鉱石の玉手箱(3) 古崎真帆

チャロアイト

美しい毛並をうねらせて
紫色のライオンが
道のまんなかに眠っている

腹を大地に預け
ふくよかな呼吸にたてがみを揺らして
道の先にある豊穣の時を
夢見ている

しばしここに憩おう
目覚めの時を待ち 共に歩もう
深く閉ざされた瞳に
再び金色の光が差し込むとき

私の重荷もまた
新たな価値を帯びるであろうから

ネガティブ水晶

両剣の精巧な切っ先をのびやかに見せて
水泡のきらめきを身にまとった水晶が
「刻の標本」のように
水晶の中に浮かんでいる

幾千の虹をくぐりぬけて
幾万の闇を切り裂いて

どこに私を連れて行くのか
流星に白く濡れる
小さな宇宙船よ

ロシアンクォーツ

私は私でいるのがひどく苦痛で
ときどき理不尽な悪夢の中で
幾度刺しても生き返る私の分身に
「次はお前の番だろう」と懇願しては
「お前が私なら既に充分なはず」と
あざ笑われて目が醒める

守り抜くことだけが運命だという声を聴き
全身全霊をかけて溜め込んでいくうちに
いよいよ実体を認識できず
それでいて何が苦しいのだ 私よ/限りなく幸福な私よ

遠雷は影も落とさず 暮色の大地に響き渡る

遠い北の国からもたらされし 我が女神よ
信じる自分が「ここに」あるならば偶像でもかまわない

記憶の中の最初の光よ
永遠へと向かう最後の闇よ
その間を統べる白き女神よ

ラブラドライト

深い森の入り口で
ゆっくりとはばたく黒い蝶は
鱗粉を虹色に輝かせて
かすかな風に乗り
谷間の清流へと下っていく

手を伸ばせば その指に止まるかに見せて
ひらりと身をかわし/流れの源へと

水のにおいを追ってゆくと
岩から染み出す光の跡
そのきらめきに憑かれたかのように
蝶はそこから微動だにしない

そっと触れれば 転げ落ちる切片に
確かに映る 蝶の影

レインボー水晶

白い光の迷宮の扉を開く

虹は色をかえ形をかえて
数歩先に現れるので
天地左右を自在に走り抜けていくと
真夏の朝のテラスに出た

脚下に広がる庭園のそこここで
くすくすと笑う懐かしき者たち
鼻腔をくすぐる薔薇の香り

一番大きな虹は 噴水の上に
高らかなアーチを描いている!