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【LIPHLICH】活動休止前最終ライブレポートNatural New Nix@神田スクエアホール_2024/2/24

暗転した会場内に、映画のフィルムが回る音が響く。
おもむろについたライトは青から赤へ色を変えた。
ピアノの音が重なる。
シンフォニーの重層で、「リインカーネーション」の『さあ繰り返そう』の部分が会場に満ちる。始まったばかりだというのに、もう大団円のような空気の中でメンバーが一人ずつ入場する。

最後に入場した久我さんがピンスポットでアカペラで歌い始めたのは「航海の詩」の英詞だった。下から上に舐めるようなライト、深い深いお辞儀。

①     航海の詩

海へ落ちた人もいて

何が間違いだとか

これは僕ら『自由』の反逆の詩

フレーズごとの言葉が活動休止を前にしたツアーファイナルである今日の状況に重なって耳に届く。
言いたいことを、かつて自ら作った歌の言葉を借りて、伝えようとしているのだろうと思う。

航海の詩は、LIPHLICH初期のアルバム『SOMETHING WICKED COMES HERE』に収められた初期の曲だ。
ギミックが濃縮された近年の曲に比べ、初期の曲は潔くシンプルな構造のものが多いと改めて感じる。この曲をライブで聴くのは個人的にとても久しぶりに思う。
度々演奏していた頃(というか私がライブに通っていた十年前)は、宣誓のような作品だと思ってピンとこずに聞いていたけれど、この曲は活動休止前の最終ライブであるこの日の一曲目に配置される存在なのだということを改めて思う。
初心を思い出すというか、そもそもの存在理由を確かめるというか。

これは僕ら『自由』の再生の詩

ギターソロ時に、自らに目隠しをして見せる久我さん。

だからこそ決して終わりはしない

膝からしゃがみ込むような深い深いお辞儀。

②     聖俗街

息を呑んで立ち尽くし、ステージを見ていた客席が我に返って、イントロに誘われるように拳を上げる。

君を置いて この街を抜け出すなんてしない

サビ前に前に出て、客席を見渡す新井さんと竹田さん。
ギターソロ中、両手を広げて客席を見渡す久我さん。

七色の明滅する光。
これまでの十三年間の、さまざまな景色の走馬灯を暗喩するような。

Just the way I am(私のやり方で進むだけ)

これも決意の歌だと思う。
「君を置いてこの街を抜け出すなんてしない」というフレーズは、今までの走り続ける中では、振り落とされてしまいそうになる客席の一人一人への配慮という曲だと認識していたけれど、活動を止める覚悟をもってこのステージに立っている今日は、再会を願う無力感と祈りとして届いた。
どのくらいの期間になるかわからない別れを前にして、差し出せるだけの誠実さを全て差し出そうという意思を感じる。

③     ドープメアリー

「いらっしゃいませー」という久我さんの客席への呼びかけで空気が緩む。
イントロフレーズでの客席のジャンプで床が揺れる。
紫のライト。マイクスタンドをもって身を揺らす久我さん。

バラバラの僕が拾い集めているもの こぼれおちるよ

ドラムに直しのスタッフが入る。
同期の音が少ない。「現在の四人の等身大を見ている」と感じた。

指で7までのカウントアップ。

④     7 die deo

紫一色のステージを白い細い光が切り裂く。
知っている音を耳にし、指先で確かめる客席。

どれでも同じことさ

ギターソロが華やかだ。感触に懐かしさと既視感を覚える。この曲をフューチャーしていたツアーに足を運んだことを思い出す。何年も前に見たひとつひとつのライブのことなど記憶から消え去っていると思っていたけれど、この曲を埼玉の会場で聴いた、千葉の会場で聴いた、など当時の空気の断片は私の体に記憶として刺さったままだったのだと感じる。

⑤     マズロウマンション

「ようこそおいでくださいました、いらっしゃいませー!」
今日のライブに足を運んだことと、マンションに誘うような、二重の意味で久我さんが叫ぶ。
聞きなれたギターソロ。懐かしい。音の細部ひとつひとつを拾い上げ、身振り手振りに反映させて楽しんでいた客席の記憶。
当時の記憶で、体が勝手に条件反射のように揺れる。

真っ暗な中、ライトの赤い線が垂直に刺さる。
シンバル。ギター入り失敗。
「ようこそ、活休前最後のワンマンへ。今日は小道具持ってきてるの」
ステージ上が明るくなる。
「雰囲気崩れたから、ここから」

改めてのシンバル入りからのギターイントロ。
赤い線が久我さんの頭上へ、再度垂直に垂れる。

⑥     魔旋律

窓が塞がれた 空が閉じられた 

分かっているけど見えない因果律

サビでピンクとオレンジのライト。
音の圧と厚み、説得力を実力として感じる曲だと思う。
聖歌みたいな間奏。繊細なギターソロ。
一音響くごとに、背景の緞帳が色を変える。
LIPHLICHは音楽を魔法みたいに見せるのが上手だったことを思い出す。
まだ見たことのない魔法を次々と見せてくれる手品師だった。かつては熱心に、自分の生活よりもライブを見ることを優先してまで信じていた。
彼らは実力のある魔法使いだな、と改めて思う。
活動休止について、全くピンと来ていないけれど、暫く見られなくなるということをやっと少し実感する。

最後のジャーンという音と同時にオレンジの光が一度に前を向く。

⑦     ショウリブラの場合

今夜の上演でもう残り時間が尽きてしまった

手拍子を求め、マイクスタンドを抱えてへたり込む久我さん。

二人で初めて見世物
ショウは終わるものだし、大丈夫

演じる久我さんを見るのは久しぶりだと思う。
新井さんと竹田さんは互いを見て弾くソロ。
ピアノのアウトロが、時間を止める感触。

⑧     STRAYSTAR

星降る宇宙にある血が沸き立つこの汽車で 行方不明の線路探し

前奏のジャンプ。近年のLIPHLICHの代表曲のひとつだ。
ここにいる現在のLIPHLICHを支えるファンの足並みが揃う。

あちらに見えますのはエデンと呼ばれる星 それはそれは暗い楽獄

竹田さんがめちゃくちゃ客席を見ている。
スラップベースの見せ場。
ドラムの見せ場。
ギターの見せ場。

そうだこの曲は「客席の乗り込んだLIPHLICHという汽車」へ焦点を当てるべく、それぞれのメンバーの見せ場がフィーチャーされた曲だった、と思い出す。

久我さんの「タッキーカモーン」に誘われるように続く新井さんのギターソロ。
「なんて気持ちがいい日なんだ、今日は
 ちょっとお休みするけど、皆さんに楽しんでもらうのが俺たちの仕事なんだ」

⑨     瓦礫喜劇

I just can’t wait to be shining cult star
あきらめを肴にしても瓦礫まみれの轍は
Oneday Someday 続いてゆく

気持ちよさそうなギターソロ、歌詞を口ずさみながら引いているベース、それを見守る客席。
祈りの歌だ、と思う。
客ひとりひとりの手を取るように、客席に手を伸ばす久我さん。

⑩     オディセイ

「今夜一番の愛をこめて」という導入。
強いドラムとベースに、ギターのアルペジオが響く。

「影を追う?」っと問いかけたのは 未来よりも先
なぜ見ていると溢れ出す哀は 宇宙よりも先

オレンジと青紫の二色の景色。

「愛してる」と話せるようになってしまったら
追いかけるよ たゆたうことは疲れてきたから

左右の客席の壁に、ステージのメンバーたちの影が大きく映る。
ドラムセットの輪郭。楽器を操る指先。たゆたう久我さん。影絵みたいな景色。

⑪     GREAT NONSENSE

イントロに合わせて飛ぶ客席に「もっともっと」という煽りが降る。
前曲までの演出的なライティングと異なり、メンバーの顔が明るく見えるフラットな光。

ある日ドブネズミが美しくなることもある
問題は自分がそのドブネズミか ってことさ

片手を上げてジャンプする客席を見下ろして、指揮をするそぶりをする久我さん。
二番は地べたに横座りでAメロを歌う。

唯一のシャングリラ 君のシャングリラ
必死に探そうとしているものは
落としたら割れるティーカップ くらいなものかもしれない

この歌詞に暗喩されるのは、それまで十三年間日常として存在したバンドの存在そのものだろう。
当たり前に存在すると思っているものも、落としたら割れるティーカップのように
ある日突然失われるものだという示唆。
この曲の歌詞は、正直実感を伴わず、今までピンと来ていなかったのだけど、こんな活休前の最後のライブで初めてハッとさせられたということがなんていう皮肉なんだろうと思う。

彼らがここに存在したことを、見ていた私たちは記憶することができる。
彼らの描いたもの。彼らが作った十三年間。彼らが連れて行ってくれた景色。
もはや見ている側にとっても人生の一部となる大きな記憶だろう。
それを失わないように、憶えていようと思った。

⑫     ウロボロス

「盛り上がって行こう」からのイントロ入りで、客席の熱が一段階上がる。
理性と冷静さを思わずかなぐり捨てたくなる衝動。
これは、この曲を愛した期間に、私の体の中に刷り込まれた記憶だ。
理性を飛ばして、この曲を聴くことが大好きだった。
一音一音を確かめるように手を伸ばす。

いま君が左へ行くのならば 右へ行こう
必ずある合流地点

I'm swallowing for all shadow

客席に届けるような独唱。ひとりひとりに向けた「Thank you」の言葉と暗転。

「とうとう来てしまいましたという感じ、十三年
 ワンマンツアーを十一本回ってきて、あっという間だったんですけど
 各々充電期間に入るということになります。
 また戻ってくるので、悲しいものではないので、
『会えなくて淋しーい』というお嬢さんは浮気も許すから
 あ、でもジャンル違うところに行ってほしい、近いバンドじゃなくて
 帰ってくるか不安になって寂しいから」

「今日でいったんの一区切りとなります。
 お越しいただいてありがとうございます」

「ここからアコースティックを二曲やります
 長丁場だから座っちゃいなよ、こう言うと関係者が喜ぶんですよ」

⑬     萬の夜

アコギとシンバル、ベースの爪弾き。
書くか迷ったけれど、率直な意見として、初めてちゃんと書きます。
「ベースだけアンプの音圧高すぎ」です。
「ボワー」と耳に強く当たる音圧で、繊細な他パートの色をつぶしていると感じました。
ギター・ドラム・同期はすごく音のピントが合っていると感じます。

これ、さらに書くか迷ったんですけど、
アコースティックじゃなくても
これまでの通常のライブでも頻繁に起こっていて、
ベースの音圧とエコーが強すぎて
ピントの合っている他パートの音を塗りつぶして
なんなら声を張っていない状態なら久我さんの歌よりもベースが強くて
中央に在るべき歌の存在感が、意味が届く前にかき消されて
コーラス状態になっているというのが、
近年のLIPHLICHのライブで、ずっと思っていた不満でした。

声を張る・意志強く発声する歌ならば上記の問題は起きないのだけど
アコースティックのような小声やAメロのような平坦に歌う部分などで
ボーカルの存在感がかき消されるのは、いい演奏していても届かないという点ですごく大きな問題だと思っていました。
ボーカルがいる以上、歌は一番耳に届くべきだし、中央に存在すべき。
複数人がひとつの曲を描くために、協力するのがバンドの演奏のあるべき姿じゃないかなと思います。

演奏自体がいくら上手で丁寧であったとしても、他パートを塗りつぶす音バランスは、良さを届けられない要因であると思います。
私自身、熟知している昔の曲なら、多少聞き取りづらくても、自分で歌詞や内容を補完しながらついていけるものの、初見の曲や、そこまで聴き込めていない曲は、「何を言っているのか?」という意味すら掬えず、置いてきぼりになることが近年多かったように思います。
活舌や発声の問題、音数が増えたことによる情報量の多さなど要素は多くあると思うのですが、とりあえず、ベースはアンプの音圧を下げて欲しい。ベースが音圧を上げるのはヘドバンを誘引させたい状況だけに限ってほしい、というのが切実な願いでした。

LIPHLICHを支えてくれている竹田さんには恩義を感じているし、必要な人だと思います。だけどこの状況は、プレイスタイル、ベーシストとしての個性、という点で、目を瞑れないほどのものであると思うし、初見の人へ音楽の魅力が伝わりにくくなっている状況が活動休止を招いたのだとしたら、自覚するべき要素の一つにはなると思い、書こうと思いました。
少なくとも客席には、このように届いています。
こんな、失礼に当たる内容をわざわざ苦言を呈する客も、そんなにいないと思うので、不躾を承知ながら、このタイミングで書かせていただこうと思いました。

⑭     夢見る星屑

アコギアレンジで、名前の分からない打楽器のカラカラという音が新鮮に響く。

誰かが教えてくれた金の切れ目は命の切れ目

そういえば、刹那的に生きるバーレスク女優を演じる久我さんを見るのが好きだった。久我さんは女性の一人称を演じるのがとても上手だと改めて思う。
ギターの先導する転調とセリフが鮮やかに届く。

はじめから分かっていたさ
こんな夢のような日々が
永久に続くはずなんか
はじめから分かっているさ

ギターに重ねるピンスポットの久我さんのセリフは、歌中のバーレスク女優の言葉を借りた、久我さん自身の吐露だと感じた。

次の星屑に飽きるまで

激しく動き、久我さんの髪から汗が飛んで、光を反射する。
図らずも、『夢見る星屑』を体現するような情景にハッとさせられた。

「メンバー紹介します
ドラム 小林孝聡
ベース 竹田和彦
ギター 新井崇之
ボーカル 久我新悟」

⑮     ファンタジスタ

マイケルジャクソンのスリラーのような特徴的な手ぶりと耳に残るフレーズが特徴的なファンタジスタ。
七色に光るライト。歌詞は何も聴きとれない。
赤と青緑のライト。二色に染まるステージ。

⑯     Wander With Wonder

認識しているこの曲と音と雰囲気が違う、と感じる。
イントロで淫火かと色めき立ったが違った、という記憶。

月明りで転げる僕らは 風吹き 嵐が来る今夜
すでに亡者だって知るがいい 暗がりで

この曲は、どんな気持ちで受け止めたらいいのか、そもそも私は知らないのだ。

⑰     サタンの戦慄

「ご機嫌いかがですか、元気良くなってきたんじゃないの」
竹田さんのデスボが象徴的な曲。もはやボーカルよりもデスボのほうが大きい。
ライティングがまぶしくて前が向けなかった。

「楽しんでくれてますか、次はオシャレにいきます」

⑱     Aim At Apple

ピンクと青のライト。
クラシックな映画のような格好の付け方ができるバンドって、他にいくつあるだろうと思う。

⑲     月を食べたらおやすみよ

青一色の中、手を差し伸べる久我さん。

これは予感というより確信していた事柄

どうせこの後、また会えるのだし

「そして会える」のところで、小林さんがシンバルを掴んで音を止めると時間が止まるような錯覚をする。この感触も何回ライブで目にしただろう。懐かしさを覚える。

両手でマイクを上に掲げて、天を仰ぐ久我さん。

いらないものは置いていこう

ギターソロで一気に光が溢れる。背後からのオレンジの光。

贖罪みたいな曲だな、と改めて思う。
別れみたいに手を振る久我さん。
アウトロのコーラス「good night and my dear 」で続く女性名Luminousを言わないままの終曲。

⑳     ミズルミナス

19曲目の「月を食べたらおやすみよ」に呼応するミズルミナスのイントロに繋がるところで息が止まった。
曲のヒロインであるルミナスは女性ながら、久我さんの中にいる人格なんだなと改めて思う。

もしもアタシが死んだ時には、スープにして食べてよね

これは自分の存在をどんな形でもいいから、有効に残してほしい祈りだろう。

㉑ It‘s good day to anger

懐かしい、初期に頻繁に演奏されていたヘドバン曲だ。この曲で頭を振るのが好きだった。
客席を見回すとヘドバンへの近年まれにみるほどの参加率。
二番のAメロの歌を丸飛ばししたのはご愛敬。
ジャンプするところからの再入で、曲はカウントダウンへ向かう。

Final countdown tick tack

このフレーズを書いたときには、こんな状況で歌うことになるとは思っていなかったんじゃないかと思う。

㉒ MANIC PIXIE

ヘドバンの海になる客席を見下ろす久我さん。
ひとりひとりに手を伸ばして歌う。

「最高の気分です、ありがとう」

㉓ 三千世界

ミラーボールが反射した光の粒が、会場を白く染める。
白と黒の世界。

僕らの中の赤い河は 唯流れている
三千世界 美しくあれ

㉔ ケレン機関車

蘇生するこの命の使い方は ケレン気へと

「愛してます」
「ありがとう、アイラビュー」
新井さんも演奏を続けながら、「ありがとう」と一人一人の顔を見て呟き続けている。
拍手に飲まれる終曲。ゴールドの光。

暗転からのアンコール待ち、しばらく経っての再登場

久我さん
「アンコールありがとー!
 淋しい気持ちもあるけど最高です
 時間は早く過ぎるね
 さっきお伝えした通り、戻ってきますので何卒何卒
 今日はとても大事な一日だと思う
 今日があってよかったという日にしたい
 言葉よりも曲でやってきたけれど」

小林さん
「来ていただいてありがとうございます
 今日は半分淋しい、半分楽しみという気持ちでした
 NNNツアー各地で、ファンの人に愛を受け取ってもらおうと思ってたのが
 逆に投げ返されるほうが多くて、こんなにいいバンドだったんだと改めて驚きました
 今日は愛をぶつけに来ました。楽しかったです。
 戻ってくるまで心の片隅に置いといてください」

竹田さん
「ありがとうございました!
 大きなトラブルなく完走できてよかったです
 五年前の二月にサポートに入ったんですけど、バンド楽しいなって思えました
 このツアーが一番楽しかったです。
 今日も時間の限り演奏するので楽しんで帰ってください」

新井さん
「納得いかなくて、どういう顔してみんなの前に立てばいいのか
わからないままの今日になりました
でも、みんないい顔をしていて、リフリッチが愛されていること
やってきたことを実感させてもらいました
ファイナル、複雑だな
みんなの楽しむ顔を見られるのは幸せな人生です
心配しつつ支えてくれた新井家の皆様、
他にもたくさんギタリストは居るのに選んでくれたメーカーさん、
選んでくれてありがとうございました
何よりもみんなに、リフリッチに夢を見せてくれてありがとう
皆の連れてきてくれた場所なんです、ホールもラジオ出演も、テレビ出演も
宝物です。ありがとう、本当に
また会いましょう」

久我さん
「同じことの繰り返しになっちゃうからあれだけど
 十三年やってきて、
『リフリッチは解散しないし活休もしない』
 と宣言したのは赤坂ブリッツだったかなと思います。
 三年目くらいのギラギラしてやる気にあふれた時期。
 この自分の言葉は励みになり、呪いになり、足枷にもなり、
 でも続けることができたのはこの言葉の魔力だと思います
 十三年やってきて続けたいのに、約束を守れなかったことは考えないことにしました
 僕にとってリフリッチは人生なので、できなくなるまでは
健康に気を付けて待っててほしいなと思います。
先のことは未定だけど、時間もできるので久我新悟でソロをやろうと思っています。
バンドを守ること、淋しくさせたくないというのが理由です」

アンコール① リインカーネーション

「リインカーネーション、心を込めて」

さあ繰り返そう 永久の世界

久我さんに三本のピンスポット。
客席を見ながら胸を叩く。

優しい嘘がいい

ぼくはきっと変わらない
そしてなにもかも全部 愛してると言えるように行け

ギターソロ中、宣誓するように左腕を掲げる久我さん。
久我さんがステージ中央に立つ。このことで
この曲を、バンドを象徴する存在であることの説得力を感じた。

アンコール② Fleuret

もっと良いところへ

ゴールドの光が満ちるステージ。

とらわれてなんていないよ Take this hand

アンコール③ リップヴァンウィンクル

やりたいことをやるだけさ

「昨日よりかっこいい、常に今一番かっこいいギタリスト、新井崇之」
久我さんの紹介によりギターソロ

「来てくれてありがとう、こんな不確かな世界でも」

アンコール④ 墜落艶歌

アウトロのドラムソロを祈るような気持ちで見る。
「また会う日まで、ごきげんよう」

終曲後、四人並んで久我さんがマイクなしで会場に叫ぶ。
「最初のほうから見てくれている人も、途中から見てくれている人も、また会いましょう
 今日はどうもありがとう」
四人並んで、手を握り合わせて上に掲げる。

ダブルアンコールで再度呼び戻され

アンコール⑤ 夜間避行

「約束だよ、また会いましょう」
ミラーボールで周回する光の粒。
ギターは下手に、ベースが上手に、ボーカルはドラム背後に。

やがては 夢の最果て

のあと久我さんから「一緒に歌おうよ」と客席にマイクが向けられての合唱

さあ この夜 飛び続けよう 追い越す星空
さあ この夜 走り抜けよう 流れる夜空

「またね」の言葉と長いお辞儀。長い手振り。
新井さんはパーカーを客席に投げて退場。
客電が付き、本日の終演がアナウンスされた。

近年は疎かになってしまっていたものの、彼らを2011年から見てきた立場として、活動休止はライブが終わって数日たった今になっても、正直ピンと来ていない。

ただ、久我さんは言葉への責任感がある人だということ。
彼らが今までの活動を、作品を、時間を、大切に誇りに思っているということ。
それは私自身の人生の一部として、誇りに思うところでもある。

人生は長いので、どうにでもなる可能性があって、これからの選択一つ一つで、想像より早い再始動も、ソロでの新しい活動も、それを踏まえた未来の姿も、全て今は可能性があると思う。

でも久我さんは、言葉に責任を持つ人だ。
「嘆かなくていいよ、戻ってくるから」という言葉に呪われ、支えられ、新しいものを見せてくれると、思っている。
これは、彼らのことを信頼していると言っていいのだと思う。

自由に、思う様に、新しいものを見せてくれるのを楽しみにしています。
ただこれだけである。あとは健康でいてください。応援してます。
「LIPHLICHがそのうち武道館に連れてってくれる」ってのも、別に期限はきらないので、いまだに私は全然実現可能な通過点であると思っている。

追記


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