鉱石の玉手箱(4) 古崎真帆

琥珀

とろりとろりと 眠たい午後は
琥珀の中の虫のように
肢体を伸ばし
甘い香に閉じこもって

生まれる前にみた夢の続きを
思い出せそうな気がする

黒曜石

鏡面の奥を覗いていると
波が湧き出て広がって見えるのは

引き寄せられているから?/押し返されているから?

一つ眼なのは真実を見極めるためなのだが
実は裏側に眠る瞳を隠している

毛糸(ラン)水晶

遠い国へと旅立つ鳥が
走り抜ける水面から よい香りの飛沫を上げるように

全ての力は均衡を保つように働きかけるので

強く曳けば解けてしまう毛糸のような「頼みの綱」を
夢をつなぐ術(すべ)として水晶に閉じ込めて

一瞬を永遠に味わい尽くし
永遠から一瞬を抽出するための 指導書としたが

さやさやと流れる気が
今にもあふれ出しそうにきらめいている

セレナイト

月の光は月の影

夜道をひとり歩くときは
足元によく気をつけて!

影を持たぬものに誘われても
影だけをとどめているものに引き戻されても
月を見失わないように

その上 月は満ち欠けするのだから
自分の影法師を逃がさぬように
思考と感情を走査(スキャン)して

ポケットのセレナイトをしっかりと握りしめて

ヘミモルファイト

いつか高く昇っていく日に
地に残すものへの愛しさは

薄雲のかかった空を映す海のような
こんな穏やかな色に染まったこころだろうか