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『アイデアのちから』はもっと売れるべきだ! #カタノリ vol.5開催レポートと次回のお知らせ

版元の日経BP社は、今すぐこの本の新装版を出版し、あらためてプロモーションすることを検討したほうがいい。タイトルと表紙デザインを変更して。
今回の #カタノリ で扱ったのは『アイデアのちから』チップ・ハース+ダン・ハース
はっきり言って、この本のポテンシャルに比べて、売れてなさすぎる。

正直に告白しよう。
「超有名だけど~」シリーズと言いながら、私はこの本を知らなかった。ハース兄弟の著書といえば『スイッチ!』は知っていたが、この本は知らなかった。
#カタノリ運営メンバーからの推薦で扱うことにしたのだが、よくわかっていなかった。

だが、読んでみて度肝を抜かれた。
なんだ、この本は?!
なぜこの本を自分は知らなかったのか?
そもそも、この内容ならもっと知られてていいはずなのに、なんでこんなにマイナーなんだ?

これほど多くのドッグイヤー(折り目)が付いた本は、久しぶりだった。

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まず、タイトルが良くない。
『アイデアのちから』では、まるで「アイデア発想法」や「思いついたアイデアを良い企画にする方法」が書いてあるみたいじゃないか。
そうじゃない。
この本の骨子は、あなたの考えはどうやったら人に伝わるか、だ。
専門家であるあなたの話がうまく伝わらず、相手の行動や思考を変えられない理由を、これでもかと解説してくれる。

そして、この表紙。だれのイメージなの、これ。よく見ると、そのグルグルした目、なんかコワいよ...

もっと早くこの内容を知っていたら、仕事人生もっと楽だったんじゃないかと思わされた。けれど、すぐに思い直した。こんな良書を知ることができたなんて、#カタノリ 読書会やってて良かった、と。


「知の呪縛」から逃れるためのチェックリスト

6つの原則:SUCCESs
Simple  単純明快である
Unexpected  意外性がある
Concrete  具体性がある
Credible  信頼性がある
Emotional  感情に訴える
Story  物語性がある

前回の『影響力の武器』同様に、6つのポイント(の字面)を理解するのは簡単だ。どれも常識的な内容で、どこかで見た気もする。
冒頭にもまとまっているし、巻末にもまとめが付いているという手厚さ。
もちろん、インターネットでこの6原則を探すのも簡単だ。

 だが、ここでちょっと考えてほしい。この6原則は簡単に使えるし、その多くは常識的なことだ。それなのに、なぜ巷には記憶に焼きつく見事なアイデアが溢れていないのだろう? ことわざよりも、とりとめのない経過報告書が多いのは、どういうわけか?
 あいにく、悪者がいるのだ。悪者は、人間が生まれつき持っている心理的傾向だ。それは、6原則を使ってアイデアを創りだす能力を妨害する。この悪者の名を「知の呪縛」という。
(『アイデアのちから』序章より、太字は筆者)

記憶力が良い人なら、6原則はすぐに覚えられるだろうが、それがなぜ大事なのか、どういう形で実践すればいいのか、といった内容はきっと思い出せない。なぜなら記憶に焼き付いていないから。「知の呪縛」は、この本で繰り返し出てくる重要なコンセプトで、私にもっともグサグサ刺さったポイントだ。

「知の呪縛」は相手として不足のない敵だ。ある意味、それは必然だからだ。メッセージを相手に届けるプロセスには2つの段階がある。「答え」の段階と「他者に伝える」段階だ。「答え」の段階では、専門知識を駆使して人に伝えたいアイデアに到達する。博士は10年も研究を重ねて「答え」を出そうとし、企業経営陣は何カ月も検討を重ねて「答え」に到達する。
 問題は、「答え」の段階では強みになったものが、「他者に伝える」段階では裏目に出ることだ。「答え」を出すには専門知識が必要だが、専門知識は「知の呪縛」と切っても切り離せない。他人が知らないことを知っていて、それを知らないということがどんなことか忘れてしまっている。だから、「答え」を伝える段になると、相手が自分と同じ人間であるかのような伝え方をしがちだ。
(『アイデアのちから』終章より、太字は筆者)

では、どうすればいいのか?

「知の呪縛」を避けるためには、聴き手を「聞いてもらえる状態」にする必要があるが、これをチェックリストにしても「知の呪縛」ゆえに、うまく機能しない。
よって、自分のメッセージをチェックするためのポイント、呪縛を解くためのチェックリストとして整理されたのが、この6原則 SUCCESs だ。

単純明快さ、意外性、具体性、信頼性、感情、物語。

そして本書自体も、この6原則を使っている。つまり、「具体例(そこには意外性や感情、物語が含まれる)を紹介しながら、原則を伝える」という手法で、読者にメッセージを伝えている。これは『影響力の武器』もまったく同じだったことに気づき、つくづく6原則のパワーを実感する。

なぜ多くの良書が「具体例を紹介しながら原則を伝えているのか?」「単刀直入にポイントだけ伝えないのか?」と考えたことがあるだろうか?
『そりゃー、ポイントだけだと本1冊分にならないからね。内容を膨らまさないといけないからだよ』
などと考えていた私は、まったくもって浅はかだった。

物語から教訓を引き出すことはできるが、
教訓から物語を引き出すことはできない。

臓器狩り、映画館のポップコーン、「人名、人名、とにかく人名」、ザボン、木曜日は休校、アメリカの大学フットボール番組、白い物と「冷蔵庫の白い物」、VCへのピッチでの茶色いカバン、ピロリ菌の発見と証明、陪審員とダースベイダーの歯ブラシ、イラクの食堂、テキサスを怒らせるな、コピー機の修理工、サブウェイでダイエット。

本書で登場したこれらの事例(エピソード)は、読者ならすぐに思い出せる。

単純明快さ、意外性、具体性、信頼性、感情、物語。

6原則を一生懸命暗記したところで、これほど記憶には焼きつかない。
まさに、これこそが本書のメッセージの証明だ。


コンテンツ制作への示唆

以前、マーケティングやカスタマーサクセスの文脈で、事例やコンテンツを制作するときに「汎用化の罠」に陥いるな、という記事を書いた。

多くの人に伝えようとするあまり、言葉を丸め(汎用化し)てしまい、むしろ伝わらなくなりがちなので注意が必要、という趣旨だ。

『アイデアのちから』では、これを「知の呪縛」と表現し、繰り返し繰り返し戒めている。人は誰しも、知識を持ち専門家になると、複雑さやニュアンスに価値を感じ、完璧な正確さで伝えたくなる。その結果、専門家以外にはまったく伝わらなくなる。

マーケティングやカスタマーサクセスのコンテンツ制作では、具体性や物語性を省いてはいけないのだ。
事例が効果的なのは、ベンダーが語るよりも、お客様が語る方が「信頼性がある」からだけではない。事例には、具体性、信頼性、感情、物語という4つの要素を含めやすいからだ。「あの老舗企業がこんな最新ツールを?!」という事例には意外性もある。


アイデア勝負をしない、「普通の人」にこそ読んでほしい

終章で、本書で紹介された事例とともに、繰り返される言葉がある

普通の仕事に就く普通の人が、人々に影響を与えたのだ。

なんて勇気づけられる言葉。
終章で紹介されるこの言葉もまた、本書で紹介された多くの事例(エピソード)に裏打ちされているので説得力も抜群だ。

彼らが偉業を成し遂げたのは、人々に影響を与えるアイデアを練り上げたからだ。彼らには、権力も名声もPR会社も広告予算も広報官もなかった。アイデアがあっただけだ。

うん。確かにこの文章は心に響くし、これを表現しようとすると『アイデアのちから』というタイトルにするのも分からなくはない。
でも、それはまさに「知の呪縛」。本書の内容を知っているから、このタイトルで多くのことが伝わるが、知らない人には伝わらない。

日経BPさん、ぜひ本書をもう一度世に広めましょう!
タイトルと表紙デザインを変更して。


次回 #カタノリ 読書会の告知

次回も引き続き、「超有名だし、なんとなく知ってるけど、ちゃんと読んだことない名著シリーズ」です。

題材は『孫氏』

#カタノリ

「孫氏の兵法」で有名な、あの『孫氏』です。
はい、なんとなく知ってますよね。

「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず」とか
「百戦百勝は善の善なる者に非ず」とか
「兵は拙速を聞くも、 未だ巧の久しきを 賭(み)ざるなり」とか

最近、note CXOの深津さんが展開されてる現代超訳バージョンがめっちゃおもしろくて、あらためてちゃんと読みたくなりました。

なお、「孫氏」と Amazonで検索すると、軽く100件以上出てきます。ここから、どのバージョンを読むかを指定するのは現実的ではないので、「どのバージョンを読んできてもOK」とします。

読書会では、「自分に刺さったポイント、わからなかったポイント」を議論するので、どのバージョンを読んでも、実質的に問題ないと思います。

いちおう、参考までに挙げておくと、定番はコレですね。


なにかでお勧めされてて、私が買ったのはコレ。

私は持ってないのでわかりませんが、図解とかマンガでわかるとかでも、たぶん問題ないです。

ちゃんと読んだことなかったな、という方は、読書会参加という強制力をうまく使って、読んでみてはどうでしょう?(まさに私がそう)

気になる「篇」だけ読んでの参加もOKです。

開催日時・形式・アジェンダ

2021年3月10日(水)19:00~21:00
オンライン(Zoom)

アジェンダ
19:00〜19:30 もくもく読書タイム。
参加は任意。
他の人が読んでる雰囲気を感じながら黙々と読みます。気になった箇所の確認をしてもいいですね。

19:30〜21:00 本編。
もくもく読書が不要な方は、この時間からご参加ください。
好きな飲み物を手元に置いて、リラックスした雰囲気で参加してください。なんならお酒飲みながらでもOKです。

詳しい進め方と参加条件については、過去の告知記事を参照ください。

参加申し込み方法

以下の申込フォームからお申し込みをお願いします。
万が一、お申し込み多数!という嬉しい状況になった場合は、運営チームの独断と偏見で選ばせていただきますので、あらかじめご了承ください。

皆さんのご参加をお待ちしています!

#カタノリとは

たいていの人生の悩みや仕事のコツは偉大な先人たちが多くの苦労の末にたどり着いた知恵を残してくれているものです。

現代に生きる私たちは、素手で戦う必要はなく、偉大な先人たちが残してくれた知恵をうまく使っていきたいものです。なにせ、現代の問題はただでさえ複雑化している上に、加速するスピードの中で、問題を解決していかなくてはならないのですから。

先人の知恵をベースに、自分の置かれた環境で成果を残すことを「巨人の肩の上に乗る」と表現したりします。

アイザック・ニュートンは同じ科学者であるロバート・フックへ当てた手紙の中で、「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.)」と書いています。

私たちは巨人の肩の上に乗る小人のようなものだとシャルトルのベルナールはよく言った。私たちが彼らよりもよく、また遠くまでを見ることができるのは、私たち自身に優れた視力があるからでもなく、ほかの優れた身体的特徴があるからでもなく、ただ彼らの巨大さによって私たちが高く引き上げられているからなのだと。
ー イギリスの作家・哲学者 ソールズベリーのヨハネス著「メタロギコン」より

そんな生き方、働き方を多くの人に知ってもらいたくて発信しています。
ハッシュタグは #カタノリ です。


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