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『立喰いそば』

僕がまだ小学1年生くらいだったと思う。国鉄の原町田駅(現在のJR町田駅)前のバス停の横に「大関」という立喰いそば屋があった。当時はまだ背が低くて、立ちテーブルの下にある荷物棚に、鉢を置いて、背伸びしながら、そばをすすっていたのを覚えている。

小学生の高学年になるとゲームセンターに入り浸り、ゲームの合間に隣の「大関」の立喰いそばを食べていた。その頃、もっぱら注文していたのは「かけそば」だ。一杯が200円くらいだったと思う。その時はゲームにお金を投入することを最優先していた為、食事への出費は最小限に抑えていた。
ただ、ごく稀にお小遣いに余裕がある時は、かき揚げをのせれる時もあった。鰹出汁のほのかに甘い出し汁に浸すと、ほろほろと衣が崩れ落ち、ほふほふとそばに絡ませながら食べたあの味は忘れられない。インベーダーゲームに夢中になっていたあの頃は「大関」が胃袋を満たす食堂だった。

中学生になり、少しだけ悪ぶっていた時があった。友人3人と、公園でだべっていた時に「お前らどこの中学だ!」と他校の不良にからまれたことがあった。こっちは悪ぶってはいるものの、先日デビューしたばかりの中身は普通の中学2年生だ。どうやら隣の中学の3年生のようだ。

相手も3人。こちらも3人。。。えっ!一人逃げた!と思ってたら、親友がいきなり殴られた!こちらにも殴りかかっきた!やばい!逃げる暇もない。。。

夢中で親友に馬乗りにしているヤツに飛びかかり、そいつの頭を蹴り上げた!そのまま自分も腹を蹴り上げられた!もうどうにでもなれ!全力で向かっていった!殴られた!蹴られた!ぶっ飛ばされた!

僕と親友の顔は血がだらけで、身体はあざだらけ、しばらく立つこともできなかった。ようやく、起き上がり、ひどい顔を見合わせた。二人でしばらく泣き笑い。お互いに肩を抱き合って、公園の水道でほこりまみれの服を払い、汚れと血を洗い流した。

夕方になり、親友が「腹へったな」というので、「大関」に向かった。店に入ると「へい、らっしゃい」といつもの声。店の大将が、ちらっとこちらを見て、「大丈夫かい」と声をかけてくれた。「大丈夫です」と答え、「いつものかけそばを2つ」と注文した。

数分後、上がってきたのは、「かき揚げそば」だった。大将が「特別サービスだよ」とウィンクしてくれた。僕たちは御礼を言った。その時の乾いた青春に大将のやさしさが沁みて、二人で顔を見合わせて泣いた。

そばをテーブルに運び、一口すすってはみたものの、切れて腫れあがった口には熱すぎた。その時のそばは、血の混じった、苦々しい味だった。

あれから40年が過ぎた。今でも場所を変えて、「大関」は営業をしているらしい。色々な思い出が詰まった店だった。いつかまた寄ってみようかなと思える今日この頃であった。

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