いわゆるLGBT理解増進法に対する公明党質問の議事録 - 法律の理解のために

16日参議院本会議で、「性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が成立しました。

15日参議院内閣委員会にて、公明党三浦議員が30分間、法案提出者と政府に法案の意義や修正箇所を中心に質問しました。国会議事録として、今後の運用に関する大事なやり取りとなっています。

【問】一条の目的に、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑みという文言を明記したことの理由を含め、理解増進法案の意義について
○衆議院議員(國重徹君) 
性的マイノリティーの方々が生きづらさを抱えてしまうことはあってはなりませんし、同時に、それ以外の方々もこれまでどおり平穏に暮らしていけるような共生社会の実現を図っていく必要があると認識をしております。そのためには、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解の増進を図る必要があると考えて、この法案を提出した次第であります。
 その上で、今回修正によって法案の目的規定に現状認識を明記し、本法案が理解の増進に関する法律案であることをより明確にしたことにこの修正の意義があると考えております。
 既に憲法によりまして差別はあってはならないとされ、様々な必要な取組がなされてきたところではありますが、政府にしっかりと研究をさせ基本計画を策定させる中で、こうした既存の取組を全体的に整理して、政府の政策としてしっかりとした位置付けを与え、既存の取組をより良い形で充実させることで、社会全体として共生社会に近づけると考えております。

【問】性同一性という表現をジェンダーアイデンティティに改めた理由について。
○衆議院議員(國重徹君) 
性同一性という表現をジェンダーアイデンティティに改めたこの文言修正につきましては、内容は維持しつつ、法制的な意味は変わらない範囲で表現の面で工夫を施したものであります。
 衆議院に提出された各案では、性自認、性同一性となっておりまして、それぞれの提出者の思いがあったわけでありますが、元々はいずれも英語で言うジェンダーアイデンティティの訳語でありまして、法制的な意味は同じでした。そこで、協議を経る中で、これを争点化させ混乱を生じさせてしまうよりは、ジェンダーアイデンティティを採用するのが適当との考えに至ったところであります。
 ジェンダーアイデンティティという用語を用いることに関しましては、そのような外来語を法文で用いるに当たって、それが我が国の社会で定着しているかどうかという観点に照らしまして問題がないと判断をいたしました。

【問】学校の設置者が行う教育又は啓発が規定されているが、教職員への理解増進の取組みの現状について
○政府参考人(寺門成真君) 
 性的マイノリティーとされる児童生徒に適切に対応するためには、教職員一人一人が研修等を通じて正しい知識を身に付けることが重要であると認識してございます。
 このため、文部科学省におきましては、教職員の理解増進に資するよう、児童生徒に対するきめ細やかな対応や学校生活の各場面における支援の例を記載した通知やパンフレットの発出、いじめの防止等のための基本的な方針における、性的マイノリティーのみならず全ての児童生徒に対するいじめを防止するための取組の追記、教職員支援機構における教職員向けの研修動画の配信、昨年改訂した生徒指導提要への性的マイノリティーに関する記載の追加などの取組を行ってございます。
 加えて、現職教員のみならず、教員を目指す学生が理解を深められるよう、教職課程を有する大学を対象とした説明会における最新の情報の提供等にも現状、鋭意取り組んでいるところでございます。 

【問】六条二項、十条三項には、教育基本法十三条を引用し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつとの文言が追加。教育基本法十三条の趣旨について。
○政府参考人(里見朋香君) 
 教育基本法第十三条でございますが、平成十五年の中央教育審議会答申を受けまして、平成十八年の教育基本法の全面改定におきまして新たに規定が盛り込まれたものでございます。
 子供の健全育成や教育の目的を実現するためには学校、家庭、地域社会の三者が大きな役割を担うことから、それぞれ子供の教育に責任を持つとともに、相互に緊密に連携協力して、教育の目的の実現に取り組むことが重要でございます。
 こういった趣旨から、教育基本法第十三条におきましては、学校、家庭、地域住民その他の関係者がそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携協力に努めることについて規定したものでございます。

【問】家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつとは、保護者等の協力を得ないと理解増進の取組ができないという狭い意味ではないと理解していいか。
○衆議院議員(國重徹君) 
教育基本法十三条に、学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、相互の連携及び協力に努めるという定めがあります。その趣旨は、先ほどありましたとおり、教育の目的を実現するためには、学校、家庭、地域社会がそれぞれの果たすべき役割も大きく、これらの三者が相互に緊密に連携協力して取り組むことが重要であるということであります。
 本法案の修正により追加された部分につきましても、教育基本法の文言と同様の趣旨でありまして、同様の定めをすることが法律としての安定性を高めることから、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつという文言を用いることとしたものでありまして、御心配のように、保護者の協力を得なければ取組を進められないという意味ではありません。
 
【問】十条一項の、国、地方公共団体の施策から民間団体等の自発的な活動の促進を削除した理由、民間団体の活動を止めるものではないという理解でよいか。
○衆議院議員(國重徹君) 
修正前の十条一項は、国及び地方公共団体は、知識の着実な普及、各般の問題に対応するための相談体制の整備、民間の団体等の自発的な活動の促進その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとすると規定しておりました。
 ここでいう民間団体等の自発的な活動の促進は、あくまで、国、地方公共団体における必要な施策の例示の一つでありまして、この文言が削られたことによって、民間団体等の活動が制限されたり、また、この法律の対象から除外されるというものではありません。
 他方で、民間の団体と一口に言っても様々な団体があり、一部には懸念もあったことから、あえて例示として明記するまでのことはないのではないかということで、これを削ったものであります。
 もっとも、必要な民間団体等の自発的な活動の促進を引き続き行っていくことは当然のことでありまして、基本計画や指針によりこうした活動の促進の適切な在り方も示されていくものと期待をしております。
 
【問】十二条に、措置の実施等にあたり、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意するとの文言が追記された。自公原案から法制上の意味や法的効果が変わるのか。
○衆議院議員(國重徹君) 
本法案は、三条の基本理念に、全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現と規定をしております。
 この規定のとおり、本法案は、共生社会、すなわち、性的マイノリティーの方々はもちろんのこと、それ以外の方たちも含めた全ての人が、お互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できるような社会の実現を目指していくものでありまして、このような立法動機を達成するため、性的指向、ジェンダーアイデンティティの多様性に関して、社会における理解の増進を図っていく理念法であります。
 そして、十二条は留意事項でありまして、そこで定められている内容は、元々一条の目的や三条の基本理念においてうたわれている共生社会の理念と同じものでありましたが、これを強調する趣旨で留意事項として入れることとしたものであります。
 したがいまして、留意事項が入ったことによって自公原案から法制上の意味や法的効果が変わるものではありません。  

【問】性的少数者への差別増進につながる指針が策定されるのではないかとの懸念や、また、自治体のこれまでの取組に制限が掛かるのではないかという懸念の声が上がっている。指針を策定すると記述した意義、これらの懸念についての見解。
○衆議院議員(國重徹君) 
性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関して、現在、指針がないために関係者の方々が対応に迷うこともあるとの声も一部あると聞いております。
 本法案では元々基本計画を策定することとなっておりましたが、その際に、基本計画に基づいて具体的な施策を講じていくに当たっては、事業者などが対応に困らないように指針も必要になるだろうと考えておりました。そのような考えの下、修正に際して、指針を策定する旨も明記するとの提案を自公側から行いまして、盛り込むこととした次第であります。
 また、地方公共団体の取組に関して言えば、本法案が成立していない現在も、既に多くの地方公共団体が当事者や団体等の要望を受けまして条例や計画を策定するなどの働きを、動きを見せていると承知をしております。しかし、中には、国としての方針もなく、よりどころがないままで対応に悩んでいるところもあるというふうに聞いておりますし、また、条例や計画の内容は各地方公共団体によってまちまちになってしまっているという現状があるとも耳にしております。
 こうした中で、国が性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関してしっかりと研究を行って、基本計画とともに指針を示すことができれば、国との連携を図りつつ施策を推進することが求められる地方公共団体としても、基本計画や指針を参考にしてより適切な対応を検討することができるようになると思われます。 

【問】四党の修正によっても、法律的な意味の変化はなく、法的効果は基本的に同じか。自公が維新・国民案を丸のみしたとの指摘についての見解。
○衆議院議員(新藤義孝君) 
この法的効果は、修正案においても基本的に変わりはございません。
 それから、この一部の丸のみかというような御意見がございますが、これは私ども、最終的に、幅広く多くの皆さんからの御賛同を得るために自公と維新、国民が協議を行いました。そして、五点のこの修正を行ったわけでありますが、まず第一点目の現状の認識の追加につきましては、これは私どもが法案の趣旨説明で申し上げる言葉そのものでございます。ですから、同じ思いがございましたので、これを合意いたしました。
 それから、ジェンダーアイデンティティは、先ほど、今御答弁ありましたように、混乱を避けるために、同じ意味であるから、その概念を、定義を位置付けるものではございませんので、これは文言を広く安定性のあるものにしたということです。
 それから、教育のこの理解につきましては、ここは元々の案では保護者の理解ということでございましたが、これは教育基本法の十三条の引用をすることによって法的安定性を高めようということで、私どもから修正をさせていただきました。
 それから、最終的なこの追記のところも、留意事項につきましても、ここは、この全ての国民の皆様にという、これは一条と三条に既に位置付けられているものでありますが、これをあえて留意するということにして、かつ、基本計画を定めるためには、定めた上、先のやはり具体的な指針が必要だと、これも私たちが提案をいたしました。
 したがって、両方からそれぞれ持ち寄って、そして、より法案の安定性を高め、この理解の増進を深めるための修正を行ったと、こういうことでございます。 

【問】国は、施策の実施状況の公表、基本計画の策定等を行うほか、性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議を設置することとなる。連絡会議設置の意義について。
○衆議院議員(國重徹君) 
現在も政府におきまして必要な取組が進められているところでありますが、各府省庁でそれぞれ別々に取り組まれているものであります。そこで、幅広い関係省庁が集い、理解増進に関して連絡調整を行うための場として連絡会議を設けることとしたところであります。
 本法案により、内閣府が主管省庁となります。この主管省庁と連絡会議とが相まって、政府として理解増進のための施策を推進していく体制が整うものと期待をしております。
 
【問】政府の指針作りに際しては、一般に関係者や現場を知る専門家の声を聞き、当事者の方が直面する様々な困難に寄り添いながら、丁寧に指針を策定してきたと認識する。今回の指針作りも同様か。
○国務大臣(小倉將信君) 
基本計画や指針の策定に当たりましては、三浦委員御指摘のとおり、関係者、現場を知る専門家の御意見を伺うことは大変重要であると考えております。
 具体的な進め方につきましては、法律の趣旨や、御指摘の点も含めました国会における審議も踏まえて適切に検討してまいりたいと考えております。 

【問】本法案は、公衆浴場、公衆トイレなどの利用やスポーツなどの出場のルールを定めるものではない。
 その上で、公衆トイレ等の利用の在り方については、例えば、トランスジェンダーの女性の、自分の意思ではどうにもならない性自認に従った取扱いをしてほしいという真摯な願いは守られるべき利益だと考える。一方で、公衆トイレ、更衣室等では、ここを利用する他の女性の安心感や羞恥心もまた十分に保護されるべき権利利益である。
 これら要望に関しては、性的指向、ジェンダーアイデンティティの多様性についての正確な理解を踏まえた上で、当事者の状況、施設、サービスの種類、内容、団体や事業者の事業の性格といった様々な要素を十分に考量しながら、丁寧に議論を重ね、解決策を模索していくべきだと考えるが、如何。
○国務大臣(小倉將信君) 
御指摘のように、トランスジェンダーの方の公衆浴場や公衆トイレの利用等について様々な御意見があると承知をしております。
 具体的に私もLGBT当事者の方々とお会いして御意見を伺ってまいりました。御意見をお伺いしますと、三浦委員御紹介いただいたような御意見もございますれば、家族に理解されず誰にも相談できない、心が許せる人間関係がつくれず孤独といった事例ですとか、性的マイノリティーの方は自殺におけるハイリスク層である、こういった切実な声もございました。
 あわせて、例えば女性の権利利益の保護も重要な視点だと考えてございます。
 公衆浴場や宿泊施設の共同浴場については、要領において、おおむね七歳以上の男女を混浴させないことなどを定めております。ここで言う男女は、トランスジェンダーの方も含め身体的な特徴の性をもって判断するものであり、公衆浴場等の営業者は、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要があるものと承知をしております。
 こうした性的マイノリティーの方もマジョリティーの方も含めた様々な方の声や状況を丁寧に伺いながら、先ほど申し上げた具体的な進め方については、国会における審議の状況、法律の趣旨等も踏まえて、関係省庁と連携しつつ、適切に検討してまいりたいと考えております。

【問】法案成立後の諸施策の推進に対する決意、如何。
○国務大臣(小倉將信君) 
政府としては、G7広島サミットのコミュニケも踏まえ、多様性が尊重され、全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、引き続き、様々な国民の声を受け止め、しっかりと取り組んでいきたいと、こう決意しております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?