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【人材開発研究大全②】第24章 降格人事と上司の管理行動 田中聡・中原淳・保田江美・齊藤光弘・辻和洋

 二本目も、最近、興味のある分野から。フィードバックについて。フィードバックの中でも難易度の高い、降格人事の際のフィードバックを中心とした上司の管理行動についての論文である。なかなか興味深かった。


概要

 降格人事後の部下の職務成果に影響を与える上司の管理行動を明らかにし、上司に求められる「降格人事に伴う管理行動のあり方」を考察する。

 とりわけ、日系大手サービス業A社において降格人事の対象となった専門職36名と人事担当者を対象にした実証調査を行った事に意義があると思う。

降格人事について

 年功序列が職能給を採用する企業の割合が減り、降格人事を行う企業が、広がっているという。その目的として、「職務と成果のギャップの是正、公正な処遇の実施」「人事考課の公平性・納得性の向上」「従業員の意識改革、職責の自覚の醸成」を掲げる企業が多いという調査結果を紹介する。
 また降格人事の問題点として、「降格者のモチベーションの低下」「降格後の配置が難しい」という降格後の人材マネジメントに関するものが多いという。

降格人事に伴う上司の処し方は非常に難易度が高いのは想像に固くないと思うが、本書ではそれをこう述べる。

降格人事に伴う管理行動の難しさは、評価面談時には降格という精神的な苦痛を伴う評価結果を伝える必要がある一方、評価結果に対する部下の納得性を高め、業績改善に向けた動機付けを促し、その後の継続的な支援が求められる、という両価性(アンビバレント)にある

 その上司の管理行動として重要なのが「フィードバック」である(London 2003)。

フィードバックに関する先行研究

 フィードバックとは、「期待される目標と現在のパフォーマンスとのギャップを埋めるために必要な情報を提供する行動」(Hattie & Timperley 2007)

 フィードバックというと、過去の行動や評価に関する情報の伝達を指す場合が多いが、本章では、上記の定義の通り、将来の意識や行動を補正・強化する介入方法の1つとして捉える。

 本章では上司によるフィードバックを、人事評価面接などのフォーマルな場面で行われるものと、日常的な職場のインフォーマルな場面で行われるものに分けてレビューする。
 これが非常に興味深かった。

人事面接における上司のフィードバックに着目した研究

近年では、人事評価を査定中心の人事評価から人材育成としてのパフォーメンスマネジメントへとシフトしている企業が多く、アカデミックの領域でも人事評価が人材育成・能力開発におよぼす影響を明らかにしようとする研究が盛んに行われるようになってきたという(不古川 2011)

本章で紹介されている先行研究にも様々なものがある
例えば、

・フィードバックは常に部下のパフォーマンスを高めるわけではなく、約3分の1のケースでは、フィードバックがパフォーマンスの低下をもたらす
・ポジティブフィードバックが必ずしも部下の行動に望ましい効果をもたらすわけではない

などなど。 また「どのようにフィードバックするか」についても

・被評価者の強みと課題に着目し、強みと課題に着目し、強味を重視したフィードバックをすることが効果的
・被評価者が業かの目的を正しく理解している場合、フィードバックに対しえて、肯定的な反応を示し、組織コミットメントや職務満足度に有意な影響を与える

 などである。

日常的な職場における上司のフィードバックに着目した研究

 こちらは、職場における上司と部下の関係性に着目した研究であり、最近、さかんに行われているという。
以下の先行研究は感覚ともフィットするし、実践するにあたっても参考になるものである。

・目標に適合したポジティブフィードバックが与えられた部下であっても、関係性の質が低い場合には、責任感に関して抑制効果がある
・フィードバックが即応的に行われた場合、ポジティブフィードバックもネガティブフィードバックも良好な効果をもたらす結果を示した。一方、フィードバックが非即応的に行われた場合、ネガティブフィードバックが一貫して悪い効果をもたらすだけでなく、ポジティブフィードバックも悪い効果をもたらす可能性がある

常日頃の接し方が重要なのだと思う。

先行研究の課題

 これらの先行研究の課題として、著者らは、フォーマルなフィードバックとインフォーマルなフィードバックを横断的に扱うものがないということを挙げる。確かに以下でいうように著者らがこの点を踏まえて、横断的に実証研究を行ったのは意義深さを感じる。

実証研究


目的:降格対象者の意識・行動と、降格に伴う上司の管理行動の実態を明らかにし、降格後の亜フォーマンス改善に影響する上司の管理行動を実証すること
方法:日系大手サービス業A社において、降格対象となった専門職36名の上司と人事担当者を対象にした質問紙調査

調査の結果、降格体調者の意識行動上の特徴として、以下の5点を挙げる。

①環境変化に対して、自らの意識・行動を変えていない
②組織コミットメントが高い
③能力に限界を感じ、キャリアを諦めていること
④降格の対象になったことに対して、理解は示しているが、納得していない
⑤自らの市場価値を検討したうえで、組織に留まる決断をしている

 いずれも私自身の肌感覚とも合う結果である。
とりわけ①については、「外部環境の変化に対して、不安や危機感を感じていた」に該当する割合は高い一方で、「これまでの仕事に関する価値観を変えていた」「これまでの仕事のやり方を変えていた」の割合が低いというのは、興味深いし、私の年代になると一番気をつけないといけない。
思ったら、感じたら、即、動き出すということだ。

また②の組織コミットメントは、ロイヤリティの高さを挙げるが、継続的コミットメントの面も強いような気がする。

 そして、降格通知時の上司の管理行動、つまりフィードバックであるが、興味深いのが、降格対象者の課題にフォーカスする一方、モチベーションの向上や学習を促す働きかけについては相対的に実施されていないということである。

自分だったらどうするかな?なにか次の職場でモチベーション高く働いてもらうようなこというような気がする。

そして、降格後のパフォーマンスを規定する上司のフィードバック行動であるが、これも興味深い。

上司の管理行動として、パフォーマンスの変化と有意な相関が認められたのは、降格通知後の以下の行動とのこと。

・会社として本人に期待する役割・目標を正しく理解させること
・役割・目標を達成するために何をすればよいか具体的にアドバイスすること
・仕事の振り返りを促し、学びを引き出すこと

 また一方で、降格通告時のフィードバックはいずれもパフォーマンス変化と有意な相関は示さなかったという。

 通告時のフィードバックは非常に難易度高いと思うが、それだけでは不十分でその後もきちんとフォローアップしないといけないんだなあと思う。

 「モチベーション変化」と有意な相関が認められたのは、降格通告時の「課題(改善すべき点)が何かを伝えていた」という項目で、なんと負の相関を示していたという。

 上司が、フィードバックで力点をおいていた、課題を伝えるということが、モチベーションに負の相関を与えていたというのはなんとも皮肉な結果である。

 そして、降格通知後のフィードバックは、いずれもモチベーション変化と有意な相関は示さなかったという。

 非常に興味深い調査であるが、成果変数として、上司が知覚する部下のパフォーマンスとモチベーションとしている点がそれで良いのかなというのは少々引っ掛かった。具体的には、フィードバックを行った上司だと部下が変わってほしいというバイアスがかかるのではないかという点である。この点は、もっと論文読んで言って、成果変数の置き方とかは学んでいきたい。

 著者らも本研究の理論的意義で述べているが、降格通知時のフィードバックと降格通知後の日常的なコミュニケーションにおけるフィードバックも加えて総合的に検討した点は、意義深いと思う。

感想

 フィードバックは、オフィシャルな人事面談の場だけではなく、日常的に行っていく継続的な活動であるというのは、あらためて大きな気づきになった。
 また今後の課題でも述べられているように、上司=部下の信頼関係や職場メンバーから受ける支援とか企業風土みたいなものも確かに影響ありそうである。

 

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