隧道の支保工の上部の横木のこと
い 圍 両手を広げて抱える大きさのこと、約1mの円周長さ
い 堙 城池や堀を埋め立てる戦法
い 銕 土木用具の鉄製品の一種
う 轀 轉射機を載せる台車
う 雲梯 城壁に届く移動式の梯子
え 謁者 取り次ぎ役
え 圓 井戸を「まいまいず井戸」の形状に作ること
え 閻術 塀で囲まれた里の出入り口となる門と入場通路のこと
お 轀 台車のこと
か 下磨車 轆轤を備え付けた揚重機の車両
か 火捽 車輪に可燃物を取り付けた小型兵器で人力投下するもの
か 戒持 敵を警戒する、音を探査する瓶のこと
か 階門 大城・宮域の入り口部の階段と門のこと
か 外堞 外殻城壁の外側に作られた胸壁
か 郭門 外殻城壁より外側の門のこと
か 郭門 塀で囲まれた里の出入り口となる主門のこと
か 隔 城郭の天端を一定の区画に仕切る障壁
か 革盆 皮製の水を貯める容器のこと
か 関鼻 木材を運搬するために紐を通すために開けた穴のこと
か 醢腹 獣肉の内臓の塩辛のこと
か 鉤 長い鉤で城壁を攀じ登る戦法
か 鬲 隔壁のこと
き 椅 足付の火置き台のこと
き 奇器 ここでは、技機とは違う種類の弩発射装置のこと
き 揮 厭勝の呪いのこと
き 機 兵器のこと
き 儀 擬のことで、大きさの対比からの簡易な測距器のこと、
き 技機 機械式弩、またはその発射台のこと、
き 蟻傅 兵士を蟻のように人海戦術で城壁を攀じ登らせる戦法
き 居屬 土木用具の鋤の一種
き 巨 長さ、距離のこと
き 渠 大型の木製の盾
き 渠譫 多数の渠を重ね合わせて備蓄しているもの
き 裾 掘り割りのこと
き 裾門 掘り割りの間の通用門のこと
き 鼠穴 小動物の巣穴ほどの大きさの竪穴、隧道戦での敵の掘削の探査穴
き 鼠竄 避難通路、避難通路の門のこと
き 圉犯 馬を走らせる様で車輪を転がり落とす戦術のこと
き 夾 警備・監視兵のこと
き 樞 立樓の四隅の張り出し部のこと
き 苙 鎧草のこと、中空の茎のため燃えやすく火による防護戦に用いる
き 鈞 板製の車輪のこと
き 竟士 勇壮な戦士のこと
き 牲格 祭祀での犠牲の動物のこと、及びその飼育小屋のこと
く 詘勝 上下屈伸式の梯子のこと
く 桓 籍車の四隅に取り付けた柱のこと
く 狗犀 槍ふすまが施された塞門刀車と称されるバリケードのこと
く 狗走 乱杭の上部左右に刃や刺を取り付けたもの
く 空洞 地下に坑道を掘って城内に地下から攻撃する、水脈を絶つ戦法
く 煇鼠 小動物の巣穴ほどの覗き穴のこと
け 経一 径一のことで、周長一尺の盧薄のこと
け 鶏足 時間を管理する担当のこと、鶏人は国家行事での時間管理担当者のこと
け 撃 攻撃隊のこと
け 撃 防衛陣地のこと
け 穴 穴を掘って城壁などを壊すなどの戦法
け 穴矛 隧道坑内での戦闘用の矛
け 穴門 隧道の出入り口の門
け 穴壘 丈夫な壁を設けた塹壕のこと
け 月屋 隧道坑内で半円形陶器の月明により支保工が施された場所
け 月明 半月の形の陶製の製品、ここでは半円筒状のもの
け 犬牙 交互に杭が交差するように設置された逆茂木、拒馬のこと
け 軒車 移動式の高い櫓、移動式の櫓から攻撃する戦法
け 巷術 大城領域の街路のこと
け 倪 城上の高さの低い胸壁のこと
け 桀 可燃性の投擲物
け 縣火 可燃物を束ねて吊り下げたもの
け 縣口 城壁から人の乗った籠を吊り下げる装置
け 縣師 郡軍司令官、または、軍の部門長
け 縣門 門扉が綱で操作する上下式となっている城門
け 縣梁 郭門の楼から吊り下げた吊り橋
け 縣脾 ゴンドラの箱体のこと
け 縣荅 小武器類を柱に懸けること
け 醯 酢などの酸性の水溶液のこと
け 閨門 障壁に穿った小さな通用戸
け 頡皋 隧道内で使う先が上向きに反った突き棒のこと
け 頡皋 跳ね釣べ式の揚上装置のこと
こ 五尺童子 14歳未満の男子のこと
こ 候 間諜のこと
こ 校 軍使のこと
こ 校 兵器、武器のこと
こ 校機 敵に報いる装置、転じて攻撃の武器のこと
こ 溝壘 溝や土塁のこと
こ 行堞 行城の胸壁のこと
こ 行城 緊急に建設した城垣のこと
こ 行臨 緊急に建設した櫓や塔のこと
こ 行棧 兵士が乗る棚段の車のこと
こ 行樓 移動式の射撃塔のこと
こ 衡植 籍車の四隅に取り付けた柱の頭部のこと
こ 困 籍車に取り付けた防護竹垣を敵の矢が突き通らない状況
こ 廣 防護中核の建物のこと
こ 稱議 楼の上下層のバランスを取ること
こ 鉤樴 鉤弋のことで、長柄のトビ口のこと
こ 鉤距 連弩台車の台座の部分の名称
さ 攢火 火を焚く場所
さ 坐侯樓 物見やぐらの一種
さ 再重樓 二層の楼を持つ建物
さ 載 台車、荷車のこと
さ 載 大型の荷車、台車のこと
さ 殺 攻撃用の塹壕のこと
さ 殺 鉄製のマキビシを撒き散らすこと
さ 殺 塹壕のこと
さ 三隅 三角型の防衛陣地の角のこと
さ 三亭 三角形の頂点の形に置いた防衛陣地のこと
さ 散 放のことで、弩などの発射台のこと
さ 斬 塹壕のこと
さ 柴摶 小木や枝を束ねたもの
さ 杜格 乱杭のこと
さ 棧 兵士が座る棚段、ひな壇のこと
し 蒺藜 金属製の撒き菱のようなもの
し 蒺藜投 金属製の撒き菱のようなものを投石する機械
し 軺車 軽便な荷車のこと、手曳きの四輪台車のこと
し 司馬門 大城・宮域内の官署や宮室の門のこと
し 士候 士官が率いる武力偵察隊のこと
し 死士 決死選抜隊の兵士のこと
し 執盾 督戦官のこと
し 疾犁 金属製の撒き菱のようなもの
し 疾犁投 金属製の撒き菱のようなものを投石する機械
し 質宮 人質を収容する住居区
し 遮 監視兵のこと
し 爵穴 酒を入れた竹筒容器ほどの覗き穴
し 主将 攻撃隊の指揮官のこと
し 守禁 太守の禁令のこと
し 守樓 太守の執務する楼閣のこと
し 宿鼓 日没夜間を告げる太鼓のこと
し 術衢 城内居住区の街路のこと
し 抄大 鳶口を大きくした武器
し 衝 車両のこと
し 衝 台車や人力で丸太状の突き棒で城門や城壁を突き崩す戦法
し 衝術 通路や街路のこと
し 上衡 下磨車の物を吊る腕のこと
し 丈 丈:230cm、尺:23.1cm、寸:2.3cm、歩:6尺 = 1.35m
し 城 城郭、高台のこと
し 城上 城郭内部のこと
し 城上 城壁の上部、天端部のこと
し 城旦 城郭などの築城・補修に従事する刑罰
し 城報 城壁の形状のこと
し 植 柱のこと
し 織女 織女星が明るい三つの星で構成される様を言ったもの
し 薪皋 薪の集積物のこと
し 雀穴 小さな鳥の巣穴ほどの大きさの覗き穴
し 牆 屏牆、防護塀のこと
し 苴 杖程度の太さの竹のこと
す 水 水攻めによる戦法
す 水甬 水桶のこと
す 衰殺 楼の上下層のバランスを取り、上層階を縮小すること
す 隊 隧道(トンネル)のこと
せ 磿撕 千人の兵士を管理する司令部、磿室
せ 井爨 井戸とカマドのこと
せ 籍 踏み付ける、転じて圧殺すること
せ 籍車 鉄製の車軸を持つ移動式の竹垣の胸壁
せ 籍莫 軍事用のまん幕、敵の弓を受け止めるもの
せ 節 通行証となる割符のこと
せ 賤 汚物などの不要なもの
せ 錢 掩体のこと
せ 鐫 石突のこと、転じて、鉾
そ 灶門 カマドの火口のこと
そ 操 乱杭の「薄」の材料となる一握りの太さの立木のこと
そ 曹 警察を司る役所のこと
そ 卒候 斥候のこと
そ 梳関 上から落とし込む櫛状の閂のこと
た 橐 ふいご
た 涿弋 二本の大槍の間に網を取り付け発射する機械
た 多卒 多は勝のことで、戦勝の功績のあった兵卒のこと
た 太氾 汚物、汚水のこと
た 退壘 隧道坑内で支保工と丈夫な壁を持つ宿泊所
た 隊 百人の部隊のこと
た 大耳 侵入防止の乱杭である狗走の上部左右に取る付けた刃物のこと
た 大城 城郭構造にあって外殻主城壁の内側に作られた内殻城壁で宮域を守る
た 大廡 しっかりした門扉を持つ空間
た 到 到は倒であり什也なので、ここでは通常の兵器を意味する
た 臺城 台地上の高台
ち 堞 城壁上の女牆(ひめがき)、低い胸壁のこと
ち 禾樓 穀物を運ぶ荷車のこと
ち 池 治のことで、監視台のこと
ち 築 土木用語では拾(十)歩の単位を示す
ち 中拙 途中で曲がった柄杓
ち 中涓 宮中の宦官のこと
ち 沈機 縣門の門扉を上下に動かす轆轤の装置
ち 陳表 計画した防衛ラインのこと
つ 通舄 柱の礎石のこと
つ 蚤 兵器の爪状のもの、刃物
つ 搗 擣で攻破のことで、射撃隊のこと
て 坫 木樓の壁を指す
て 亭 兵卒の屯所のこと
て 梯 梯子で城壁を攀じ登る戦法
て 程 目印のこと
て 傅堞 外殻城壁と大城の間に作られた胸壁
て 傳湯 車輪に可燃物を取り付けた大型兵器で固定索を切って投下するもの
て 摶 投石具で用いる投石の石のこと
て 梃 杖の武器
て 轉射機 機械式の弩発射装置
て 轉傅 伝令により通達すること
て 鐵纂 鉄製の車軸
と 灶 竈のこと、
と 灶門 火攻めを準備した門のこと
と 者環 城壁防衛指揮官のこと
と 斗鼓 急激に太鼓を打ち鳴らすこと
と 土樓 盛土の高台のこと
と 童異 独立した櫓のこと
と 道陛 階段のこと
と 突 煙突のこと
と 突 地上で作業員を防護設備で防御しつつ城壁に穴を開けて攻撃する戦法
と 突門 正式の城門とは違う隠門のこと
と 屯道 監視所・駐屯所のこと
と 荅 布製の防御まん幕のこと
と 荅羅 小隊のこと、小さな兵列
な 内堞 外殻城壁と大城の間に作られた胸壁、傅堞より外側にある
な 内行 兵士が乗る棚段の車のこと
は 馬頰 籍車の四隅に取り付けた柱の先端に取り付けたT字型の横木
は 薄 乱杭のこと
は 薄缶 薄い陶器製の甕
は 薄門 乱杭群の中での通路のこと
は 発梁 機械仕掛けで上下する橋梁のこと
は 発樓 弩の射撃用の高台のこと
は 板梯 板に足掛かりを付けた梯子状のもの
は 坏斗 粉末の砂や鉄粉を素焼きの土器に詰めた目潰しの投擲兵器
ひ 批屈 脱穀のからさおの形状をしたこん棒
ひ 飛衝 投石・投木の装置
ひ 表 手動式の旗による信号機のこと
ひ 表 牲格の飼育小屋の建物のこと
ひ 臂 轉射機の台座を貫き、弦を引くときの反動を押さえる通し棒
ひ 臂梯 横木の付いた二つ折りした梯子状の塔のこと
ひ 馮垣 城壁の上の外側に面した背の低い障壁のこと
ひ 馮埴 小高い土手や丘のこと
ふ 轒轀 四輪の装甲車、作業員を防御しつつ城壁に穴を開けて攻撃する装置・戦法
ふ 夫 轉射機の台座
ふ 武 連弩の台車の部分の名称
ふ 伏門 隧道内部の仕切の門
ふ 文鼓 夜明けを告げる太鼓のこと
ふ 賁士 決死隊の兵士のこと
へ 埤倪 見張り台のこと
へ 陛 階段のこと
へ 俾倪 城壁の上の外側の胸壁のこと
へ 敝綌 一幅(二尺二寸幅)の目の粗い葛布製品のこと
ほ 歩 前秦時代では六尺を一歩とする距離の単位、約1.35m
ほ 方 監視所のこと
ほ 方尚 監視所の建物のこと
ほ 蓬矢 柞(ははそ)の木の枝で作った儀礼で使う矢のこと
ほ 凡器 各種の器物のこと
ほ 盆 陶器の水の容器
ほ 葆食 葆は鋪に通じ、鋪食であり、給食を意味する。
ま 磨鹿 轣轆のことで、糸巻機のこと
み 民圂 公衆便所のこと
も 木樓 木製の重層の楼のこと
も 門扇 門扉の扉のこと
ゆ 幽竇 深い穴のこと
ゆ 郵亭 三亭の狼煙台のこと
ゆ 郵表 敵の監視台のこと
よ 窯灶 燻煙を作る窯のこと
よ 羊黔 敵の城郭の前に土砂・材木などで攻撃用の高台を作る戦法
ら 羅石 纍石と同じ、投石紐/投石具のこと
り 隆 祭祀台の壇の場所となる高台のこと
り 慮枚 しっかりした太さの棒
り 臨 高所から低所を攻める戦
り 六参 蔓や竹などで編んだ土を運搬するもっこのこと
る 纍石 投石紐/投石具のこと、またはその投石に使う石
る 纍荅 豆殻を詰めた箱体、火を付けて城壁から落とす兵器
る 壘 土木用具のもっこの一種
る 壘壁 軍事用の壁構造を持つ土塁のこと
る 樓 楼や塔のこと
れ 令門 太守専用の宮門のこと
れ 練名 選抜された兵士たちの名簿
れ 連版 臂梯の先端に取り付けた横木のこと
れ 連梃 脱穀のからさおの形状をしたこん棒
れ 連殳 薙刀のような武器
れ 蠡 ヒョウタン製の水の容器
れ 靈丁 敵の弓を受け止める藁人形のこと
ろ 櫳樅 兵卒房舍のこと
ろ 礱灶 可動出来るカマド
ろ 樓撕 高楼や欄干
ろ 爐炭 火床と炭のこと
ろ 盧薄 柱を繋ぐ横木
ろ 鑪炭 火床と炭のこと

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