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「呪術廻戦・休載」の背後にある「連載のスピード感」とは

【週間連載のスピード感】

ヤンサンでも解説した「呪術廻戦」の休載が決まったらしい。

休載の理由を作者の芥見下々先生が報告した文章の中に「私自身が週刊連載のスピード感のない呪術廻戦に魅力を感じない」「早く完結まで描いてしまいたい」とあった。

この「週間連載のスピード感のない」という言い回しは週刊連載での経験がない人達には分かり難いと思う。

わずか7日で20ページ前後の漫画を毎週描く、という恐ろしいスピードで制作されているのに「スピード感がない」などと言われても意味がわからないのが普通だろう。

でもこれは大ヒットの長期連載に馴染みのある人達ならなんとなくわかると思う。

確実に売れる漫画には可能な限り(作者の限界を超えてでも)続けて欲しいのが編集部の本音だ。

それくらい「大ヒット」を生み出す事は難しく、毎シーズン伸び悩んでいる連載を何本か打ち切って大ヒット狙いの企画を作って新連載攻勢を打ち続けても「大ヒット」は中々生まれない。

なので「確実に売れる漫画」が連載中であれば何としてでも「続けさせたい」のだ。

そこで起こるのが演出による「水増し」だ。
単行本の最後に「続きが読みたい」と思わせる「引き」の展開を設定して、あとはそこに向けて予定の話数を埋める、という連載が始まってしまう事があるのだ。

強調しておきたいのは、全ての長期連載漫画がこうなっているわけではないという事。

ジョジョの様に「章立て連載」にする事で水増しを回避している漫画家さんもいる。

「呪術廻戦」にしても定番になっている「水増し演出」がされているというわけではないと思う。

「そうなっていく事」を避けたくて休載に踏み切ったのだと思うのだ。

彼のように避けたいと思っていても、近年の漫画では「水増し連載」の傾向は確実にあって、連載中に「人気が出た展開」は止めさせてもらえなくなるケースも出てくる。

そうなると「この話は描き切ったから次の話に行きたい」と思っても描けない上に「物語の緊張感」を維持するのも苦しくなっていく。

読者の方も「最初の頃よりも新鮮さがない」と思うだろうし、そういう批判が作者に届く事もあるだろう。

そんな「水増しコンテンツ」が増えれば「倍速で読む」「倍速で観る」なんて人達が現れるのも当然だろう。

今回のヤンサンの後半(終了間際)に僕が話していたのはこの話だ。

作り手はあの手この手で「この後どうなるか気になる引き」を繰り出して延々と続ける上に「結論(終わり)」を中々見せてくれない。

「早送りをやめろ」と言われても困ると思う。


【冬の覚悟】

そんな週刊連載の現場で働く人達にも「漫画愛」はある。

彼らだってわずか5巻で完結した「デビルマン」の偉大さを知っているだろうし、長期連載でパワーを失っていく今の漫画を見るのは本意ではないはずだ。

編集者達も本心では漫画家に描きたいものを描かせてあげたいし、終わらせたい漫画は終わらせてあげたいと思っていると思う。

ではなぜそれができないのか?

漫画産業は長い時間をかけて「漫画雑誌を毎週買うこと」を日本人の習慣の1つにした。
そのために「手塚、石ノ森」から「あだち、高橋、鳥山、尾田」と、引き継いで今に至る。

幸い「紙から電子へ」の激動期は乗り切ったものの、サブスク戦国時代に入り相変わらずライバルは多い。

出版社が今の人気連載を作者の希望通りに終わらせたら今の媒体から読者は離れ「漫画を読む習慣」がいよいよ危険になってくる。

1度ファンが離れたジャンルが盛り返すのは大変なのだ。

なので漫画業界は連載中の人気漫画家を酷使するのをやめられないのだ。


とはいえ「冬の到来」を覚悟してでも「今までのやり方」は見直す時期に来たのだと思う。才気あふれる若手漫画家も沢山現れているの今がチャンスだろう。

今まで多くの漫画が工業化された社会の中で道具の様に扱われる人間を「我々はロボットではない」と描いてきた。

言い尽くされたテーマだ。

なのに未だに漫画家が人間あつかいされないのはおかしいだろう。


今週のラジオは「バグラビ」星野源になる方法(後編)
https://audee.jp/voice/show/31662

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