鉱石の玉手箱(5) 古崎真帆

オニキス(黒縞瑪瑙)

その中に
乳白色の甘い記憶を
幾重にも抱え込んでいながら
輝きを強くはね返す「黒」であり続ける

オニキスを素肌に付ける時
その「黒」は
いつも誰かに いつも何かに 
守られていることを思い出させてくれる

それが内側からなのか外側からなのかは/わからないけれど・・・

ルチルシトリン 未研磨

子ども達のはしゃぐ声
真夏の天気雨
乾杯のスパークリングワイン
湖面を渡るさざ波
手から離れる線香花火の小さな雷

時を止める魔法があるなら
たとえそれを使わなくても
使ったとしたら・・・と考えるだけで
幸せでいられるかもしれない

水晶球

誰かいるの?
何か聞こえるの?

壁に映る光の粒につつまれていると
中から私を呼ぶ影がある

手の中の宇宙
胸の中に植えた愛の種

ジャックの豆の木のように
雲を突き破って
天へと昇る君の羽音

ルチルスモーキー水晶

見えないほどの かすかな雨なのに
あなたの声が届かない
しずくにもならないほどのこまかい秋雨が
わたしの心を湿らせる

この体は重すぎて
手間が掛かりすぎて
ときどき
どこかに埋めてしまいたくなる

クラック水晶

時雨れて久しい草叢に立ち
まぶたを打ち震わせている旅人よ

みぞれ交じりの風が
張り詰めた空気の中では
ほのかに甘く暖かいことに気付く頃

煌めきながら天よりもたらされる恵みは
あなたの息を透き通る柱に変える