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【読書録123】ヒトは「生き物」、チームも「生き物」~中原淳・田中聡「チームワーキング」を読んで

 著者が所属する、立教大学経営学部で行われる、ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)では、毎年、200組近いチームが活動している。
本書は、そのチーム活動を通じて得たチームワークに関するデータを基に、人が集まりチームになると何が起きるのか、どうするとダメになるかを手に取るように教えてくれる。
 
 大学の授業と侮ることなかれ、そこから導かれた知見は、驚くほど、企業で働く私にとっても臨場感あるものとなっている。

 そして、副題(ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方)の通り、データに加えて、ケースを用いることでデータ分析の結果をわかりやすく教えてくれる。
 
 3つのケースを取り上げるが、各々のケースが、臨場感あって、まさに「あるある」で、デジャブ感があって、読み進めるのが辛くなるほどだ。

 しかし、それに対する処方箋もデータから導いてくれる。

チームで活動する事がない人はいないことを考えると、本書は、すべての人に読んで欲しい本である。


チームに起こりがちな病

 
 まずチームで起こりがちな「病」を以下の通り挙げる。

「目標ってなんだっけ?」病
役割分担したはずのタスクがまったくつながらない病
フィードバックより仲良し病
振り返れば、誰もいない病
最後はいつもリーダー巻き取り病

キャッチ―な言葉であるが、チームで起こりがちなことを端的に示してくれている。

どれもこれも本当に「あるある」だ。

著者は、こう言う。

要するに、学生であろうと、社会人であろうと、チームにまつわるひとびとが経験する苦難やつまづきには、共通点があるということです。

本当に、私も今まで経験してきた内容だ。

➀目的と手段が混同して、いつの間にかたんに手段に過ぎなかったものが、目的化してしまう。
➁役割分担して作業を分担したが、集めてみたら全くまとまりのないものになってしまいこのままでは全く使えないものになってしまった。
③メンバーの関係性を壊したくないから、不満があっても言わないようにしていたら、アウトプットの質が悪くなった。あるいは、いつの間にか誰もチームにコミットするメンバーがいなくなった。
➃➁を恐れるあまり、一人でやろうとしてしまい、結局、自分一人で誰もいなくなった。

 どこで見て来たんだろうと思わせるくらい「あるあるだ」。そして、人間ってどこでも何歳でもそんなに変わらないんだなあとも思う。

 これらの症状、正直言って、自分ではどうしようもないものだと思っていた。メンバーに恵まれていないからだと思っていた。

 しかし本書を読んでそれは大きな間違いで、データから見えるきちんとした処方箋があるということが分かったことは大収穫であった。

 あとは、如何に実践できるかである。

なぜingなのか?


著者は、膨大なデータを分析し、「成果がでるチーム」と「成果がでないチーム」の特徴を明らかにする。

【成果がでるチーム】
1)チームメンバー全員が働き、
2)チームの状況を俯瞰する視点を持って、
3)共通の目標に向かってなすべき事をなしながら、お互いの仕事に対し相互にフィードバックをし続けている

【成果がでないチーム】
1)一人のリーダーだけがチーム全体のことを考え、
2)リーダーが中心となってチームの目標と各自の役割を設定し、
3)それ以外のメンバーはお互いの役割や仕事の状況にはさして関心を示さず、自分に与えられた役割をただ黙々とこなしている

概念としては、よくわかる。前者になりたいけど、後者に陥りがちである。

それを他のメンバーの責にしてしまっている自分がいる。

そんな私に欠けていた視点がingである。

チームを「動き続けるもの(workingしている存在)」として捉える

一人ひとりがリーダーとして、変化するチームの全体像を捉えながら前進させていく、ダイナミックなチームワークのあり様を「Team + Working」ということで、「チームワーキング」と名づけた。

チームとは常に刻一刻と変化し、チームの構成員メンバーの貢献によって「常に変わり続ける(~ing)」もの

私は、チーム活動の際に無意識的に、最初に目標を設定して、それに向けてのタスクを分けて一方向に進んでいくものと捉えていた節がある。

人間は生き物である。その生き物である人間の集合体であるチームも生き物であるのは当然と言えば当然。でもチーム運営をする際にその視点は全く持っていなかったように感じる。

「3つの視点」と「3つの行動原理」


 チームを「チームワーキング」にするための「3つの視点」を具体的に示してくれる。

➀「チーム視点」チームの全体像を常に捉える視点
➁「全員リーダー視点」自らもリーダーたるべく当事者意識を持ってチームの活動に貢献する視点
③「動的視点」チームを「動き続けるもの、変わり続けるもの」として捉える視点

この視点は、本当に重要だと思う。硬直的に縦割りでタスクをこなす状況から抜け出すことはかなりのマインドセットの変化であるが、VUCAと言われる変化の激しい時代においては必須になっている。

そして、この3つの視点をベースに具体的な行動原理を上げる。

➀Goal Holdimg ; 目標を握り続ける
➁Task Working:動きながら課題を探し続ける
③Feedbacking:相互にフィードバックし続ける

具体的な内容は、本書に譲るが、本当、どれもなかなか実践できていないなあと反省させられる。ちょっとした工夫でずいぶんとチームのありようは変わるかもと感じさせられる。

そして、3つのケースを用いることで、行動原理の大切さを教えてくれる。

各々のケース、あるあるで臨場感があって、まさに「しくじり先生」である。
その中でもとりわけ、あるあるだな、やってしまいがちだなと思ったことを2つを取り上げたい。

目標設定不十分のまま各論に入る


そもそも全員で、「何をめざすのか」という目標設定をきちんとしないまま、「何をするか」の議論に入ってしまいました。しかも目標を見直したり、再度握り直したりすることもせずに個々の活動を進めてしまいました。

これは、身につまされる話である。「何をするか」を話すのはイメージしやすい。でもチームメンバーで「何をめざすのか」が決まっていないと、何をするかは無限にばらつく。考えてみれば当然のことであるが、これができていなかった。

「目標の握り方」はチームワークの成否に大きくかかわる要素です。

最初にしっかり目標設定したとしても、チームというものは、環境や状況の変化によってっ目標を見失っていくものです。だからこそ、目標を常に握り続けなければならない(≒目標を全員が保持できている状態をつくらなければならない)

成果の高いチームの目標設定には、特徴がいくつかあるとのことであるが、私に刺さったポイントは、「全員がコミットし続けられるように目標を設定し続ける」ということだろう。

ここでも、「チームは動いている」が鍵である。個人でも目標設定は動きつづけるんだから、チームでも当たり前か。個人のことは自分でわかるが、チームになればこそ、目標を持ち続けることの重要性は増す。

「仲良くすること」が目的化する


 著者は、「仲良し信奉」デスマーチと言っているが、これもあるあるだなあと思って読み進めた。

「仲良し信奉」デスマーチ
➀「仲良し」の目的化 → ➁個業化 → ③ ブラックボックス化 → ➃チーム視点の喪失 → ⑤コケる

これは、むちゃくちゃ分かる。分かりすぎるくらいに。

成果を上げられないチームは、意見の対立や認識の相違を見て見ぬ振りして、「チームの仲の良さ」を優先するようになる。

これを打破する方法も教えてくれるが、それは、本書に譲ることにしたい。

本書は、読むだけでは本当にもったいない。実践しよう!!

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