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家畜カップル3 ~K国人様とチョッパリつがい奴隷『新たなる標的』

 最近、兄の様子がおかしい。
 高校生の佐藤瑞樹が最初にそう感じたのは、夏休みも終わりに差し掛かった時だった。
 元々、内向的で大人しい性格の兄だったが、部屋に籠もることが多くなり、そうかと思えば突然、外へと飛び出していく。
 さらには前まで特に興味も無さそうだったK-POPを聞き始めたり、K国のドラマや映画ばかり見るようになった。
 今ではK国語の教本を何冊も購入し、必死に勉強しているのである。
 兄である優太は元々、K国に対して特に感情は抱いていなかったはずだ。
 好きでも嫌いでもない、隣の国。
 そういう認識だったはずで、瑞樹も同じ感覚だった。
 しかし夏休みに恋人の葵と友人たちと行った泊りがけの旅行から帰った辺りから、急にK国贔屓になったのである。
 両親はただK国文化にハマっただけだろうと軽く考えていたが、瑞樹はおかしいとしか思えなかった。
 特に突然、家を飛び出すことが多くなった事は一番の謎であった。
 本人に尋ねても『葵に用事があって……』といつも返されるのだ。
 だが瑞樹は葵のことを幼い時から知っている。
 彼女は突然、私用で人を呼び出すことなど今までほとんど無かったのだ。だからこそ、瑞樹は兄の言葉を信じていなかった。
 さらに外泊して帰って来ることも増え始めた。
 そう言えばその旅行に同行したのは、大学で仲良くなったK国人であったような……
 絶対に何かある。
 そう考えた瑞樹は、自分で調べようと腰を上げた。
 それが自身を、ひいては自分達家族がK国人によって家畜化される結果を招くことになるとは、この時の瑞樹は微塵も考えていなかったのであった。

 夏休みも終わったある日の土曜日。
 夕方近くになって突然、優太は用事があると言って家を飛び出した。
 いつものパターンである。
 瑞樹はすぐに隠れて、兄を追った。
 母親には夕飯までに戻るとは伝えたが、瑞樹は真相を知るまでは諦めない心積りであった。

 兄はそのまま藤野家まで向かい、玄関先で葵と合流した。
 それを見た瑞樹は本当に恋人と会っていることに、少しだけ安堵する。
 しかし優太と葵は会って早々、二人で駆け出したのだ。
 慌てて瑞樹は二人を追い、気がついた時には郊外にある高層マンションの近くにいた。
 いかにも富裕層が住んでいそうなビルに入っていく二人の後ろ姿を、瑞樹は呆然と見つめていた。
 流石に二人を追ってマンションの中に入っていく勇気は、瑞樹には無い。
 どうしようかと様子を伺っていると、中から兄と葵が誰かを伴って現れた。
 見たこともない美男美女だった。
 二人共、背が高く顔も整っている。
 思わず瑞樹はその二人に見惚れてしまう。
 が、四人が移動し始めたので、慌てて追跡を開始した。
 謎の男女は楽しそうに談笑し、その後ろを優太と葵が付いていく。
 優太と葵は何も喋っておらず、前の二人の様子を伺っているようだった。
 瑞樹の目にはまるで兄たちが前のカップルの従者に見える。しかし、それほどまでにカップルとして魅力が違いすぎたのだ。
 暫く四人は歩くと、駅前にあるバーに入っていった。
 既に空は暗くなり始めており、駅前には帰宅しようとする人達が多く歩いている。その中で瑞樹は呆然と兄たちが入っていった場所を見つめていた。
 どうやらK国バーのようだ。
 瑞樹は未成年。入れそうには無い。
 そう思い途方に暮れていた時だった。

「アニョハセヨ〜♪」

 不意に後ろから声をかけられ、驚いた瑞樹は振り返った。

「あっ……」

 そして言葉を失った。
 目の前に現れたのは同じ年齢位のカップルであった。
 笑顔でこちらを覗き込む少女と、その隣で気だるそうにする少年。
 二人共、まるでアイドルのような美貌とスタイルであり、瑞樹は二人の姿に見惚れてしまったのだ。
 先程、兄達と一緒にいた美男美女に勝るとも劣らない美少年美少女カップル。そんな印象だった。

「こんなところでどうしたの?」

「あ、えっと……し、知り合いを探していて……」

 全てを見透かすような少女の瞳に気圧されながら、瑞樹は答えた。

「知り合い? それってもしかして、今中に入っていった人?」

「え、あ、はい」

 思わず素直に答えてしまう。
 すると目の前の少女はニコッと笑った。

「そうなんだ。実はね、今入っていった人、私たちの知り合いなんだ」

「え、おにいちゃんと?」

 つい瑞樹の口から漏れた一言に、その少女は一瞬目を丸くするがそのまますぐに笑顔に戻って、さらに尋ねた。

「もしかして、佐藤優太さんの妹さんですか?」

「え、あ、はい……」

 戸惑いながらもそう答えた瑞樹に対し、その少女は隣の少年と視線を合わせてから、笑い合うと言った。

「私はイェリン。優太さんには、日頃からお世話になっています♪」

 そう言ったイェリンの笑顔の美しさに、瑞樹は息を呑んだ。だからこそ、横で失笑するテオに気がつかなかったのだろう。
 そのまま瑞樹は、テオとイェリンに連れられて、近くの喫茶店に入った。
 兄のことを知っているらしい上に、美男美女の華のある二人からの誘い。断る理由は無いだろう。
 席に着くとテオとイェリンは、瑞樹に自分たちは優太と葵の友人であると自己紹介した。
 優太と葵が通う大学の同期に、自分たちの兄姉が留学生として在籍していること。
 その兄と姉が優太と葵とは友人関係であること。
 そして自分たちも長期休暇を使って、日本にやってきており、優太と葵とは兄達を通して知り合い、日本での生活を色々と助けて貰っていること……
 イェリンは瑞樹に優太たちとの関係を簡潔に説明してくれた。
 最初はイェリン達を半分疑っていた瑞樹だったが、彼女の天真爛漫な笑顔とトークの上手さによって徐々に警戒を崩し、気が付けば同年代の女子として気軽に接することが出来るようになっていた。

「じゃあ、おにいちゃん達はイジュンさん達とあのバーで飲んでるんだ」

「ええ、あそこはお兄ちゃんとソアさんの行きつけで、優太さん達にも紹介したの。あそこ、今日はK国デーで本当はK国人しか入れないんだけど、優太さん達は特別に入らせて貰えてるの」

「え! 凄い!」

「うふふ、VIPなら好きな人を呼んでもいいことになってるんだよ。そうだ! これからイェリン達もそこに合流するんだけど、瑞樹ちゃんも来ない?」

「え、いや、私は未成年だし……」

「イェリン達も未成年だよ。でも大人の知り合いがいれば大丈夫。私のお兄ちゃんと、テオのお姉さんもいるしね」

「む……」

 自分の知らない世界。まだ高校生である瑞樹は好奇心が警戒よりも勝った。
 そのまま彼女はイェリンに誘われ、そのバーに行ってみることにしたのである。
 家には友達と遊んでいて遅くなると伝えた。
 そして3人は喫茶店を出ると、そのまま近くのバーへと向かったのである。
 中に入ると、薄暗い店内と艶やかな照明。
 そして全く日本語が聞こえず、K国語が飛び交う異様な雰囲気に瑞樹は呑まれていく。
 まるで日本にいながらK国にいるような感覚であった。
 そんな中、彼女はイェリンに手を引かれ、店の奥へ奥へと連れて行かれるのである。

「この一番奥の席がVIP席! 周りからも少し離れてるし、広くて過ごしやすいんだよ」

 そして連れてこられた席は、確かに周りの席からは離れており、陸の孤島のようであった。
 床も一段高くなっており、バーを見渡しやすくなっている。

「ここからだとステージも見やすいんだよ」

「ステージ?」

「うん。ほら、あそこ。あそこで偶にショーがあるんだよ」

「そ、そうなんだ……ところで、おにいちゃんと葵さんは? それにイェリンちゃんのお兄さん達も……」

 先に飲んでいるその四人と合流すると聞いていたが、彼らの姿は無い。
 瑞樹が不安げに尋ねると、イェリンは答えた。

「すぐ来るって。とりあえず何か頼む?」

 気がつくとK国人のボーイがメニューと水の入ったグラスを差し出してきた。
 急な外出だったので、手持ちは少ない。
 瑞樹は少し考えると答えて、水とメニューを受け取った。
 そして緊張からか、そのまま水を一気に呷っていく。

「ん……」

 グラスの中身を飲み干した瑞樹は瞳をトロンとさせ、意識が薄くなっていくことに気がついた。
 力が入らない。
 まるで眠っていくような……

「チョロいもんだな」

「駄目だよ、テオくん。これからが本番だよ」

 テオとイェリンが何か話しているようだが、上手く聞き取れない。
 そんな中、二人のK国人は瑞樹の両手と両足を座っている椅子へテープのようなもので固定していく。

「これでよし、と。さ、ショーが始まるよ」

 イェリンはそう言うと、瑞樹の顎を摘むと中央のステージの方へと顔を向けさせる。
 朧気な意識の中、瑞樹の視線はバーの中央に向かう。
 薄暗い店内の中で唯一、派手なライトによって照らされたそこへ四人の人影が姿を現した。
 男と女が二人ずつ。
 そのうちの二人に、瑞樹は覚えがあった。

「……おにいちゃん……葵さん?」

 よく見知った兄とその恋人の姿。
 しかし二人の格好を見て、瑞樹の意識は徐々に覚醒し始めた。

「え……えええっ!?」

 はっきりと見えた兄達の姿に、瑞樹は目を見開いて驚いた。
 兄の優太とその恋人である葵。
 二人は衣服を一切身に纏わず、生まれたままの姿でステージに立っていたからであった。

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