空白の清算

友達が帰ってきた。

一年以上前に、突然何も言わずにグループから抜け出した友達が、フラっと帰ってきた。

心の整理もつけたいので、書いていこうと思う。

友達Aとは大学の頃出会った。入学したての頃、友達を作らないといけないという使命感に駆られ、席が近く同姓だったという点のみで話しかけたのがきっかけだった。

そのAから友達の輪が少し広がり、いわゆるいつメンが完成できた。

いつメンは結果からすると「だらけた姿も晒せる、下手に気遣い続ける必要がない」という居心地のいい集団になった。お互いそれを有り難がっている節があり、まあ、今もその関係は変わらず続いている。

お互い抱えているオタクの癖や好きなものは違う。それでも話は半分ほど聞いてくれて、何か困ったら手を貸してくれる。いつもありがとう。これからもよろしくな。

Aはそんなグループで比較的私と波長が合った。二人組み作ってとなったら、Aとだいたいなっていた気がする。

大学を卒業して、Aは環境の都合で遠くへ引っ越した。気軽に会えなくなりネットでのやり取りが増えた。普段からSNSで駄弁っているようなものだったし、今の時代そういう距離感が当たり前なので特に遠くへ行ったと思ってはいなかった。よく戻ってきていたし。

なんの変哲もない日々が続いていたが、ある日急にSNSからAがいなくなった。Twitterもインスタもアカウントがない、LINEグループからも消えている。

あまりに突然だったので残った私たちは嫌な汗を滲ませていた。私だけ、Aの身内ともSNSで繋がっていたので、話を聞いた。

曰く、「精神的に疲弊してて居心地の悪さを感じたから距離を置きたいんだと思う。そのうちフラっと戻ると思う」とのこと。

確かにあの頃はA以外が奇跡的に同じジャンルで盛り上がっており、その輪に入りきれていない節があったのは分かっていた。ただ、それは今に始まったことじゃないし、お互い普段どおりでいたつもりだった。

ただ、そういった思い当たることはまあまああったのである程度納得できた。

身内の言葉をそのままグループに伝え、「まあ、いずれ戻ってくるでしょう」と話を切り上げた。

そこからは普段どおりの生活に戻った。今ここにいない、去っていった人を追いかける必要はあまりないし、気に病んだところでAが帰ってくるわけでもなかったから。

それでも私は定期的にAのことを思い出していた。二人だけで旅行に行ったり、よくつるんでいた相手なのだから当たり前だろう。

そんな日々を半年ほどすごしていた頃、SNSであるアカウントを偶然見つけた。Aが好きだったジャンルの二次創作企画アカウントで、なんとなく、ほんの些細な好奇心でフォロー欄を見てみた。

新着のフォロー欄に見覚えのある顔のアイコンを見つけたとき、肝が冷えた。

アイコンの画像、プロフィールからAであることは容易に察せられた。「あ、SNSまだやってるのか」と思い近況を知ろうとホームへ飛んで手が止まった。

すでに私のアカウントはブロックされていた。

「は?ブロックしてんの?なんで?」とイラつきながら別のアカウントで覗こうとするとそちらもブロックされていた。

私はそこで、Aを完全に見限った。

「そういうこと」なんだと思い、今なにしてるのかなとか思っていた自分が嫌になった。向こうは完全に縁を切っていたのだ。

私はAと繋がっている他のコミュニケーションツールなんかでも繋がっていたAをブロックしまくった。気分がスッキリしただけで何も残らなかった。

この出来事をグループで話したことはない。話しても嫌な気分にさせるだけだし、もしAの話題になった時があったら話そうと思って心にしまっていた。だから、他の友達も同様にブロックされていたかとかは分からない。

そんなAが、少し前に帰ってきたのだ。なんの前触れもなく、メンバー全員をあのアカウントでフォローしていた。

見ると私もフォローされていた。

あのときの私の感情ほどうまく表現できるものはないと思う。

私は感情屋なので戻ってきてくれた事実に泣きそうになってしまった。あんだけ嫌いになって縁を切ってきたから切り返した相手に対し「戻ってきてくれてよかった」と思ってしまった辺り、憎みきれていなかったのかもしれない。

ほかの友達もおかえりと歓迎し、Aはまた私たちのグループに帰ってきた。

「心配かけた」とも、「ごめん」とも、「もう大丈夫」とも、Aはその一切を言わなかった。

私はいまでも、そのことでモヤモヤとしている。

私たちはもういい年なので、そういう言葉はきっと不要なんだろう。でも、それは今の話で、私たちが培ってきた年月は紛れもない本物だ。

そこに言葉がいらないのだとしても、私はなにか言ってほしかった。

なかなか、受け入れ切れていない。私だけAと変な距離ができてしまっている気がする。

他の友達はもうこれまでもAがいたかのように堀を埋めていた。自分からグループを抜け出したAなんていなかったかのように振舞う光景に、私は少し恐ろしさを感じている。

みんな、よくそんな何事もなかったかのように接していられるなと思う。人間とは本当に恐ろしい生き物だ。

Aが帰ってきてうれしいけど、このまま受け入れてしまっていいのかとブレーキをかける自分がいる。

誰にも「Aが帰ってきてどう思う?」なんていえない。みんなそれを飲み込んで、Aを迎え入れたのだから。

私は、子供なのだろうか。


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