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エスプレッソマシンの漏電対応

それは、2018年12月24日の朝のことでした。

毎朝、店に着いてシャッターを開けて、店内に入って荷物を置いて照明をつけて手を洗って、それから最初にすることはホットウォーターディスペンサー(=HWD、給湯器)とエスプレッソマシンLINEA-MINI(リニア・ミニ)の電源を投入することです。両マシンともお湯を沸かす機械で、沸くまでに時間がかかりますから電源投入は最初にやることにしています。

ですが、この日の朝は勝手が違いました。いつものように電源を投入すると店内全部が停電してしまったのです。

は?

かるく驚き、店内の漏電遮断器(ブレーカー)を確認すると案の定、ある箇所のレバーが降りていて電気を遮断(電源OFF)していました。どこかで漏電が発生しています。レバーを戻してHWDとLINEA-MINIの電源を再び投入しましたが、やはり再び停電、同じレバーが降りていました。

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やれやれ・・・と思いつつ漏電箇所がどこなのかを探し始めました。写真はこの記事を書き始めたときに撮ったもので、すべてのレバーが赤色で電源ONになっています。停電したときは左側に単独でついているレバー(これが漏電遮断器の本体ですね)が降りていたのと、右側に上下併せて16個ついているうちの1つの小さなレバーが降りていて、計2つのレバーが電源OFF状態になっていました。

分電盤から漏電箇所を探すには、電源OFFになっているレバーがどこのコンセントに電気を流しているのかを突き止めます。そこのコンセントに差し込まれている電源ケーブルを辿った先にある電気機器が漏電していて、それを漏電遮断器が察知(コンセントにアース線を接続していれば)して、漏電遮断器を降ろし、電気を停めていますから。

探すとはいえHWDとLINEA-MINIの電源を投入すると店内停電する一方、HWDは200V電源を使用していて、その200Vを流している小レバーは電源ON状態(レバー赤色)のままでしたから、消去法でLINEA-MINIが漏電しているであろうと推測しました。(ええ〜〜、カフェラテ出せないか?!)と動揺しつつ探索続行。左側の漏電遮断器を上げて(電源ONにして)、電源OFFになっている16個のうちの1つの小レバーは動かさずにOFFのままにして、店内中すべての電源を投入しました。

いつも通りにすべての電源が入ればそれらの電気機器は漏電していませんから、対象外です。そして、電源OFFにしたままの小レバーを上げました(電源ONにしました)。まだ、店内すべての電気機器は動いています。ついで、LINEA-MINIの電源を投入すると・・・再び店内停電。こんな流れでLINEA-MINIが漏電していることが確定しました。

この日はカフェラテを始めエスプレッソを使ったドリンクと、スチームドミルク(ホットのミルク)を使ったホットのカフェオレは提供中止にせざるを得ませんでした。ということはドリンクについてはほとんどドリップコーヒーのみの提供。。。。寒い時期なのになかなかしんどい3日間でした。

24日、この日はとりあえずオープン準備を済ませて、販売代理店の技術サポート部隊に復旧対応をお願いしました・・・が、年の瀬も押し迫った12月24日。なにかと忙しいようで技術員の人がきてくれたのは2日後、26日の夜でした。

対応にきてくれた技術員の人の診断でやはりLINEA-MINIが漏電していることが分かりましたが、どの部品が漏電しているかを突き止めるまでに長い時間を割いていました。3時間くらいは作業をしていたと記憶しています。

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結論としては、黄色いマーカーで囲んだ銀色っぽい棒状のパーツが漏電を起こしていました。この棒状のパーツは、赤い矢印を伸ばした先の箱型パーツに差し込む形で装着されていたもので、赤い矢印の左側に赤いマーカーで丸く囲った箇所にも同じパーツが差し込まれています。通常は、箱型パーツに2本の棒状パーツが差し込まれて動いているのですが、このうちの1本が漏電を起こしていました。写真は箱型パーツから棒状パーツが抜き去られたところです。

この棒状パーツは、コーヒーボイラーを熱するためのヒーターです。

ヒーターが差し込まれている箱型パーツがコーヒーボイラーで、写真に写るコーヒーボイラーの向こう側には抽出口となるグループヘッドがあります。ありがたくも幸いだったのは、技術員の人が持ち合わせていないときもある交換パーツを持っていてくれたことです。これによって対応にきてもらった26日のうちに交換作業が終わり、27日からはカフェラテなどをご提供できるように戻りました。冒頭に書いた通り、この「27日」は12月27日で年末です。この年末は29日の19時まで営業しましたから、年を越さずに直ってよかったなとホッとしました。

ちなみに、ハードウェアにちょっと詳しい人なら今回はなんでもなかったもう1本のヒーターも「近いうちにそっちも漏電を起こすんじゃないか?」と訝しがります。定かではありませんが素直に考えればもう1本のヒーターも今回の漏電ヒーターと同じ時期に製造されているはずですので、漏電の原因がヒーターの経年劣化ならば・・・と思い至るもの。

技術員の人に、いまは動作しているもう1本のヒーターも「予防交換できますか?」とたずねましたが、それは叶いませんでした。この日はこれ以上パーツの持ち合わせがなかったことも大きな理由だったと思いますが、そも、予防交換という手法自体がふつうの対応ではないという雰囲気を醸してい(たように見え)ましたので、ハードの技術部門の人といっても分野や業界で文化が違うのだなと思いました。

蛇足ながら、さらにトリビア的な話を。

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上の写真はすべてのレバーが緑色のシールが見えるように倒れています。これは電気が停まっている状態です。

下の写真はその一部を拡大したもので、「入切表示」が図示されています。「入」が赤色で、「切」が緑色です。・・・ですが直感的には緑色で[ O ]の印のほうが電源が入っていそうで、赤色で[ I ]のほうが電源が切れていそうな印象がありますが、逆なんです。

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これは分電盤を操作する人、とりわけこの盤の内部に物理アクセスして操作する(多くは電気工事を行う)人に向けた仕様なんですね。緑色は安全を示す色で、この場合の安全というのは電気が停まっている状態を指します。赤色はやっぱり危険を示す色です。この盤の内部を操作している最中に電気が流れているというのは・・・感電したりなど、危ないことですよね。注意を喚起する必要があります。逆に電気が切れている緑色のときは安全に作業できますよ、という意味なんです。われわれ一般人向けの色分けではないんですね。

もう一つ、[ O ]と[ I ]の印ですが、これも[ O ]のほうが電源が入っていそうで、[ I ]のほうが電源が切れていそうに思えますが、逆なんですね。電気工学の世界では[ O ]はゼロで、無、切などを表し、[ I ]はイチで、有、入などを表します。パソコンなどでみられる[ O ]と[ I ]が組み合わさったマークは、電源の入切機構が切り替え式ではなく、ボタンスイッチなど一体型の機構のときに示されるものです。

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・・・ハハハ、コーヒーのことより語れそうです(苦笑)。まだコーヒーとの付き合いよりも長いですからね。

なんの業界でも同じだと思いますが、電気などインフラストラクチャーと呼ばれるものは根幹の技術要素がそうそう変わりません。1回学べばその後に知識・技能をアップデートせずとも将来にわたって基本的な対処であればできますから、その辺りのことをかつての仕事で経験してきたのはいまの我が身を助けているなと思います。

そしてインフラを分かっていると、自分が直面する表層的な現象に惑わされずに根本で理解できますので、本質的な解に短時間でたどり着くことができます。店内停電に対しても漏電というものが分かっていたからこそ、パッと対処できました。

コーヒー屋としてコーヒーを学ぶのも同じ姿勢です。エスプレッソマシンの機械機構を理解していないと結果(エスプレッソやスチーム)がどうしてそうなるのか、そのプロセスが分かりませんから応用が効かなかったり障害時の対処ができなかったりします。それは日々の自分の商売につながっていますから、機械や理論を分解したり深く掘り下げたりして、インフラというか根本のところを理解するよう努めています。

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