鉱石の玉手箱(6) 古崎真帆

クラック水晶

時雨れて久しい草叢に立ち
まぶたを打ち震わせている旅人よ

みぞれ交じりの風が
張り詰めた空気の中では
ほのかに甘く暖かいことに気付く頃

煌めきながら天よりもたらされる恵みは
あなたの息を透き通る柱に変える

ブルーフローライト

未来都市?
情報のつまったチップの山?
つい口にしたくなる透明な小箱
飲み込んでしまったら
長い時間を掛けて溶けていくのだろうか

夜中にほのかに光る体を手に入れて
自分をしっかりと抱きしめてあげたい

水晶卵

叩けば崩れてしまう
危うい永遠の中で
息づく命
声も上げずに身を屈めて
それでも
幾重にも張り巡らされた天幕の中で
とろりと寝返りをうったりしながら

ノックの音と共に
世界へと目覚める時を待っている

カーネリアン

そんなにシリアスにならないで
もっと楽しもう

ささいなことは
笑い飛ばそう 

キャンディーを口の中で
ころりところがすように
ひっくり返しているうちに消えている
そんなわだかまりもあるよ

元気を出して!

スモーキールチル(息吹)

春のまだなんとなく薄暗い水の底で
鏡のかけらが輝いている

草の綿毛がかすかな風の行方を示す
かなたへ かなたへと

雪解けの進む山並みがぽっかりと空に浮かび
もっとゆっくり呼吸していいのだと
なにもかも抱えたままでも先に進めるのだと
私の背中をそっと押してくれる