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新しいコンセプトを伝えるなら Difference よりも Reference

この記事では、スタートアップの経営者や、新規事業にたずさわっている方、新サービスのプロダクトマネージャーといった方に向けて、あなたの製品・サービスがユニークであればあるほど、そのユニークさや差別化ポイントばかりを強調してはいけない、という話をします。


新サービス、新規事業を手掛けていると、どうしても自分たちのユニークさや差別化ポイントを強調したくなります。「これは今までのモノとは違うんです」「ここが、こんなに○○なんです」という風に。

例えば、こんな言い方です。

私たちのサービスは、最先端の学習型AIにより、あなたのマーケティング活動をこれまでとは全く異なるレベルに変えます

これは私がいま5秒くらいで考えたものなので、かなりヒドい例ですが、似たような伝え方になっている製品・サービスは割りとたくさんあります。
以下は、私が実際に目にしたサービスの例です。ウェブサイトのファーストビュー(開いてすぐの画面)に並んでいる文言をそのまま持ってきました。

○○はオープンなインターネット上で、新たな商品との出会い、イノベーションの実現、より豊富な選択肢を、世界最先端のコマースメディアプラットフォームを通じてすべての人にご提供するべく、進化し続けています。

これ、何のサービスか分かりますか?
まあ、検索してウェブサイトに来る時点で、ある程度の事前知識はあると考えているのかもしれませんが、けっしてわかりやすい表現とは言えませんよね。

このように違いや独自性ばかりを打ち出しても、見ている方・聞いている方には「そもそも、これは何?」という疑問が浮かぶばかりです。皆さんにも似たような経験があると思います。


実は、新しい事業アイデアやコンセプトであればあるほど、Difference(差別化ポイント)よりも、Reference(参照点)の方がずっと大事になります。


あなたが情熱をもって取り組んでいるこの事業、あなたが考えた素晴らしいアイディア、そしてユニークなあなた自身を、「何か/誰かに似ている」「○○みたいなもの」と表現するのは、屈辱的で受け入れられないと感じるでしょう。
わかります。よーくわかりますよ。

でも、Reference(参照点)があると、グッと分かりやすくなり、人の記憶に残りやすくなるんです。アイデアを人の記憶に焼きつける方法を紹介した名著から、例を引用してみましょう。

ここで、「ザボン」とは何かを説明しよう(ザボンのことを既に知っている人も、知らないふりをして付き合ってほしい)。まず、こんなふうに説明することができる。

説明1:ザボンとは、最も大きな柑橘類である。外皮は非常に厚いが、柔らかくて剥きやすい。果肉は薄い黄色と珊瑚色の間で、果汁が豊富なものもあれば、やや乾いたものもある。また、甘酸っぱくて美味しいものもあれば、酸味のきついものもある。

ここで簡単な質問がある。ザボンとオレンジの果汁を1対1で混ぜるとおいしいだろうか? 上の説明をもとに考えてほしい。あてずっぽうで答えることはできても、断言はできないのでは? では、もう一つの説明を見てみよう。

説明2:ザボンとは、要するに超大型のグレープフルーツで、外皮は非常に厚く、柔らかい。

説明2は、相手が既に知っているグレープフルーツの概念を呼び起こす。「ザボンはグレープフルーツに似ているんだ」と言えば、相手は「あ、そうなのか」と、記憶の中からグレープフルーツのイメージを思い起こす。そこで、そのイメージをどう変えればいいかを教える。つまり「超大型」という言葉を付け加えるのだ。すると、相手も想像上のグレープフルーツをぐっと膨らませるはずだ。
相手が既に知っている概念と結びつければ、新しい概念も理解しやすくなる。
(中略)
グレープフルーツのイメージを呼び覚ますことで、ザボンの特徴をいちいち挙げるよりはるかに簡単にザボンとは何かを説明できる。ザボンとオレンジの果汁を混ぜたらどうなるかという質問にも、答えやすくなる。グレープフルーツ果汁とオレンジ果汁を混ぜるとおいしいことは知られている。だから、ザボンのイメージもグレープフルーツのイメージからこの特徴を受け継ぐ。
(出典:『アイデアのちから』  チップ・ハース+ダン・ハース 著

新しい概念であるほど、Reference(参照点)をうまく使った方が、相手にとって理解しやすくなるのがよく分かると思います。

ちょっと古い話になりますが、LINEが登場したとき(2011年です)、自分たちのサービスを「メール」と表現してたんですよ。そのときの売りは「(キャリアメールと違って)相手がどのキャリアでも大丈夫」でした。なぜなら、当時は携帯キャリアが違うと、絵文字が化けたり、サービスが使えなかったりした(互換性がなかった)からです。LINEは決して「メール」になろうとしたわけではないですが、あえて「メール」と言い切ったところがさすがです。

また、キャリアメールのやり取りには通信料が掛かったり、少し遅延があったりと、リアルタイムにたくさんやり取りしたい若者にとって使い勝手が良くありませんでした。

当時のLINEのバリュープロポジションを、私なりに書き起こしてみると、こんな感じになります。

スマホ用のメールである「LINE」は、もっとたくさんやり取りしたい若者にとって、どのキャリアの友だちとも、テンポよくメッセージがやり取りできて、しかも無料で電話までできちゃうスマホアプリです。

Reference(参照点)
=メール(キャリアメール)
Difference(差別化ポイント)=キャリア依存なし、テンポ・スピード感、無料電話


別の例としてメルカリについて考えてみましょう。メルカリが出たときはたしかヤフオクよりもはるかに後発ながら、ヤフオクの醸し出す難しさ、玄人向けオークションサービスではなく、フリーマーケットという立ち位置で訴求していたと思うので(違ったらすいません)、こんな感じでしょうか。

スマホ上のフリーマーケットである「メルカリ」は、まだ使えるけど不要になったモノを捨てるのがもったいないと感じるミレニアル世代にとって、スマホだけで完結できて、ヤフオクより使いやすいフリマアプリです。

Reference(参照点)
=フリーマーケット
Difference(差別化ポイント)=スマホだけで完結。ヤフオクより使いやすい。


新しいサービスを世に出そうとしている経営者、新規事業責任者、プロダクトマネージャーは、自分たちのバリュープロポジションを考える際に、こんな感じで Reference(参照点)と Difference(差別化ポイント)を考えてみることをお勧めします。
(今回は説明を省きましたが、バリュープロポジションステートメントには、上記例のようにターゲット顧客セグメントも入れると良いです)

さて、ここからが本当に大事なポイントです。このように作ったバリュープロポジションは、単にマーケティングやPRでの謳い文句として使うだけでなく、製品・サービス自体に反映するのが超重要です。なぜなら、この表現で興味を持った人にとって、あなたの製品・サービスは「実際に Reference に使った製品・サービスっぽい」という期待値があるからです。

メールっぽいんだろうなと思っている人には、メールっぽいユーザー体験(UX)を提供しなければ、ユーザーの期待値を外します。画面遷移やテキストの表現、ボタンの位置など、どこかメールっぽい体験でありながら、自然とあなたの製品・サービスのユニークさを体験させる。そんな風に製品・サービスを作りこめれば、ユーザーもオンボーディングしやすく、あなたもカスタマーサクセスしやすくなります


新しいアイデアやコンセプトであればあるほど、Difference(差別化ポイント)よりも Reference(参照点)です。

さて、あなたの新サービスは、何に似ていますか?何にあえて似せますか?


記事中でご紹介した『アイデアのちから』について興味を持った方はぜひこちらもどうぞ。この本はマジでお勧めです。#カタノリ

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